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本編
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しおりを挟む「残念だったが、ずっと惚れてる相手がいる。お前達と遊ぶのはなしだ」
女性たちが残念そうに悲鳴をあげていた。
(ずっと惚れている相手……)
心臓がドキンと跳ねた。
まさかとは思った。
(でも、私のはずはない…)
だって、私は振られたのだから。
その時――。
「ルイーズ、見てないで出て来い」
ギルフォードが声を掛けてきた。
(ギルに気づかれてた……!)
どこからだろう。
店内に逃げようとすると、後ろから抱きしめられた。
「……迎えに来てやったぞ、ルイーズ」
ふわりと甘い香りがする。
彼の手には一輪の薔薇。
耳元で色香のある声音が響いて、心臓が落ち着かなくなる。
逞しい胸板を背に感じた。
「ギル! ちょっと、まだ仕事中で……!」
真っ赤になりながら抗議してしまう。
「もう上りだろう? なあ、おば――マダムモリスン」
近くにいたマダムモリスンが、うんうんと頷いていた。
「確かにそうかもしれないけれど、そういう問題じゃなくって……!」
ギルフォードが耳元で囁いてきた。
「ルイーズ、嘘だってバレるぞ……」
「……っ……」
仕方ない。
口ごもりながら続ける。
「む、む、む、迎えに来てくれて……ありがとう……」
(顔が赤いのがバレちゃう……!)
だが、なぜか唆してきたギルフォードの方が、今度は黙る。
ふと振り仰いでみれば、彼は顔を真っ赤にしているではないか。
(なんで、このタイミングでギルまで顔が赤くなってるのよ……!)
ますます恥ずかしくなってしまった。
「喧嘩するほど仲が良い。兄貴に比べたら父親には似なかったが……ギルも大概だねぇ。逐一ルイーズちゃんの動向を――むぐっ……!」
何かを言おうとしたマダムモリスンの口を、ギルフォードの伸びた手が塞いだ。
私を抱きかかえたまま……器用である。
「なあ、おばさん――じゃなくて、マダムモリスン、新しい製菓の機械がほしいんだろう? 親父と別に出資する」
彼女はにこにこして以降、だんまりになった。
「この格好も良いが……ほら、着替えて帰るぞ。寄るところがあるんだ、ルイーズ」
「寄るところ? どこなの?」
「――結婚式場の教会だ」
「え!?」
結果、皆の歓声を浴びながら、仕事場である菓子店を後にすることになったのだ。
ギルフォードに手を引かれて歩く。
着替え終わった後も、取り巻きの女性達が残っていた。彼女らの会話がたまたま耳に届いた。
「あれだけ派手にフラれたのに……」
(私のこと――?)
噂になっていたのは知っていたが、やはり、具合が悪い。
少しだけ落ち込みながら歩いていると――。
「仕方ないよ、ルイーズ先輩相手じゃ。可愛いし、頭も良くて、お菓子作れるお嬢様とかめったにいないもん」
批判ではなさそうだが、声が小さくて聞こえづらい。
「やっぱり、どんなに振られても、ギルフォード先輩はずっとルイーズ先輩のこと――」
(その言い方だとまるで――)
だが、雑踏の音で、以降は何も聴こえなくなったのだ。
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