【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

おうぎまちこ(あきたこまち)

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「残念だったが、ずっと惚れてる相手がいる。お前達と遊ぶのはなしだ」


 女性たちが残念そうに悲鳴をあげていた。

(ずっと惚れている相手……)

 心臓がドキンと跳ねた。
 まさかとは思った。

(でも、私のはずはない…)

 だって、私は振られたのだから。

 その時――。

「ルイーズ、見てないで出て来い」

 ギルフォードが声を掛けてきた。

(ギルに気づかれてた……!)

 どこからだろう。

 店内に逃げようとすると、後ろから抱きしめられた。

「……迎えに来てやったぞ、ルイーズ」

 ふわりと甘い香りがする。
 彼の手には一輪の薔薇。
 耳元で色香のある声音が響いて、心臓が落ち着かなくなる。
 逞しい胸板を背に感じた。

「ギル! ちょっと、まだ仕事中で……!」

 真っ赤になりながら抗議してしまう。

「もう上りだろう? なあ、おば――マダムモリスン」

 近くにいたマダムモリスンが、うんうんと頷いていた。

「確かにそうかもしれないけれど、そういう問題じゃなくって……!」

 ギルフォードが耳元で囁いてきた。

「ルイーズ、嘘だってバレるぞ……」

「……っ……」

 仕方ない。
 口ごもりながら続ける。

「む、む、む、迎えに来てくれて……ありがとう……」

(顔が赤いのがバレちゃう……!)

 だが、なぜか唆してきたギルフォードの方が、今度は黙る。
 ふと振り仰いでみれば、彼は顔を真っ赤にしているではないか。

(なんで、このタイミングでギルまで顔が赤くなってるのよ……!)

 ますます恥ずかしくなってしまった。

「喧嘩するほど仲が良い。兄貴に比べたら父親には似なかったが……ギルも大概だねぇ。逐一ルイーズちゃんの動向を――むぐっ……!」

 何かを言おうとしたマダムモリスンの口を、ギルフォードの伸びた手が塞いだ。
 私を抱きかかえたまま……器用である。

「なあ、おばさん――じゃなくて、マダムモリスン、新しい製菓の機械がほしいんだろう? 親父と別に出資する」

 彼女はにこにこして以降、だんまりになった。

「この格好も良いが……ほら、着替えて帰るぞ。寄るところがあるんだ、ルイーズ」

「寄るところ? どこなの?」

「――結婚式場の教会だ」

「え!?」

 結果、皆の歓声を浴びながら、仕事場である菓子店を後にすることになったのだ。
 ギルフォードに手を引かれて歩く。
 着替え終わった後も、取り巻きの女性達が残っていた。彼女らの会話がたまたま耳に届いた。

「あれだけ派手にフラれたのに……」

(私のこと――?)

 噂になっていたのは知っていたが、やはり、具合が悪い。
 少しだけ落ち込みながら歩いていると――。

「仕方ないよ、ルイーズ先輩相手じゃ。可愛いし、頭も良くて、お菓子作れるお嬢様とかめったにいないもん」

 批判ではなさそうだが、声が小さくて聞こえづらい。

「やっぱり、どんなに振られても、ギルフォード先輩はずっとルイーズ先輩のこと――」

(その言い方だとまるで――)

 だが、雑踏の音で、以降は何も聴こえなくなったのだ。


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