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本編
17※
しおりを挟む馬車や車も所持しているギルフォードだが、歩いて教会に向かう。
二人して並んで帰ったが、長身で美形の彼が目だってしょうがない。
道行く老若男女が一様に彼の方を見ていた。
(昔から、ギルと一緒だと皆が見てくるわね……それにしても、後輩たちの話……)
彼女達の話しぶりだと、まるで振ったのは自分のような言い回しだった。
(……あの場面だけ見た人からしたら、私が振って見えたの……?)
少しだけ距離をとって歩いていたギルフォードが声を掛けてきた。
「ほら、ルイーズ、手」
差し出され、彼の手に手を重ねた。
ドキドキしている内に教会にたどりつく。
気付けば夕暮れ時。
「教会、懐かしいわね」
「そうだな……」
「一応来たけど、本当に式を上げるわけじゃないし、帰りましょうか」
話の途中、ギルフォードが私の手をぐいっと引っ張ってきた。
「ルイーズ、こっちだ」
連れて行かれたのは、敷地内の花園だった。
東屋についたかと思うと、彼が木の椅子に座る。
ギルフォードが意地の悪い笑みを浮かべた。
「乗れよ」
「は?」
「俺の上に」
「何言って……!?」
強引に引っ張られ、ギルフォードの膝の上に、ちょこんと乗せられた。
幸い夕暮れ時で、人はいない。
「ルイーズに一応、謝りたいことがある」
何だろか。
(卒業前の話……?)
だけど、全然違った。
「お前が、キスさえ初めてだなんて知らなかったから、わりと雑になった」
「今更、別に良いわよ……小さい頃にギルとしてるし……仕事ばっかりしてたから、本当に何も良い話がなかったのよ。そうじゃなかったら、貴方に婚約者役なんて頼んでないもの」
話途中、突然、彼が後ろから、首筋に顔を埋めてきた。
彼の唇が肌を這いはじめる。
「……んっ……」
ぞくぞくした感覚が身体を駆け抜けた。
「ギル……外……」
「……関係ないな……」
柔らかな感触に、体に甘い痺れが走る。
再会してたった数日だ。
なのに、彼のことを振りほどけそうにない。
「……っ……」
(私はこのままギルと……)
身体だけ結ばれて、心までほしくなりはしないだろうか?
(演技の報酬なのに……)
「ルイーズからは甘い香りがするな……」
「それは、仕事で菓子を作ってるからで……」
その時、ふと過去の映像が頭をよぎった。
『ルイーズ・フォード。お前みたいな菓子作りに励む侯爵令嬢じゃあ、誰も嫁にもらってはくれないだろうな』
慌てて彼を制した。
「ごめんなさい……」
「急にどうした?」
「菓子作りに励むような女と恋人のふりをするなんて、嘘でも嫌よね……やっぱり今からでも、お父様たちに謝って許してもらって……」
言い訳だ。
「待て、それでどうする? 好きでもない男と見合いするつもりか? 好きな仕事だから、辞めたくないんじゃなかったのか?」
思わず震えた。
「仕事は辞めたくないわ……だけど――怖いのよ……」
「何が?」
これ以上触れられて、ますますギルフォードを忘れられなくなって苦しくなるのが――。
「演技を続けて……またフラレて傷つくのが……」
ぱっと俯く。
「ルイーズ。ここに連れてきたのは、お前にそんな顔をさせたかったんじゃない……キスからやり直しだ。ほら、こっち向け……」
顔を上向かせられると、彼の唇が触れてくる。
強引じゃなくて、優しいキス……。
「……ギルっ……」
しばらく見つめ合っていると、次は深く口付けられた。
吐息が混ざる。
「ルイーズ、お前からは、甘い……菓子の味がするな……」
「は……」
また何度も口付けられてしまう。
彼が私の髪を梳きながら続けてきた。
「なあ、お前が不安なら、もう演技なんて辞めちまうか?」
「ギル……?」
「お前みたいに仕事に打ち込む女を振るような見る目のない男なんて忘れろ……」
宝石のように綺麗な蒼い瞳に、いつになく熱が宿っている。
彼の大きな手が、背を撫でてきて落ち着かない。
ギルフォードの吐息がやけに熱くて、頭がクラクラする。
「俺にしておけよ、ルイーズ……」
花びらがひらひら舞う中、口付けを深めながら、彼に身を委ねたのだった。
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