【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
22 / 71
本編

22

しおりを挟む



 社交パーティにて。
 シャンデリアがキラキラ輝く中、彼の選んでくれた綺麗な紅いドレスをまとった。
 煌びやかな貴族の世界などまっぴらごめんだと思っていたというのに、彼に妻になると紹介されるとひどく幸せだった。
 ガヤガヤとした中、商談相手だろうか――老紳士に呼ばれ――ギルフォードが席を外すことになった。ちょうど手巾を彼が落としたので届けに向かう。
 話を聞くつもりはなかったが、小部屋に入室しようとすると、二人の会話が耳に届いた。

(宝石商……?)

「グリフィス様、準備していた婚約指輪は渡せましたか?」

 ドキンと心臓が跳ね上がる。
 思わず貰った婚約指輪に触れた。

(ギルフォードの新居にあった指輪。婚約者の演技を頼んですぐに貰った……いつ準備したのだろうと思っていたけれど……)

 元々用意していないと渡せるタイミングではなかったと今にしては思う。

(ギルは何も言わなかったけれど、やっぱり元々私にプロポーズをしようとしてくれていた?)

 すごく都合の良い考えだとは思っている。
 だけど、そう思えば辻褄が合うのも事実なのだ。
 その時、ギルフォードが思いがけないことを口にした。


「いいや、まだ渡せていない……」


 まだ――?

(私が今つけているのは、単純にただの贈り物ということ?)

 婚約指輪のつもりではないということだろうか。
 
 宝石商が続ける。

「おや? まだなんですか? 綺麗なサファイアでしたもんね、あんなに綺麗なものは、あまり見かけない。ずっと好きだった女性にプロポーズに行くと張り切っていらっしゃいませんでしたか?」

 ――サファイア。
 心臓がドクンと鳴った。
 私がもらったのはエメラルドだ。

「ああ、ルイーズには別の婚約指輪を渡したよ。もうサファイアの方を渡す必要はなくなったんだ」

(婚約指輪、どうして二つも準備していたの?)

 次のギルフォードの言葉に衝撃を受ける。

「まあ、元々フラれて勝機のない女性だった……。たまたまプロポーズ前の予行演習にと近所をうろついてたら、まさか屋敷から飛び出してきた幼馴染のルイーズと婚約することになったがな……だいぶ計画が狂ったが、こういう博打みたいな人生も悪くはないと今では思ってる」

 頭をガツンと殴られたような気分になる。

(薔薇を持って行ってたのは……じゃあ、私じゃなくて、別の女性にだったの?)

 指輪も別の女性に渡そうとして――。

 絶望で、足元がガラガラと崩れていくような気がした。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...