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本編
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しおりを挟む社交パーティにて。
シャンデリアがキラキラ輝く中、彼の選んでくれた綺麗な紅いドレスをまとった。
煌びやかな貴族の世界などまっぴらごめんだと思っていたというのに、彼に妻になると紹介されるとひどく幸せだった。
ガヤガヤとした中、商談相手だろうか――老紳士に呼ばれ――ギルフォードが席を外すことになった。ちょうど手巾を彼が落としたので届けに向かう。
話を聞くつもりはなかったが、小部屋に入室しようとすると、二人の会話が耳に届いた。
(宝石商……?)
「グリフィス様、準備していた婚約指輪は渡せましたか?」
ドキンと心臓が跳ね上がる。
思わず貰った婚約指輪に触れた。
(ギルフォードの新居にあった指輪。婚約者の演技を頼んですぐに貰った……いつ準備したのだろうと思っていたけれど……)
元々用意していないと渡せるタイミングではなかったと今にしては思う。
(ギルは何も言わなかったけれど、やっぱり元々私にプロポーズをしようとしてくれていた?)
すごく都合の良い考えだとは思っている。
だけど、そう思えば辻褄が合うのも事実なのだ。
その時、ギルフォードが思いがけないことを口にした。
「いいや、まだ渡せていない……」
まだ――?
(私が今つけているのは、単純にただの贈り物ということ?)
婚約指輪のつもりではないということだろうか。
宝石商が続ける。
「おや? まだなんですか? 綺麗なサファイアでしたもんね、あんなに綺麗なものは、あまり見かけない。ずっと好きだった女性にプロポーズに行くと張り切っていらっしゃいませんでしたか?」
――サファイア。
心臓がドクンと鳴った。
私がもらったのはエメラルドだ。
「ああ、ルイーズには別の婚約指輪を渡したよ。もうサファイアの方を渡す必要はなくなったんだ」
(婚約指輪、どうして二つも準備していたの?)
次のギルフォードの言葉に衝撃を受ける。
「まあ、元々フラれて勝機のない女性だった……。たまたまプロポーズ前の予行演習にと近所をうろついてたら、まさか屋敷から飛び出してきた幼馴染のルイーズと婚約することになったがな……だいぶ計画が狂ったが、こういう博打みたいな人生も悪くはないと今では思ってる」
頭をガツンと殴られたような気分になる。
(薔薇を持って行ってたのは……じゃあ、私じゃなくて、別の女性にだったの?)
指輪も別の女性に渡そうとして――。
絶望で、足元がガラガラと崩れていくような気がした。
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