【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
25 / 71
本編

25

しおりを挟む



 しばらく実家に滞在することになった。もちろん職場にも一人で通った。
 私の父は喜んでいたけれど、母は心配していた。

 パーティから数日経った、とある休日のこと。
 外ではシトシトと雨が降っている。
 私はベッドの上で枕を抱えて突っ伏していた。

(気持ちが上がらない……)

 周囲の目を気にしてだとか、偉そうだとか、他人の力を借りているだとか、ギルを責めたが――。

(昔から、それは私の方で……)

 彼はちゃんと自立した大人になって帰ってきたのだ。
 だけれど、私はと言えば、仕事にこそ就いているものの、さして昔と行動が変わっていない。
 仕事をしたいだとか、好きな人と結婚したいだとか、ワガママを言っているだけだ。
 挙句、大人になっても、傷つくのが怖くて、ギルを避けて逃げ出してしまった。
 彼があれだけ真摯に妻にするのは変わらないと言ってくれたのに……。

 家同士の円満な関係のためにも、お互いに愛がなかったとしても、ギルフォードのように割り切って結婚を決めたら良いだけなのだ。

 なのに――心のどこかで、彼の方も自分を愛してくれていたらと思ってしまっている。
 別の女性を胸に秘めるのではなくて……。
 自分がずっと彼のことを想っていたように、彼も私のことを好きでいてくれたのなら――と。

(私だけ成長出来ていない。こんな子どもの私じゃあ、彼には釣り合わない)

 悩んでいると、コンコンと音が鳴った。
 部屋の中に母が入ってくる。

「ルイーズ、ギル君、今日も屋敷に来てるけれど、会わないの?」

「お母様」

 母は仕事を持っているからか、年齢のわりに若々しい。今はブラウンの髪を上品に結い上げていた。
 父に似て、くよくよしがちな私とは違って、母は明るくて魅力的な女性だ。一番最初に生まれた私とは姉妹のような関係でもある。

(ギル、今日も来てくれてるのに……)

 ベッドに寝込む私のそばに、母が腰かけてきた。

「マリッジ・ブルーというやつかしら?」

「分からない……」

 私はぽつぽつと謝罪した。

「お母様、ごめんなさい」

「どうしたの、ルイーズ?」

 しばらく黙ったが、思い切って悩みを打ち明けた。

「……結婚する予定の人に、本当はずっと好きで、忘れられない女性がいたんだとしたら……お母様ならどうする?」

 母は目をぱちくりさせている。

「本当はプロポーズする予定だった人が別にいて、なりゆきで自分と結婚することになったんだとしたら……」

 ますます母の目がぱちぱち動いてた。

(……?)

 気を取り直した彼女が、私に問いかけてくる。

「たぶんギル君のことだと思うけれど……ルイーズは彼のことが好き?」

 ふいっと顔をそらした。
 だんまりになった私のことを、母は黙って見ている。
 ぽつぽつと続けた。

「ギル、婚約指輪を二つ準備していたの……というよりも、本当はサファイアの別の婚約指輪があるんだけど、私がもらったのはエメラルドで……ギルにはサファイアの婚約指輪を渡したい相手がいて、その女性のことがずっと好きだったらしくて」

 私は続ける。

「本当は私と再会した日は、サファイアの婚約指輪をその女性に渡したくて、薔薇を持って近所をうろついていたらしくて……だったら、私は間女で……」

「婚約指輪を二つ? ギル君が、サファイアの婚約指輪を、ルイーズ以外の女性に?」

 母が不思議そうに首を傾げていた。
 しばらく、むむむと考えている様子だったが、何か閃いたようだった。
 
「お母様、分かっちゃったわ! 学生時代、バレンタインの後から、あなたたちの様子がおかしかったわね? 何かを渡してこようとしたのを断ったって言ってなかった? ルイーズも思春期だったし、お母様には詳しくは教えてくれなかったけれど」

 こくんと頷いた。
 母はニコニコ笑いながら続ける。

「だったら、話は単純よ。ルイーズはお父様に似て、好きな相手に対しては視野が狭くて、怖がりなんだものね。まあ、そこも可愛いのだけど……」

「お母様?」

 彼女は太陽のように微笑んだ。

「お母様が保証するわ。大丈夫、ちゃんとギル君と話し合っていらっしゃい」



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...