【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

本編

26

　屋敷の外に出向いたが、ギルフォードは自宅に帰っているようだった。

　――会うきっかけが欲しい。

　ふと、彼が私の作った菓子を食いたいと言っていたのを思い出した。
　菓子工房は休業日だ。
　オーナーであるマダムモリスンの許可を取って、チョコ菓子を作ることにした。

（学生時代にフラれたバレンタインで、ギルに作ってあげたものと同じ……ガトーショコラ）

　しっかり自立した大人になって帰ってきたギルフォード。
　今度は、自分が成長した姿を彼に見せる番だ。
　オーブンがチンと鳴る。

「よし、焼けた……！」

　アツアツのまま、箱に包んだ。
　出来上がり後、仕事着から着替えようとしていると、慌てた様子のマダムモリスンが声をかけてくる。

「ルイーズちゃん！」

「オーナー、どうなさったんですか？」

「ギル、海外に行くらしいんだ。急に決まったみたいで。また数年帰って来ないかもしれない」

　――数年……？

「今日の夕の汽車で立つみたいでね」

（夕の汽車……？）

　窓の外を見る。
　夕焼け空が拡がっているではないか。
　駅はわりとすぐ近くだ。

「行かなきゃ……！」

　思わず仕事着のまま、私は外へと駆けたのだった。
　後ろでマダムモリスンがにっこり微笑んでいるのにも気づかずに。