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本編
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しおりを挟む(陛下は宰相閣下のおかげで国を維持できているようなものなのに! この人は女性にモテたくて、目立ちたがりで、完ぺきな従姉妹であるジュリーお姉様を妬んでいるんだわ! 絶対に許せない!)
――お姉様を不幸にするなんて、許すまじ……!
ウルフィウス陛下――名前が長いのでウルフ陛下に対しての闘志がメラメラと燃え滾った。
「ウルフ陛下! 一言言わせていただきますけれど!」
「だめよ! マリー、不敬罪に問われるわ!」
「まだ、今日までは未成年なので、罪には問われません!」
お姉様を庇うように立った。
黒曜石のような滑らかな黒髪の美青年の前に、私は立ち塞がる。
「お姉様を修道院送りにすると言ったこと、謝ってください! いくら陛下と言えども許しません!」
人に指を差してはいけませんと育てられたが、びしっと人差し指を突き立てた。
「ん? なんだ? ――確か、アトス伯爵家のマリー嬢だったかな?」
美青年の微笑を見るだけで腰が砕けそうだ。
(うっかり気を抜いて、魅了されるところだった)
抜けるように白い肌は女性もかくやで、もはや人外なのではないかと思ってしまうほどに美しい容貌だ。
(天は二物を与えず、凡人には何も与えず……私には持てる武器がなさすぎたわ……!)
真っ向から立ち向かってもどうしようもない相手だ。
「俺は女性には優しいんだ。ほら、言いたいことを言ってごらん? 俺のことを、どう許さないつもりなのか、教えてくれる? 怒らないからさ」
その飄々とした言い方が、私を逆なでした。
「陛下のことは、絶対に、絶対に絶対に許しません!」
相手はにやついているだけである。
ぐぬぬとなったが――女は度胸だ。怒らないと言ったのだし、言いたいことを言ってやる。
「例え陛下と刺し違えてでも、お姉様を修道院送りにはさせませんから!!」
ジュリーお姉様もウルフ陛下も目を真ん丸にしていた。
ふっと目の前の青年が微笑んだ。
「おバカさんだね……でも、こんな暗殺者がいたら、ちょっと面白そうかな……」
「きゃんっ……!」
いつの間に近付かれていたのか、彼に抱きしめられていた。
(暗殺する前に捕獲された……!)
陛下は耳元で囁いてくる。
「――君にだったら殺されても良いかもしれない。明日成人するの?」
耳元で色香のある声音で囁かれるとぞくぞくする。
思わず、うんうんと頷いた。
すると――。
「ねえ、だったらさ、君が代わりに俺のところの後宮に入ってくれる? そうしたら、ジュリーの修道院送りを見送っても良いけれど……まあ、せっかくだから俺を弄ぶなり、殺しに来てくれても構わないけれど、どうする……?」
頭の中がぐるぐるする。
ジュリーお姉様が抗議した。
「ウルフィウス! マリーを巻き込まないでちょうだい! これは貴方と私の問題で――!」
抱きしめてくる陛下に問い返した。
「本当に……お姉様を修道院に送らないと約束してくださいますか?」
すると彼はにやりと笑い返してくる。
「もちろん」
「だったら――」
お姉様が慌てる。
「ダメよ、マリー!」
「――お姉様が修道院送りにならないためなら、私、行きます……!」
私は力強く告げた。
「愛するお姉様のためならば、悪女にだってなってみせます!」
すると、彼が唇の端にちゅっと口づけてきた。
「きゃあっ……!」
彼が両頬を包んでくる。
「じゃあおいで、可愛い暗殺者の悪女ちゃん。明日成人したら、たっぷり可愛がってあげるから……」
(暗殺者を可愛がり!? どういうこと!?)
こうして、チャラチャラ陛下の後宮の住人第一号として召し上げられた私の、奇妙な暗殺者兼悪女ライフがはじまったのだった。
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