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本編
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しおりを挟む王城の一角にそびえたつ離宮。
緑豊かな庭には、美しく広大な池がある。時折、鳥の声が聴こえる。
そびえたつ宮殿の壁がツヤツヤと、夕焼けで輝いていた。
(せっかくジュリーお姉様と一緒に幸せな……刺繍三昧成人バースディを迎える予定だったのに!)
自業自得ではあるが、内心毒づいてしまった。
そっと、胸に手を当てる。
ジュリーお姉様にもらった裁縫道具と、屋敷から持ってきた短刀だ。
(お姉様、私、ウルフィウス陛下の後宮でも頑張ります! お姉様を修道院送りにしないために! それに、陛下がおかしな動きをしたら、すぐに宰相様に報告してみせますから!)
陛下と刺し違えても、お姉様を不幸になんかしないのだ。
決意を固めていたら、ひょいっとウルフィウス陛下が姿を現した。
「へえ、マリー嬢、逃げずにちゃんと来たのか」
彼の流麗な黒髪が風にそよいだ。甘い顔立ちの彼が蕩けるような笑みを浮かべると、心臓がドキンと跳ねる。
さっと身構えていると、いつの間にか私の前に彼が立っていた。
「きゃあっ! いつの間に!」
「偉い偉い。金の髪に蒼い瞳の、俺の可愛い子ウサギちゃん」
挙句の果てに頭を撫でられてしまった。
(動きが俊敏だわ! さすが騎士としての腕前も一流だと言われているだけある!)
思わず唸ってしまう。だが、気まぐれな相手だと評判の男性だ。
うっかり気を許してはいけない。
「ウルフ陛下、敵に対して余裕な態度ですね!」
「敵……? ああ、ジュリーの件か。そうそう、あいつを嫁に迎え入れない挙句に修道院送りにしようとする俺を、刺し違えても止めるんだったか……まあ、ちゃんと後宮に来てくれたわけだし、しばらくはジュリーを修道院に送ったりしねぇよ。まあ、しばらくだがな」
「しばらく……ですか?」
――「しばらく」という言葉が引っかかる。
私が後宮入りしたら良いわけでは、やはりないのかと確信する。
(やっぱり、気まぐれな殿方だわ)
彼がにやりと笑った。
うかうかしていたら、ジュリーお姉様を修道院行きにするかもしれない。
「ああ、マリー嬢。君の動き次第だ。俺が飽きないように、せいぜい色々頑張ってくれよ」
わざわざ私の手をとって、ちゅっと彼は口づけて来た。
やっぱりチャラチャラしている印象は免れない。
油断ならない強敵だと、私は察した。
「さあ、お手をどうぞ」
いつの間にか、かなり優雅で紳士的な所作で手をとられていた。
きっと女性なら誰しも憧れるのだろうが――。
「きゃあっ! 変態!」
思わず叫んでしまっていた。
そんな私の反応を見て、ウルフィウス陛下は一瞬呆気にとられてたようだ。
「おいおい、そりゃあないぜ。俺に手をとられて、変態呼ばわりしてくるようなご令嬢は初めてだよ」
ドキドキするけれども、してはならないと気持ちを落ち着かせながら、先へと進んだのだった。
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