【R18】愛するあなたのためならば、悪女にだってなってみせます!

おうぎまちこ(あきたこまち)

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 その夜。

「マリー嬢、どうした? いつもより元気がないなぁ」

 ちょうど陛下が現れる。
 
「その……確かに私が元気じゃないの、変ですよね?」

「うん、まあ変だ」

 気遣って来る陛下に対して、胸の内を吐露した。

「やっぱり政治的な色々があって、仲の悪い宰相の娘であるジュリーお姉様を正妃に迎え入れなかったのですか?」

「それも理由の一つだけど、それがどうしたの?」

 やっぱり、そうなのかと思った。

「ん? もしかして、俺がジュリーに恋してるとか思ってる?」

「ひあっ……!?」

 図星をつかれて、素っ頓狂な声が出てしまう。

「その、お姉様は陛下のことは好きじゃないって言ってはいたんですけど」

「それ、本人を前にして言う?」

 陛下はカラカラと笑った。

「それだけはないから安心しろよ」

 そう言って、頭をくしゃくしゃにかき回してくる。

「……言えば、ジュリーは共謀者だよ。あっちも絶対に俺だけはないから、安心しろ」

「本当の本当ですか? 私に気を遣っているのではなく?」

「本当、本当。信用無いな……俺はね、前から言ってるみたいに、一輪の花を愛でていたいんだよ」

 そうして彼がちゅっと額に口づけてくる。

「あ、そうだ。この間の刺繍、外務大臣に見せたら面白がってたから、もう少しだけもらえる?」

「はい、良いですよ」

 ちょっとだけ心が晴れた状態で、私は陛下に刺繍を渡したのだった。



※※※



 そうして数日が経ったある日のこと。
 ぽかぽか陽気な庭で、刺繍をやっていた。

「マリー」

 突然、陛下ではない男性の声が聴こえて、はっとなった。

(ここは後宮。近衛騎士だって女性じゃないと入れない場所なのに)

「あ……宰相様?」

 陛下の許可でもあったのだろうか。
 不思議に思っていると、白髪の瘦身の男は語りはじめる。

「ジュリーが修道院に入ったのだ」

「え? ジュリーお姉様が……!?」

 あれだけ陛下は、勝手なことをしないと約束してくれたのに――。

(なんで……陛下、どうして? お姉様に理由を聞かなきゃ……)

 そこまでして、はっとなる。

(あの陛下がそんなことをするはずない……!)

 身構えた瞬間、突然、宰相様に口を塞がれてしまう。
 噛みつこうとしたが無理だった。

「陛下がお前を側妃にしたと聞いた時は、なんの冗談かと思ったが――来てもらうぞ」

 しまった。
 あれだけ、宰相には気をつけろと言われていたのに――。

 じたばた暴れるのもむなしく、そのまま私は宰相様に担がれて連れて行かれてしまった。

 紅い刺繍糸が、私の手から一筋垂れたのだった。


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