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本編
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しおりを挟むそんなある日のこと、ジュリーお姉様が私に面会に来ているという。
後宮の中には、国王の奥方しか入れないし、私も外には出れない。
王城との狭間の場所で、陛下の立ち合いの下、再会を果たすことになった。
とはいえ、茨の隙間から顔を覗き合うというものだったが――。
「ジュリーお姉様!」
「マリー、会いたかったわ」
慕うお姉様は相変わらず麗しくて……久しぶりに会話を交わすと心が弾んだ。
隣にいた陛下がジュリーお姉様に話しかける。
「俺の奥方を独り占めするのはやめろよな。昔からジュリーが近くにいると、女性たちを全員奪われちまって、本当に嫌気がさすぜ」
「それは私のせいではないわ。おかしな言い回しばかりする貴方が悪いのではなくて?」
誰もが羨むような美貌と才能を持った二人が、仲睦まじく談笑していた。
「ウルフィウス、マリーと一緒で楽しそうね。私の大事な妹分よ、これからも大事にしてあげてちょうだい」
「ああ。彼女を連れてこれて以来、俺は楽しくやれてるよ……」
二人とも少しだけ寂しそうに笑っていた。
その時、私は何か気づいてはいけないことに気づいてしまう。
(二人は仲が悪いわけじゃない?)
むしろ何か絆のようなものを感じてしまった。
心臓がおかしな音を立てはじめる。
(ジュリーお姉様とウルフ陛下は本当は両想いだった? だけど、政治的な色々があるし、大事な女性を後宮に閉じ込めたくなかったから……だから今まで結婚していなかったの?)
ジュリーお姉様と一緒にいたし、彼女の一番の理解者になったつもりだったというのに――本当の気持ちに気づけなかった自分に申し訳なさを感じてしまった。
二人が並ぶ姿を見て、なんだか寂しさと申し訳なさが胸の中を支配していく。
元気が取り柄のはずなのに、どうしても元気が出なくなってくる。
「ウルフィウス、ちょっとマリーと二人で話をさせてもらえる?」
そうして陛下は遠ざけられる。
ジュリーお姉様が私の指に、自身の指を絡めてきた。
「お、お姉様……!?」
女性同士なのに、なぜだか赤面してしまう。
なぜかウルフ陛下とジュリーお姉様が重なってしまった。
「ねえ、マリー、聞いたわ。後宮に他の女性を招き入れる話が出ていることを――それを聞いて、貴女はどう思った?」
「側妃の身分でごちゃごちゃ言うわけにも……そもそも、私はお姉様を修道院送りにしないために後宮入りしただけですし……」
「あら、嫌じゃないの? じゃあ、質問を変えるわ? 私が入るのはどう?」
「それは、もちろん、お姉様と一緒に過ごしたいから入ってほしくって……!」
そうは言ったものの……心臓がおかしな鼓動を立てはじめる。
「マリー、貴方が嘘をついているの、お姉様にはすぐに分かるわ。耳がぴくぴく動いている」
「――っ……!」
「本当の気持ちを教えてらっしゃい」
諭すように幼馴染に言われて、ぽつぽつと返した。
「お姉様と一緒に過ごしたい。だけど、陛下が私にしてるみたいなことを他の女性にやるのは嫌で……」
「そうなのね、マリー。安心なさい。少なくとも私は陛下のことが好きじゃないから」
ジュリーお姉様はクスクス笑っている。
「マリーがそんな可愛い顔をしちゃうなんて、なんだか妬けちゃう」
「お姉様」
「あとね、これから先、何があっても陛下を信用してあげて、ね?」
不思議な問いかけだったし、理由は判然としなかったけれど――。
「はい、分かりました! お姉様の言うことを信じます!」
「ありがとう」
にっこりと微笑むお姉様としばしの時間を愉しんだ後、別れを告げたのだった。
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