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本編
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しおりを挟むウルフ陛下が続けた。
「まあ、外戚関係を結ぶためには、政治的な意味では迎えた方が良い。けどな、俺は小さい頃から、この広い離宮で過ごしてきた。本来、花は愛でたら喜んで咲くものだ。たった一人の寵を競って、化かし合って嘘をついて、醜い争いで散っていく様、俺はわざわざ見たくはない」
抽象的な言い回しだが、なんとなく核心を得た気がする。
彼が後宮に女性を招き入れないのは、自分の母親達と同じ目に外の女性を合わせたくないだけなのだろう。
(陛下はお兄様たちを、たくさん失くしたと聞く……)
母子ともども毒殺されたものだっていただろう。
陛下は言い回しが素直じゃないし、軽薄そうに見えるだけだ。
悪評だって、彼を蹴落とそうとする者たちの罠なのかもしれない。
(周囲の人達が陛下に対して勝手に色々言ってるだけ。陛下は本当は真面目な男性だわ。私、政治は男の人が考えることだって、何も考えてこなかった)
ちゃんと側妃として彼を支える存在でありたいと思った。
その時――。
彼が髪を梳いてくる。
「咲き誇る大輪の花々を愛でるのも悪くはない。けれども、俺は一本の花だけを眺めて過ごせる場所があれば良いなと思っているよ――まあ、実際問題難しいところはあるが……」
慈しんでくれる彼の手に撫でられていると、なんだか胸が切なくて、きゅうっと疼いた。
(もしかして、陛下は好きな女性唯一人と過ごされたい殿方?)
噂にたがわず女性に対して優しいのは事実。
けれども、こんなに夜中自分と一緒に過ごしていて、昼間は公務にいそしんでいるのだ。
(チャラチャラしているのは事実だけれど、女性たちを侍らせている時間はないもの)
もし、彼が一人だけ愛でたい女性が自分だったら嬉しいのに。
いずれはたくさんの妃を侍らせないといけないのだろうけれど……。
そんなことを思っている自分に気づいてしまった。
「まあ。問題は、宰相率いる大臣達をどう黙らせるかってことだがな。特に血気盛んな外務大臣が面倒だのなんだのって……。はあ、騎士達ならなぁ、わりと実力見せたら従ってくれんのに、あいつら頭硬いんだよなぁ」
「え?」
陛下がぽつりと何かを呟いたけれども、その言葉を拾うことは出来なかった。
その時――ふと、彼が近くの丸テーブルに目をやる。
「そういえばさ、マリー嬢が色々やってる刺繍のこれって、全部自分でやってんの?」
「え? はい、そうですよ?」
「なるほどな、これは使える。一枚貰うぜ」
「陛下を待っている間に作ったものです。一枚と言わず、何枚もどうぞ」
うきうきした様子で、陛下は私の刺繍を持ってどこかに行ったのだった。
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