【R18】愛するあなたのためならば、悪女にだってなってみせます!

おうぎまちこ(あきたこまち)

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本編

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(陛下なら――あの時約束した彼なら、私を絶対に抱き留めてくれる!)


 差し伸ばされた手に、手を差し伸べ返した。
 
 少しだけ指同士が触れ合う。

 ぎゅっと握り返した瞬間――。


「えいっ……!」


 駆ける荷台の上から私は身を投げ出した。
 ドレスが風に嬲られる。

「きゃああああああ、落ちるぅぅぅぅ!!」

 力強く腕を引かれた。
 勢いよく馬上の彼の胸に飛び込む格好になる。
 少しだけ身体に衝撃が走ったが、すぐに逞しい腕に抱き寄せられて、彼の温もりを感じた。
 ウルフ陛下は、器用に私を抱きしめながら馬を繰り続ける。

「もうちょっと可愛い悲鳴を上げてくれよ、これだけ俺様が格好よく登場したんだからさ」

 馬上の彼が軽口を叩いた。

「せっかくジュリーと共謀して、成人前日に宰相の手から連れ出してたってのに、なぁにやってんだよ、俺のお妃さまは――ジュリーが俺のところに走ってきた時は心臓止まるかと思ったぜ。この俺様をここまで振り回すなんて、とんだ悪女だよ……」

 安心して涙がぽろぽろ零れた。
 駆ける馬の上、二人でぎゅっと抱きしめ合った。
 まだ走り続ける馬車の荷台の中から、宰相がずるずると出てきて叫んだ。

「……そうだ! もうその女は後宮の外に出た! 陛下の妃などでは――」

 陛下がにやりと笑った。

「残念。お前さんが娘の修道院騒ぎで右往左往してくれてる間に、裏で根回ししててさ。ジュリーが俺の変装して、ご令嬢たちへの諜報活動に勤しんでくれてたんだよな。おかげで皆の弱みがわんさか出て来たわけだ。そんでもって、後宮制度の廃止に議会の皆が賛同してくれたんだよなぁ。だからもう、別に妃が後宮の外に出ても問題なくなったわけ。ついでに言えば――」

 陛下が私の頬にちゅっと口づけてきた。


「――今日からマリーが俺の正妃になる」


 思わぬ発言に目を見開いた。

「あと、ほら、お前の屋敷にある裏で色々武器を横流しにしてた件の文書だけど……これ見せたら、自分たちが罪に問われたくないのか、皆がこぞって、あんたの不正の証拠を提出してくれたよ」

「なぜだ!? なぜ? どうして屋敷に? まさか、ジュリー!? あの子が……!? どうして、私を裏切ったのだ!?」

「お察しの通り、ジュリーの手柄でもある。どうしても何もなぁ、あいつはマリーが好きだからなぁ」

 ウルフ陛下は続けた。

「あんたがお縄についても、もうあいつは修道院に入っているから、娘のジュリーまで罪に問われることはない。俺の奥方のマリーの父親に、昔、濡れ衣を着せてた犯人もお前だよな……? 幼いマリーほしさにさぁ……まあ、これだけ可愛い子ウサギだ。欲しくなるのは分かるけどなぁ」

「お、お前っ……! ええい! お前達、金はくれてやるから、出て来い!」

 坂道を取り囲む、雑木林から傭兵たちが飛び出してきた。

「きゃっ……!」

 さすがに数が多い。
 と思ったが、陛下の敵ではなかったようで、どんどん剣で薙ぎ払っていく。
 
(強い……)

 見惚れていると、弓矢がどこかから飛んできたが、彼が払う。
 そうして、宰相の顔の横の柱に陛下が剣を突き刺した。


「やっと目障りだった宰相様もいなくなる。俺が良い世の中に変えてやるよ。あと、そうだな、俺の姉貴を育ててくれたことと、俺の妃に手を出さないでいてくれたこと、礼を言うよ――」


 宰相の座を失脚した男は、ずるずると馬車の中に倒れ込んだ。


「まあ、これで裏で色々やってくれた宰相様も失脚だ。でかした、マリー。これで俺の天下だぜ!」


 そうして、「あとはわたくしに任せなさい」と告げて来たジュリーお姉様と駆けつけて来た騎士達に残りは任せて、私たちは馬で城に帰ったのだった。



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