【R18】白い結婚2年目に白ネコになったら、冷血王と噂の旦那様との溺愛生活がはじまりました

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
3 / 18

2回表 sideユリア

しおりを挟む

「にゃにゃにゃにゃ……」

 変わり果てた自分自身の姿を見て、私はプルプルと震えた。
 ふさふさの体毛に覆われた身体――被毛は真っ白な単色ソリッドだ。
 瞳の色は、月のように神秘的な黄金色。
 真っ白な乳歯は生えているし、目も見えて耳も聴こえるので――生後数週間以上は経っていると推測される。

「にゃあ……」

 声を出しても動物の泣き声にしかならないし、手を動かして体の感触を確かめるが――。

(やっぱりどう頑張っても猫だわ……)

 紛うことなき子ネコの姿。
 ショックで頭が真っ白になりそうだ。

(ネコ? ネコ?)

 人の姿の時の癖で、指で頬を摘まもうとしたが、ふさふさの毛並みを肉球でフニフニするだけだった。
 ぐるぐると困惑する頭で、状況を整理する。

(眠る前……もし自分がネコだったら、ヴァレンス様に愛してもらえるかもしれない……そんなことを考えた気がする)

 だけれど――どうして――?

(願っただけで叶うんだったら、誰でも今頃魔法使いよ)

 そう言われれば、昨日は満月だったことを思いだす。
 美しく金に輝く月。
 眩い光を放つ一方で、魔性の力が昂じてしまうこともある。

「にゃにゃにゃにゃ(認めたくないけれど)」

 ――何らかの魔力の変則イレギュラーが生じて、歪な形で願いを叶えてしまったのかもしれない。

(どうやったら、元に戻れるの……? 代々魔力持ちだった王家の誰かなら……もしかして私の身に起きている異変に気付いてくれたり……?)

 淡い期待が脳裏をよぎった、その時――。

 ――扉の向こうでザワザワとざわめきが聞こえる。

「にゃにゃん?」

 まだ城を囲む砦の周囲から眩い朝陽が差し込みはじめたぐらいの時間だ。
 こんな時間に夫であるヴァレンスが現れるはずはない。

(城に仕える侍女たちが、私の世話に? 朝食の時間になるまでは一人にしておいてほしいと伝えてあるのだけれど……)

 そんなことを思っていると――。


「入るぞ、ユリア」


(――――!)

 荘厳な低い声に子ネコの鼓膜が震えた。
 優雅なノック音が聞こえた後、ゆっくりと扉が開かれる。

 現れたのは、まさかの――。

(ヴァレンス様……!)

 私の旦那様――ヴァレンス様だったのだ。
 貴族らしく優雅な足取りで室内に入ってくると、朝の爽やかな風で紫がかった黒髪がサラサラと揺れる。
 生真面目な性格を現すかのように、黒い軍服を襟までしっかり詰めていた。

(こんなに朝早くに私の部屋にいらっしゃるなんて珍しい……)

 流れるような仕草で室内を見回す姿に、私は思わず惚れ惚れしてしまう。
 ふと――。
 彼の武人らしい節だった指に目を奪われた。
 どうやら白い便箋を持っているようだ。

(あれは一体……?)

「ユリア、朝早くに無粋な真似をしてすまない」

 冷血王と呼ばれるヴァレンス様が珍しく謝罪する姿に――私は黄金の瞳を真ん丸に見開いてしまった。

(ヴァレンス様が私に謝ってくるなんて、いったい何が起こったというの……!?)

 普段は流麗な語り口調の夫が、やたらと棒読みなのも気にならないほどの衝撃が私を襲ってくる。

「昨日のお前は、いつになく思い詰めているように見えた。せっかくだから気晴らしにと、朝食前の散歩をしようと思って、朝早くから尋ねてしまったのだが――」

(何が起こったというの……!? 夜に声をかけてくるか、儀式や行事の時にしかお誘いにならないヴァレンス様が……!!)

 しきりに白い紙に視線を彷徨わせているヴァレンスの横顔を縁取る黒髪が、朝の光にキラキラと輝く。

(早く応えなきゃ……あ……――!)

 何か返事をしてあげたいのだが――白ネコの姿になっているのだったと思い出す。
 にゃあにゃあネコの泣き声になってしまいそうで、ネコ姿の私は答えることができない。

(せっかくの夫婦の距離を縮めるチャンスだったのに……)

 鏡の前、ネコ姿のまま項垂れると、髭も心なしか垂れてしまった。

「それに……ユリア……お前と話し合わないといけないこともあるのだ」

 ヴァレンスの紫水晶の瞳を縁取る黒い睫毛がふるりと震えた。

(話し合わないといけないこと――?)

 そこで、私ははっとする。

(先ほどからヴァレンス様がしきりに見ている便箋のような紙……! まさか……!)


 ――離縁状――?


 嫌な予感が背筋を駆け抜け、文字通り総毛だった。

(あ……そんな……)

 まるで雷に打たれたかのような衝撃だ。
 人間だったなら、髪が真っ白になっていたかもしれないぐらいの……。

(ずっと愛していた従妹君を娶る時に、正妃である私がいても邪魔なだけかもしれない……)

 ――聖女を娶ったが子を成せないからと離縁をヴァレンスから申し出るつもりだったのかもしれない――。

 それどころか――。

 さらに悪い予感が過る。

(まさか……私が白猫になったのも、流れる血の色が紫だと言われているヴァレンス様の思惑で……?)

 白ネコ姿のままプルプルと震えてしまう。

 けれども、ぶんぶんと首を横に振った。

(ヴァレンス様は動物に対してはとても優しい御方……私を貶めるような悪い人ではないはずよ)

 気を取り直した、その時――。


「ユリア? どうして返事をしない?」


 ――ヴァレンス様が白い便箋から視線を外した。

 一度ゆっくりと部屋の中を見回した後――彼が静かに問いかけはじめる。


「ユリア、ユリア? どうしたというのだ?」


 ふわふわの絨毯の上だというのに、軍靴の音がカツカツと忙しなく鳴りはじめた。


「寝所に……いない……? だが、昨晩は確かにここにいた。それに、ユリアは聖堂への朝の祈りには向かっていないと、護衛の騎士や侍女達は言っていたはずで……」


 彼の拳の中で白い紙がくしゃりと潰れる。
 王妃の部屋の異変に気づいた彼が部屋の中をうろつきはじめた。
 冷血王という噂はどこへやら、ヴァレンスからは焦燥が感じられる。

(ヴァレンス様……? ものすごく焦っていらっしゃる……?)

 予想外の彼の焦りを見て、困惑してしまう。

 お飾り妻でしかなかったが――それでも妻は妻だ。

 だからこそ、心配してくれているのだろうか?

「衛兵たちは何を……? 警護はどうして――これは――」

 その時、彼が机の上へと視線を落とした。

 そうして、わなわなと震え始めた。

(ヴァレンス様……?)

 見れば――その形相は――冷血王の名にふさわしい、とてつもなく恐ろしいものだった。

(机の上の何かを見て、怒っていらっしゃる……!?)

 私は机の上に何をおいていただろうか――?

 彼が呻くように呟く。


「ユリア……」


 そうして――。

 ヴァレンスがくつくつと笑いはじめた。



「くっ……本当に愚かなやつだ……」


(愚かなやつ……ヴァレンス様はやっぱり私のことを……いいえ、やっぱり今回の一件は、愛する公爵令嬢と結婚するため、私を陥れた罠で……)

 あまりにも恐ろしい笑顔と声で笑い続けるものだから――。

「に、にゃあ……」

 恐すぎて、うっかり声を上げてしまった。

(ま、まずい……!)

 肉球で口を塞ぐが、時すでに遅し。


「なんだ!? 何者だ!?」


 ヴァレンスがこちらを振り向いた。

 ――ばっちりと視線が絡み合う。

(あ……)

 思わずネコのふりをする――というよりも、ネコの私は声を上げた。


「にゃ……にゃ~~」


 ヴァレンスが唖然とした表情を浮かべた。


「ユリア……? 白……ネコ……?」


 こうして――。

 冷血王と名高い夫と白ネコになった妻は――あまり運命らしからぬ運命の出会い(再会?)を果たしたのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...