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第3章 夫の献身、妻の心臓

第13話 初夜/シグリードside※

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 天蓋付きのベッドの下。
 ひらひらと薔薇の花びらが舞い散る中――。

 ティナは、美少年姿のシグリードに組み敷かれてしまう。
 ローズゴールドの麗しい髪がシーツの上に拡がった。

「ティナ……全部俺に任せてくれれば良い……」

「シグリード様……」

 彼の美しい顔が近付いてきたかと思うと、柔らかな唇同士が重なる。
 魔力を奪われる時のような濃厚な口付けではなかった。
 だけれども、ティナの中を甘い痺れが駆け巡る。

「あ……」

 しばらく柔らかな口付けを施された後、彼の唇が離れる。
 そうして、寝そべった彼女の手を取ると、彼が唇を押し当てた。
 その所作は、邪竜というよりも、まるで王子か騎士のようだった。
 ティナの鼓動は高まる。


「ティナ・シルフォード姫……」


 アイスブルーの瞳がティナをまっすぐに見つめた。

「……はい……」

 彼が甘やかな声音で告げてくる。


「――俺の妻として……俺の命が尽きるまで一緒にいてほしい……」


 ティナの心臓がドクンドクンと跳ねていく。

 アメジストの瞳を揺らし、桜色の唇を震わせながら返した。


「……はい。よろしくお願いいたします」

 
 彼女は彼の頬に両手を添える。
 そうして――彼女は自分自身の唇を彼の唇に自ら重ねた。
 しばらくの間口付けあった後に、そっと離れる。

「シグリード様……」

「ティナ……」

 彼の少しだけ小さな手が、彼女の髪を払った。
 彼女の額に彼の唇がちゅっと押し当てられる。


「お前が死にかけてるのも、全部俺の責任だ――お前が長生きできるようにするから……待ってろ……」


 ティナの心はきゅうっと疼いた。

 皆に諦められていたティナの命。

(だけど、この人は違う……)

 もちろん、彼の心臓を持って生まれたことが奇病の原因だった。

 だけれど、ちゃんとそのことを認めて、ティナのことを救おうとしてくれている。

 邪竜のはずなのに――。

 命の炎が消えそうな時に、現われた救世主。

 そんな風にティナは感じていた。

 ほんのりと心の中が温かくなるのを感じる。

(これで……夫婦の初夜は終わったのね……)

 ティナが少しだけ残念な気持ちでいると――。

 ふいに、薄手の夜着の肩先に少年の手が伸びてきた。

「……?」

 ティナがきょとんとしていると――。


「脱がせるぞ……」


 ――衝撃的な発言が繰り出された。

 ティナが慌てて返す。

「待ってください、シグリード様! 治療、ですか? 初夜の後すぐに……? これからぎゅっと抱きしめ合って終わりとかじゃないんですか?」

「は? 治療? ぎゅっと抱きしめ合う?」

 シグリードの顔に困惑が拡がっていく。

「何言ってるんだ? つべこべ言わずに脱がすぞ……」

「とにかく待ってください! その……初夜で裸になる理由はあるのですか? 理由があるのなら……考慮します……」

「なんだよ、今更……」

 シグリードがため息をついた後に、さらりと白銀の髪をかき上げた。

「孕の奥にまで根付いている俺の魔力までかきだしたいから……最終的には、お前と最後までしないと、俺の魔力全てはもらえない。今日出来るんなら最後まですませたいが……ずっと服着てたら熱いぞ」

「――最後まで? 熱い……? 治療は今日無理にしなくても……だって今しがた、夫婦の初夜が終わったばかりだし……それに……」

 ティナはシグリードに真顔で問いかける。

「シグリード様に私の純潔を捧げましたよね……?」

「は? まだ貰ってねえし……」

 シグリードの困惑は続く。
 ティナが頬を染めながら返す。

「だってさっき……私の方からシグリード様に、く、く、く、口付けを……!」

 美少年は、はあっと盛大なため息をついた。

「やっぱり意味が分かってなかったな……純潔を捧げるってのはな……ああ、なんだよ、ちくしょう……うまい言い方が見つからねえ……」

 子ども姿のシグリードが、大人のティナに向かって切々と訴える。
 シグリードが頭をガリガリとかきはじめた。

「つまるところ、子作りだ……」

 相手の答えに対して、ティナは頬を朱に染めながら返す。

「知っております。夫婦の誓いを立てれば出来るのでしょう? もしかしたら、今さっきので……私たちの御子が……出来たかもしれないですね……あっ……未成年の男の子の姿をしたシグリード様とだったから出来ない……? いえ、誓いを立てたのだから出来――」
 
「――出来ねえよ!」

 シグリードは思わず突っ込みをいれていた。

「まあ良い……これからお前に俺が、純潔を捧げるってのがどんなもんかを、身体で教えてやる……」

「身体で……?」

「そう、身体でだ……だから脱ぐぞ」

「やっぱり脱がないといけないのですか?」

「ああ。絶対じゃねえが……俺は結構激しく動く方だから……脱いでてくれ……」

「激しく動く……?」

「……とにかく実地だ……」

 少しだけ平静を取り戻したシグリードが、改めて彼女の夜着に手をかけた。

「脱ぐのは分りましたが……上半身は、やっぱり、まだ……」

 彼の手がピタリと止まった。

「ティナ、気にするなって言っただろうが……どうしてさっきのやりとりでなったのかは知らねえが、お前も心臓バクバクしてて、今が魔力の吸い時だぞ……」

 彼の言った通り、彼女の胸にある乳白色の魔核はもう真っ赤だ。

 だけど、懸念はやはり――。

(見られても平気だったし、綺麗だって言われたけれど……やっぱり改めて見られるのは……それに……この人には綺麗な私を見せたい……)

 以前に比べたら少しだけ色素は薄くなっているが、上半身の痣はまだ全体的に拡がっているのだ。
 ティナはおずおずと尋ねた。

「その……どうにか上を脱がずに……」

「はあ……じゃあ、そんなに上半身を見られたくないんなら……ほら、脚を開け」

「脚を!??」

 ティナの口から素っ頓狂な声が出てきてしまった。

「そ、そんな……だって、脚は……治療で触れられた時にも……その……」

「俺が開いてやっても良いが、自分で開いた方が恥ずかしくねえぞ。ほら、見てるのは子どもだと思え。まあ、実年齢は二千歳超えているが……」

「こ、子どもの前で、脚なんか開きません」

「ごちゃごちゃ面倒だな……」

 そういうと、少年の小さな手が彼女の膝に伸びてくる。

「ま、待ってください! 分かりました、自分で開きますから!」

 彼女は腰まで夜着の裾を持ち上げる。
 そうして――ゆっくりと両脚を開いた。
 開ききった脚の間に、少年の身体がずいっと近づいてくる。

「開きましたが、いったい何を……ひゃあっ……」

 ひやりとした感覚が粘膜に触れてきて、びくんと華奢な身体が動いた。
 彼女の花びらを、彼が指で開いていたのだ。

(自分でもお風呂の時ぐらいにしか触らないのに……)

「シグリード様っ……そんなところで、一体、何して……?」

「お前が、上半身触られるのは嫌だって言ったんだろうが……だから、代わりに下だよ……まあ、結局こっちどうにかしなきゃだし、上半身への色々が飛んだだけだ……」

「ええっ……だって、でも、そんなところに、指っ……あっ……」

「ああ、もう、ほら、脚閉じるなよ、魔術で縛り付けるぞ」

「縛り付けられるのはイヤっ……んんっ……」

「だったら、ほら、自分で脚を開け……」

「ううっ……」

 そうして、再びティナは彼の目の前で大きく開脚させられてしまった。
 蜜溝の間を少年姿の小さな指がぬるぬると動く。

「ああ、もうこんなに蜜を溢れさせて……ぐちゃぐちゃじゃねえか……神子で育てられてきたわりには卑猥だな……」

「そ、そんなこと、言われても……ひゃあっ……!」

 やたらと敏感な芽に相手の指が触れてきた。

「ああ、ここが良いのな……ほら……気持ちが良いだろう?」

 自分よりもかなり年下に見える姿のシグリード。
 余裕のある態度で問いかけられてしまい、ティナの羞恥が煽られる。

「ふあっ……あっ……こんなの、知らない……」

「俺以外の男が知ってたら問題だが……泉でいじってやったのは忘れちまったのか? ああ、色々問題になるし……いったん魔力をもらおうか」

 ティナよりも小さな身体のシグリードが、彼女の身体の上に跨がったかと思うと口付けを落とした。

「良い子だ……もうちょっと気持ち良くしてやるから……ほら……」

 相手に促されるまま、ティナは桜色の唇を開いた。

(あ……どんどん大人の男の人になっていって……)

 美青年の姿になったシグリードから、地厚い舌を差し込まれ、ティナは口中を犯されていく。先ほどまでよりも圧迫感がすごい。
 息も漏らさぬ口付けの合間に、彼女の甘ったるい声が漏れ出て、室内を支配していった。

「ふあっ、あっ、ああっ、あっ……」

「ティナは、本当に気持ちが良さそうに啼くよな……ああ、可愛くて仕方がねえ……」

 芽に触れてくる指の肌感も、大人の少しだけざらついたものに変わって落ち着かない。
 蜜口から溢れ出た蜜は、双殿の間を流れ落ちていき、シーツを汚す。

「指で触れてるだけなのに、卑猥だな……」

 くちゅくちゅと芽を弄る音が鳴り響く。
 しかも、どんどんシグリードの芽を擦るスピードが速くなっていって、ティナの快感がどんどん高まっていく。

「ふえっ……ああっ、もう、無理っ……あっ――」

「ほら、イって良いぞ……いや、待てよ……」

「ふえ? ――ひゃんっ……!」

 シグリードが身体の上からいなくなった。
 そう思って、ティナが視線を下に移せば――。

「シグリード様……!? 一体全体何を……!??」

 彼の唇が、彼女の陰核に吸い付いているではないか。

「ああ? お前、たぶんこっちも気に入るぞ……ほら、身体の力を抜け……」

 そうして、開いた足の間、獣のように、彼が彼女の芽をなめたり噛んだり、舌で転がしはじめた。

「ふあっ……あんっ……あっ……だめっ……そんなっ……」

「さっきイきそうなのを止めちまって悪かったな――ほら、イっちまえよ……」

「ふあっ……ああっ……あああんっ……!」

 青年に促されるまま、彼女は絶頂を迎えてしまう。
 全身をさざ波のように快感が駆け上っていった。
 ビクビクと震える彼女の脚の間で、彼は蜜をすすり上げた。
 ティナのふわふわとした身体が、魔力を吸われてますますふわふわした感覚になる。

「あああっ……!」

 身体がビクビクと跳ねた。

「おっと、感度が良いおかげで、触っただけでまたイッちまったな……」

 蜜の溢れる口に、彼の指がぬるりと誘われる。

「ならしもこのぐらいで良いかな……さあ、ほら、脚を開いてみろ」

「ええっ……びくびくってなったばかりなのに、またでしょうか?」

「……ああ、もちろんだ……ここからが本番だぞ……」

「これ以上、まだ? ひゃあんっ……!」

 大人の器官の先端が、彼女の狭穴に触れてきたため、びくんと身体が跳ねた。
 そうして、しばらく溝の間を先端がぬるぬると動いた後――。

「ほら、力を抜けよ……痛くないようにしてやるから……なあ」

 質量と熱量を持った器官が、ぎちりと音を立てた。

「ひゃあっ、ああっ……」

 巨大な先端が、彼女の処女膜を突き破ろうとする。
 今まで感じたことのない衝撃が彼女を駆け抜けていく。

 ちょうど、その時――。

「――――っ……!」

 ティナの魔核がどくんと大きく跳ねた。

「ううっ…………」

「ほら、ティナ、良いから力を抜け……って、どうした!?」

 彼女の異変に気づいたシグリードが、声を上げた。

「……っ……ううっ……くっ……」

 額に汗を滲ませながら、彼女は胸をかきむしはじめる。
 彼女の心臓のあたりにある魔核が歪な収縮をはじめていた。
 呼吸の様子までおかしくなる。

「あ……ぅ……」

「……大丈夫だ、落ち着け……」

 発作を起こしてよがり苦しむティナが落ち着くまで、彼が背をさすってやる。
 次第に彼女の呼吸も落ち着き、徐々に冷静さを取り戻していった。
 シグリードがティナに声をかける。

「落ち着いたか?」

「……はい……ごめんなさい。今は大丈夫です……」

「わりぃ……焦って色々やりすぎた……みたいだな」

 そう言うと、彼が彼女に軽く口付けし直す。
 ティナは、ほんのりと全身が温かくなっていったかと思うと、徐々に胸の苦しさが落ち着いてくるのが分かった。
 気づけば、シグリードの姿も少年のものに戻っている。

「急に色々やったから、負担がかかりすぎちまったのか? ティナの魔力の産生量には限界があって、俺が下手に奪いすぎたら……つまるところ、一気に色々ヤリすぎたら、本人の生命力まで奪いすぎてまずいってところか……? ちょっとずつ循環をよくしていった方が良さそうだな……」

 シグリードは顎に手をやりながら思案にふけっていた。

「まあ、仮説でしかねえし……色々分かるまでは、最後までは出来ねえか」

「仮説……? 最後まで……?」

「まあ、こっちの話だ――初夜もいったんここまでにしておくぞ……」

「そうなんですね……」

 何度か達した彼女の身体は心地よい疲労感に包まれていた。
 とろとろと瞼が落ちていく。

「そういえば、紅い髪の騎士様が村を襲ってきた時に、私の服を裂いて……」

 ふと、ティナは何かを思い出したが、それ以上は何も思い浮かばなかった。

「紅い騎士……? ティナ、それは――」

 だが、ティナの様子に気づいたシグリードは言葉を噤む。
 彼女に掛け布を掛けてから、彼はベッドに腰掛けた。
 そうして、彼が彼女の肩をトントンと叩きはじめる。

「ほら、もう寝ろ……無理に何も考えなくて良いから」

「はい……だけど……」

 ティナは少しだけ頑張って目を開いた。

「どうしたよ?」

「――目を瞑って眠って……そうして、目覚めたら……シグリード様、いなくなったり……しませんか?」

 そんな彼女を見て、美青年姿のシグリードが淡く微笑んだ。

「……しねえよ。ちゃんと、そばにいてやるから、寝ちまえ」

「良かった……お休みなさい」

 そうして、ティナはとろとろと眠りに誘われていく。
 彼女の瞼に彼が口付けを落とした。

「お休み……俺の姫……良い夢を……」

 なんだか、彼の口調がひどく優しくて、懐かしくて……。

(あったかい……なんでだろう……それに――)

 ――懐かしいのは……。

 そうして、ティナは幸せな心地のまま眠りにつけたのだった。



***



 眠りに就くティナに、再び男性の声が聞えてきた。

「……ティナ姫、我が姫……呼び声に応えて……姫……」

 夢の中の騎士様に似ているこの声は……。

「このままでは、貴女様は――邪竜に全てを吸い尽くされ――」

 ――そこで、ぷつんと途絶えた。



***



「……干渉してくるなよ、インフェルノ……今度こそ、俺の邪魔はするんじゃねえ」

 シグリードが唸るように告げた。
 彼の掌の中から光の粒子が零れていたが――。

「消えろ……」

 シグリードが握りつぶした。
 そのまま光は弾けて消える。

「やっぱり、あいつが、ティナに余計なことをしでかしたのか……?」

 そうして、彼は座り直してから一度脚を組み直すと、眠りに就くティナの肩をとんとんと叩いた。
 ふと、彼の表情が和らぐ。

「本当に昔から変わらねえな……すぐに寝るのは――」

 そこで、彼ははっとなる。

「違う……こいつは、あいつじゃない……」

 あいつは――。

 ティナとは違って、淡々と冷静なクリスティナ姫。

 魂を共有しているとはいえ、全くの同質の存在などありえない。

 ティナは――俺の愛したクリスティナ姫では断じてないのだ。

「すまないな、ティナ……俺の目的のために、お前まで巻き込んじまって……全部済んだら、その時はそうだな――」

 彼は瞼を閉じた。

 人としての生を終え、魔神に生まれ変わった自分でも――。

 ――まだ自分にも、姫以外への誰かへの情だとか――そんなものが残ってしまうなんて思っていなかった。

「感情がなかったら、楽だったのにな……なんで残っちまったんだよ……」

 彼がそっと瞼を持ち上げた。

「情なんてない方が良い。そんなもの捨てちまえ……そうでないと――」

 ――自分自身が苦しくなる。

 すやすやと幸せそうに眠る女性は、愛する姫を助けるための道具に過ぎないと思え――。

「だけど、魂の半分はあいつのもので……それにティナは……」

 純粋無垢な瞳で自分を慕ってきているティナ姫。

「どうして、こんなに心が揺らぐ……もうあいつはいない。いないものに執着している俺がいけないのか……?」

 まだ青年の姿のシグリードは、ティナの額に張り付いたローズゴールドの髪を払った。

「まあ、仕方ねえな、これも全部俺自身のせいだ……」

 ちょうど夜の風が、彼の銀の髪を揺らした。

「今度こそ、あいつの囚われた魂ごと――お前の魂も一緒に――全て俺が救ってみせる。そのために情なんて捨ててしまえ……だけど、どうして――騙してるみたいに、こんなに辛いんだろうな……」

 アイスブルーの瞳に移る炎が、ゆらゆらと揺らめく。
 彼の脳裏にティナの百面相が浮かんだ。
 完全にティナに情が移りかけている。
 彼女を自身の手で幸せにしたいと考えている自分がどこかに存在している。
 ぎゅっと唇を固く引き結んだ後、彼は告げる。

「――残り少ない時間の全て、お前に俺の全てを捧げてやるよ……だから、どうか――今度こそ――」

 彼の呻くような吐露は、彼女の耳には届いていなかったのだった。


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