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第7章 2000年前、悲劇
第25話 哀しき再会※※
シグリードとティナの寝所にて――。
ベッドの上で、夫婦は二人で身体を絡ませ合っていた。
彼らの秘所同士はつながり合い、ぐちゅぐちゅと水音を鳴らす。
美青年姿のシグリードが腰を揺らすと、ティナの華奢な身体も揺れ動いた。
荒ぶる男根が蜜口の中を出入りする。
「ティナ、出しても良いか……?」
「は、はいっ……」
快感が彼女の中を駆けあがる。
「ふあっ……あっ、あっ、ああっ……――!」
相手が精を吐ききると、彼女の身体は戦慄いた。
蜜襞がひくひくと蠢き、相手の肉棒をぎゅうぎゅうと締め付ける。
「ティナ……ほら、疲れてるだろうが……俺にお前の可愛い顔を見せてくれ」
「シグリード様……あの……」
彼女は頬を染めながら返した。
「可愛い、可愛いばっかりで恥ずかしいです……」
「そんな可愛いこと言うなよ、ほら、こっち向け」
「んっ……」
彼は彼女の唇を強引に奪った。
二人が口付けを交わすと、くちゅくちゅと水音が鳴り響きはじめる。
最初の頃は無理に舌を絡まされてばかりだったが、今では彼の舌の動きに合わせて、彼女の舌も動いてしまっていた。
二人の唇が離れると、銀糸がかかる。
ティナは、相手の吐息が熱くて、なんだかくらくらしてしまった。
ぼうっとした彼女に彼が囁く。
「さて、このまま仕事をさぼっちまうのも悪くはねえな……」
「……サボりはよくないですよ……」
「ああ? 俺との時間が欲しくないってのか?」
「それは欲しいですが……サボりはダメです」
「ちっ……可愛いお前が言うなら仕方がねえな……」
背が高くなったシグリードが、ティナの額にコツンと額をぶつけてくる。
「だったら、執務に当たる前に、もっと俺にお前をくれよ……」
(なんだろう、その言い回しはとってもずるい……)
彼のアイスブルーの瞳の中、なぜだか炎が見えた気がした。
改めて夫婦の誓いを立ててからは、いつもこうだ。
(シグリード様がすごくベタベタしてくる……)
もちろん嫌じゃないけれど、このままだと身体が保たないんじゃないかと思ってしまう。
「ティナ……」
「シグリード様……」
ティナはぷいっと視線を反らした。
「サボり、ダメなものはダメなんですから……」
「はあ、仕方ねえな……」
そうして、彼は彼女のちゅっと口づける。
「愛する妻がそういうんなら、言うこと聴いてやるよ」
「あ、愛する妻……!」
「お、こっち向いたな」
その後、説得に応じた彼は、彼女の中からずるりと抜けると準備をはじめた。
その時――。
――急速にシグリードが縮んでいく。
「――お……?」
ティナ自身は完治したのだが――彼女の魔力を吸いきったはずのシグリードはといえば、大人の姿のままでいることはない。
「――どうして、シグリード様は大人の姿のままでいられないんでしょうか?」
「ああ? そうだな――まあ、子ども姿が長かったから、魔力が安定するまでに時間がかかってるんじゃねえか? そもそも、俺の心臓はまだお前にくっついてるからな」
「確かにそうですね。心臓がちゃんと元に戻ったら、大人になったままなんですね……それなら、良かった」
彼の言葉を聞いて、ティナはほっとしていた。
「ああ、あとはお前に俺の心臓を返してもらうだけだな――だが、その前に俺はやらないといけねえことがある……」
「やらないといけないこと……?」
すると、彼女の額に彼が額をこつんとぶつけてくる。
「ああ、これから先、何があったとしても――俺のことを信じてくれるか?」
「どうしたんですか、改まって……?」
「――愛してる……ティナ……」
彼は彼女の言葉を遮るかのように口づけを落とした。
そうして――シグリードは部下たちの下へと出向いたのだった。
ティナはぎゅっと胸の前で両手を組んだ。
「なんだろう……なんだか、胸騒ぎがする……」
一抹の不安を覚えながら、彼女は彼の帰りを待つことにしたのだった。
***
身体が疲れていたティナは――ウトウトする。
『ティナ姫……クリスティナーー我が姫』
(あ……この声は……)
たまに聴こえる声……。
『ああ、我が愛しいクリスティナ姫の魂を持って生まれたティナ姫……あの邪竜と……私が倒せなかった、あの化け物と結ばれてしまったのですね……そのせいで、せっかく再生された貴女の美しい魂が汚されてしまった』
(やはりクリスティナ姫の魂を持って生まれたのが私……?)
夢の中の声にティナは問いかける。
「シグリード様と結ばれたから、私の魂が穢れた? そんなことはない。シグリード様は、私の身体を治してくれたの……私におかしな話を吹き込む、貴方こそ一体誰なの?」
『ティナ姫がシグリードを復活させないように、村に一度出向いたはずだ』
「この間現れた、謎の軍勢の……?」
『ええ、現世では――帝国の皇子の身体をもらって、貴方を助け出そうとしたのに、それが出来なかった……貴方の夢に、紅い髪の青年騎士――竜殺しの剣の持ち主が出てくるでしょう?
私の正体は彼なのです』
「え? あの夢は現実に昔あったことだというの? それに、あの紅い髪の騎士様はクリスティナ姫の恋人で……彼こそがシグリード様なんじゃ……?」
『なぜ姫様はそう思われたのでしょう? 長い間シグリードに懐柔されて、どうやら混乱してしまっているようだ』
「そんな……あんなにシグリード様はクリスティナ姫を愛していらっしゃって……」
『ティナ姫の恋人は――紅い髪の騎士インフェルノだ。シグリードは――貴女の夢に出てくる銀髪の見習い騎士の方ですよ』
「え――?」
『――横恋慕した挙句、ティナ姫を守るどころか邪竜に身を堕としたシグリード。今世こそ、私は彼を滅ぼしてみせる……』
「そんな……そんなことって……」
ティナはぎゅっと唇をかみしめた。
そうして、眼光に光を灯して告げる。
「だけど――もしシグリード様がそうだったのだとしても――ティナである私が愛しているのはシグリード様よ。私に話しかけてこないでください」
だが、声は尚も続けた。
『まだ、貴方はシグリードの本当の目的に気づいていない』
「もう貴方の話は聞きたくありません」
『聞いてください――彼は、貴女を使って、壊れたクリスティナ姫を完全な形で戻そうとしているのです』
相手の言葉に衝撃が走る。
『だから、貴女からなかなか心臓を取り戻そうとしないでしょう? どうか、私の話に耳を傾けて――』
夢の中でティナは叫ぶ。
「私はシグリード様に信じてほしいと言われている。だから、絶対に……何があっても信じるんだから……!」
***
ふっとティナは目を覚ます。
うたた寝をしていたが、ネグリジェがじっとりと汗に濡れていた。
心臓がバクバクと音を立てる。
「は……なんだったの、今の夢は……」
ふと、なんだか魔王城の様子がおかしいことに気付く。
彼女は部屋の扉から回廊に姿を映す。
しばらく前まで影にしか見えていなかった魔物や魔族たちの類も可視化できるようになっていたというのに、全く姿がない。
その時、シグリードが姿を現した。
「シグリード様っ……!」
夫が現れ、妻は歓喜の声を上げた。
「ティナ、城の中が妙なことになってる。おそらくインフェルノが何か干渉してきて――ぐっ……」
瞬間――彼が炎に包まれる。
「シグリード様!!」
だが、ティナが近づくと、彼女の魔核からぶわりと黒い塊が出ていった。
すると、すぐに炎は落ち着き、残滓を残して消えた。
「大丈夫ですか? シグリード様?」
「お前はいったい……? 俺はなんで、こんな……?」
美少年姿のシグリードが明らかに困惑した瞳でティナのことを視てきていた。
「シグリード様、いったいどうしたというのですか……?」
その時――。
「久しいな、シグリード……それに、今のわたくしは、このような見目をしているというのか?」
回廊の奥から声が聴こえた。
聞き覚えがあるようなないような……そんな気分にさせてくる、涼しげな女性の声。
「なん……で……」
ティナの声が震える。
そこに立っていたのは、一人の女性。
空の光に黄金に輝く緩やかな髪に、やや釣りがちの空色の瞳の持ち主である、とても美しい女性。
数千年前の高位の女性が身に纏う、白布に豪奢な金の刺繍が施されたドレスをまとっていた。
「私を永遠に守るという約束は忘れてしまって……他の女に現を抜かすとは……シグリードと来たら……」
やや高圧的な物言い。
シグリードの視線はその女性に奪われてしまっていた。
そこに立っていたのは、ティナの転生の前の姿のはずの女性――クリスティナ姫、その人だったのだ。
(シグリード様が守ってきた女性クリスティナ姫……どうして? 私が彼女の欠片である半分の魂を持って生まれたんじゃないの……?)
シグリードはちらりとティナを見た後、すぐにクリスティナへと視線を移す。
振り絞るかのように、シグリードは言葉を発する。
「クリスティナ……何言ってやがる、俺のティナ姫はお前しかいなくて……っ」
頭を抱え、シグリードは呻いた。
シグリードの言葉にティナの心はズクンと疼いた。
だけど、彼の様子がおかしことが心配で気がかりなのだ。
「どうしてだ? 確かに欠片だけど、私がクリスティナ姫の生まれ変わりの姿のはずで……」
「おやおや、その娘は、わたくしの転生だと、本当にそう思ったのか?」
ふんと鼻を鳴らしながら、クリスティナ姫は悠然と答える。
「だって……」
「どうやら魔族たちいわく、お前たちは夫婦関係だったそうじゃないか……まあ、仕方あるまい。二千年もあれば、浮ついた心を持つのは普通のことだ――魂の欠片だけでも、わたくしと結ばれたいと思ってくれるなんて――シグリードはそんなにも、わたくしを愛してくれていたのか」
クリスティナ姫はシグリードを挑発するように見つめた。
そうして、彼女はおもむろに胸元を開いた。
「ほら、忘れてしまったのか? シグリード、お前が刺してついた傷だよ。ちょうど心臓の真上に出来たものだ」
「……っ……」
ティナには彼女の言っている内容は分からない。
だけれど、シグリードならば分かるような内容だったのだろう。
ティナ姫は、そっとドレスの袂を元に戻した。
「私は魔性ではない。それに意地の悪い女にはなりたいとは思っていない――シグリードが壊れて砕けた魂を集めてくれていたおかげで――こうやって、私は復活することが出来た。今、帝国では死者蘇生が流行っていてね……それを体得してくれたもののおかげで、こうやって元に戻れたのだ。二千年近くわたくしを邪竜になってまで守ってくれたお前に恩返しがしたい――お前も恋人にしてやろう……シグリード」
――シグリード様はどうするの?
すると、彼はすっと彼女の下へと歩む。
「すまねえ、ティナ、俺は――クリスティナのことを――」
(あ……)
ティナの心臓がおかしな音を立てた。
そうして、クリスティナはティナをちらりと見ると、こう告げてくる。
「今までシグリードの相手をしてくれてありがとう――わたくしの欠片」
そういうと、クリスティナ姫とシグリードは魔王城から溶けるようにして姿を消した。
ティナは回廊にしゃがみこむ。
「……シグリード……様?」
――あんなに愛してると言ってくれていたのに……。
――2000年分の想いにはやはり勝てず……。
――ティナは捨てられ……。
「愛してるって、信じてくれって言ってたのに……全部嘘だったの……?」
あまりにも心の中がからっぽになりすぎて、ティナの紫水晶の瞳からは涙さえ零れてこなかったのだった。
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