恋なんてはじまらないと

おうぎまちこ(あきたこまち)

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16 アヤトの記憶1

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 父が院長を勤める総合病院の前。

 アヤトは、レイナが実兄の面会を終えて玄関から出てくるのをベンチに座って待っていた。

 彼の中で彼女の占める割合は非常に高い。

(レイナ……)

 レイナは忘れてしまってるようだが、二人の出会いは本当は冬よりももっと前――昨年の夏だった。

 展覧会で「向日葵の虚構」を描いた人物である彼女が、同じ学校の生徒であることを知った。

 いてもたってもいられなくなって、彼女の様子を美術室まで見に行ったことがある。

(あれが、鶴見レイナ……)

 真剣な眼差しで白いキャンバスに向かう小さな少女。
 一心不乱に筆を動かすその姿は、圧倒的な異彩を放っていた。
 色とりどりの向日葵を描いた絵画の中に立つ彼女こそが、熱い陽の下で輝く向日葵よりも情熱的だった。

 彼女の姿を見た時、アヤトの内側の何かが揺さぶられたと思った。
 
 ――心が打ち震えるような、魂が揺さぶられるような――そう、自分自身に隠されていた何かを揺り起こされるような――。

 突き動かされたのだ、自分自身の秘めた情熱を――。

 それはそう、うだるような灼熱の美術室の中、そこに咲く一輪の向日葵によって。



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