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第3話① 夫人と失恋※

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 彼の部屋での仕事を久しぶりに任された。

「最近、貴族の中で強い権力を持つようになった侯爵家との縁を持ちたいと兄上に頼まれたんだ――まだ、断れるかもしれない――だけど断ったら兄上の治世に影響が出てしまうかもしれない――だけど――」

 政略結婚が決まりそうだと、慌ただしくなったアイゼンと久しぶりに出会った時に、ぽつりぽつりと彼が話しかけてきた。
 彼の水色の瞳は精彩を欠いて見える。

(アイゼン様は、お兄様である皇帝陛下のことを慕っていらっしゃる。ただでさえ、殺されたイグニス様のこともあるのだから、お兄様の命に反発はしたくないのだわ……)

「ルビー……私は――」

 気づけば、わたしは彼に抱きしめられていた。

 苦しそうな表情で、わたしに声をかけてきたアイゼン様。
 彼の辛そうな声を聴くだけで、胸が軋むようだった。

 彼の背に、手を回したい。

 いっそ彼に身を委ねてしまいたい――。

 そんな抱いてはいけない気持ちが、頭をもたげてくる。

 その時――。

「ルビー……」

 アイゼン様がわたしの名を呼んだかと思うと――。

「っあ……」

 わたしの上唇を、彼の唇が甘く食んでくる。

「アイゼン様――」

 半開きになった唇に、彼の唇が重ね合わされた。
 しばらく彼のなすがままになる。
 次に、互いの舌同士が絡み合い、くちゅりくちゅりと、羞恥を誘うような水音を立てた。

「ふあっ……んっ……ぅ……」

「ルビー、私がこうしたいのは、君だけなんだ――」

 続いて、首筋に彼の唇が押し当てられ、音を立てながら吸われてしまう。
 身体がぴくり、ぴくりと反応してしまった。
 そのまま黒いワンピースの襟元を開けられ、彼の唇が這う。

「ルビーの服の中、白くて滑らかな肌をしている――」

 顕わになった鎖骨に、彼の熱い息がかかり、恥ずかしくて仕方がない。

「あっ、あ、っやっ、あ――」

 いつの間にか彼の両手が、二つの膨らみを下から上に揉みしだき始めていた。
 彼の手が、乳房の形を変えるようにして動くたびに、わたしの身体にぞくぞくとした感覚が走り抜ける。

 もういっそ快楽に身を任せてしまえたら、どんなにか楽だろう――。

(だけど、わたしはアイゼン様の城で働くただの使用人……)

 わたしは彼の身体を突き飛ばしていた――。

「アイゼン様の奥様にも、誠心誠意努めてまいりますわ――」

 無理に笑顔を作って、彼にそうとだけ告げる。

「ルビー……! 待ってくれ! いかないでくれ、ルビー!」

 アイゼン様は必死にわたしの名を呼んでいた。

 だけれど、走って追いかけてくることなどはなかったのだ。
 


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