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第6話① 愛されたいと願わなければ
しおりを挟む侯爵とのからルヴィニ夫人の父親であるメーロ侯爵との一件から数日が経った。
夜も更けた頃――。
荷物をまとめたわたしは、こっそり城の玄関から飛び出す。
(このまま城にいては、アイゼン様やルヴィニ夫人の迷惑になってしまう)
音を立てないように、こっそりと夜道を歩き始めた。
(アイゼン様のご厚意に甘えすぎた……ご夫婦の邪魔をしてはいけない、わたしがいなくなるのが一番良いのだわ)
城にいるとどうしてもアイゼンのことを目で追ってしまう。
色目をつかうつもりも毛頭ない。
だけど、ルヴィニ夫人からしたら、妻以外の女をかばう夫は嫌に違いない。
口づけられたことだってある。全く関係がなかったとも言い切れない。
(きっと、わたしがアイゼン様のことを想っているのにも気づかれているのよ……だから、夫人も情緒不安定になるの……)
愛しい彼の姿を、もう二度と見れなくなるかもしれないことへの悲嘆はある。
(でも、会えなくなる方が良いに違いない。そうすれば、アイゼン様がルヴィニ夫人と一緒にいるところも見て辛くなることもない。何より気持ちを断ち切ることが出来るかもしれない……)
どうしても、彼の姿を見ると、身を焦がすような恋情がわいてくるのだ――。
妻のいる相手に対して、抱いて良い感情ではないのに――。
それでも、愛する気持ちを止めることができない。
そばにいると、声を聴きたいと思うし、優しい言葉をもらいたい。
笑顔が欲しいし――何よりも触れたくなる。
どんなにふたをしようとしても、どんなに否定しようとしても――。
湧き上がる彼への気持ちを抑えることができない。
もうむしろ、いっそのこと死んで、この苦しい気持ちから解放されたいとさえ思ったのに。
あの燃え盛る村の中で、彼に助けられた命を、粗雑に扱うことも出来ない。
(だったら、やっぱり距離を置くのが最適解だわ……)
このどうしょうもない愚かな自分の気持ちをどうにかしたくて、必死に城から続く山道を駆け下りた。
どれだけ山を下っただろうか。
こっそりと抜け出したつもりだったのだが――。
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