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(リュウちゃん……)

 舞台の内容は昭和・戦時中の頃の話。
 戦争で引き裂かれる男女二人の恋物語だ。
 日本の軍服を着ているリュウセイは、本物の軍人のようで格好良い。
 俳優として演技をする彼は、ひどくキラキラ輝いて見えた。

(遅刻して、申し訳ない)

 かなり良い席をとってもらえていたようだ。

(というよりも、むしろ関係者席に近いような?)

 そんなことを思いながら、警備の人の後ろを着いていく。
 もうすでに暗くなってしまっていた舞台脇の通路を慎重に進む。
 ふと、滞りなく声を響かせていたリュウセイが口を噤んだ。すぐに次の言葉を紡ぎはじめる。

(……リュウちゃん?)

 舞台中に不謹慎かもしれないが、観客がひそひそと言葉を交わす。

「大神さんにしては珍しい、台詞をつっかえるなんて」
「よっぽどのファンじゃないと気づかない箇所だろうけど」
「舞台も数日続ければ、疲れちゃうのかもね」

 ――本番に強いリュウセイにしては珍しい。

(確かにリュウちゃんにしては、いつもの人を圧倒するような雰囲気だとか、迫力みたいなものが全くないというか……)

 いったいどうしたのだろうか?

 心配になりながらミサは着席した。
 噂の女優のRINは近くにはいない。
 ドラマよりも大振りのだが、切れ味のないリュウセイの演技を見つめる。

(リュウちゃん、大丈夫かしら?)

 ちょうど話の区切りになり、彼が舞台脇に入っていくことになった。
 周囲では少しだけ残念そうな声や批難の声も上がる。

「やっぱり顔だけなんだよ」
「実力派なんて言われているけれど、女性ファンを味方につけてるだけなんだよ」

 ――そんなことないのに――。

 ミサはぎゅっと膝の上で、きつく両手を握りしめた。

(リュウちゃん……)
 
 演技中だとというのに、どことなく悔しそうな顔をしたリュウセイ。
 祈るように彼女は彼を見つめた。

 その時――舞台袖に消える彼と、ミサは目がばっちり合った気がした。

(舞台に集中してるはずのリュウちゃんと目が合うわけないかな)

 姿を消す際、ふっと彼の張り詰めていた空気が和らいだ――。

(気のせいかな?)

 そうして、次に衣装替えした彼の出番が来た時には、いつものリュウセイの演技に戻っていた。
 ミサはほっとする。

(良かった……リュウちゃんはやっぱり演技が上手ね)

 というよりも、今まで以上の圧倒的な演技を彼は見せはじめていた。
 周囲の観客たちの、ほっとしたため息が聴こえてくる。
 ひそひそ話をしていた人々も、息を呑み、舞台にのめり込んでいった。
 観客一体となって固唾を呑む。
 さすがリュウセイ、主演を貼るだけはある。他を圧倒した演技。

(なんだかリュウちゃん以外の人たちも……)

 助演達も彼の熱に飲まれていたようだ。
 もう客たちは、熱気の渦へと誘い込まれてしまっていた。
 テレビで見かけたことのある評論家がぽつりと呟く。

「周りも大神に引きずられて、良い演技をしているな」

 そうしていよいよ物語は終盤。
 戦争から帰還した主役とヒロインが浴衣姿で寄り添いあう。
 最高潮を迎えたまま、物語は終結したのだった。
 最初はシンと静まり返っていた。
 だけど、どこかから拍手や感想が漏れてくる。

「すごかった!」
「大神さん!」

 舞台は盛況のうちに終わる。
 観客たちの拍手が鳴りやまない。
 中には「顔だけじゃなかった」「本当に実力があるんだろうな」と悔しがる声まであがった。
 そんな中、いつもよりも公演時間が長引いているようだ。
 普段と違う様子に、周囲から疑問の声が上がった。

 すると――。

『皆様に謝罪したいことがあります』

 舞台の中央にリュウセイが現れた。
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