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第1章 残酷非道な騎士団長との出会い
第3話 黒き命令④
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……夜。
それはつまり、夜の相手でも何でもしろということだろう。
義父の母やイリスへのこれまでの対応を鑑みるに、女性を道具か駒と思っている節がある。
イリスの胸の内に沸々とラシーヌ侯爵への嫌悪が湧いてくる。
とはいえ、逆らって母の立場を悪くしたくはない。
「滞在中はお前とまず遊んでもらって、我が国を気に入ってもらってから、由緒正しい侯爵家の血を引くパンセを選んでもらえさえすれば、それで良いからな」
イリスはラシーヌ侯爵の顔を見たくなくて視線を逸らした。
「……承知しました」
「物分かりが良くて結構。それでは」
ラシーヌ侯爵が廊下から奥に向かって消えるまで、イリスは黙って頭を下げ続けた。
悔しくて仕方がなかったが、相手からは絶対に見えない位置で歯を食いしばって耐え抜いたのだ。
(隣国シュトラール王国から来たレードヴァルド将軍)
まだ少し会話をした印象でしかないが、レードヴァルドは、戦闘中はまるで獣のようだったが、女性に対して飢えたような印象はなく、どちらかというと潔癖そうな雰囲気の持ち主だった。
だから、先ほどのラシーヌ侯爵の話は、ただの願望といっても差し支えないだろう。
それともレードヴァルドも男性なので、夜になると態度が豹変するのだろうか?
(古い慣習に縛られて、いまだに男尊女卑の激しいオセアン王国とは違い、再興したシュトラール王国は、女性たちも積極的に働いて賃金を稼いで暮らしているという。お母様と逃げ出す先としては悪くないかもしれない)
とはいえ、ラシーヌ侯爵が逃がしてくれればの話だが……
レードヴァルドの世話をしたりする機会が今後巡ってくるかは分からないが、その際に隣国の話を伺ってみたら、今後の自分にとっても有益な可能性がある。
(自分にとっての生まれ故郷でもあるシュトラール。すごく思い入れがあるわけではないけれど、お母様と一緒に旅立つ新天地としては悪くないかもしれないもの)
災い転じて福となす。
ラシーヌ侯爵からレードヴァルドの言いなりになるように命令されて、ある意味では良かったといえよう。
イリスは顔を上げると前を見据える。
「使用人の皆が待っているわ、行きましょう」
そうして、イリスは仕事に戻るために、一歩前に進んだ。
この時、イリスとラシーヌ侯爵のやり取りを黙って聞いている者がいるとは、当の本人たちは知る由もなかったのだった。
それはつまり、夜の相手でも何でもしろということだろう。
義父の母やイリスへのこれまでの対応を鑑みるに、女性を道具か駒と思っている節がある。
イリスの胸の内に沸々とラシーヌ侯爵への嫌悪が湧いてくる。
とはいえ、逆らって母の立場を悪くしたくはない。
「滞在中はお前とまず遊んでもらって、我が国を気に入ってもらってから、由緒正しい侯爵家の血を引くパンセを選んでもらえさえすれば、それで良いからな」
イリスはラシーヌ侯爵の顔を見たくなくて視線を逸らした。
「……承知しました」
「物分かりが良くて結構。それでは」
ラシーヌ侯爵が廊下から奥に向かって消えるまで、イリスは黙って頭を下げ続けた。
悔しくて仕方がなかったが、相手からは絶対に見えない位置で歯を食いしばって耐え抜いたのだ。
(隣国シュトラール王国から来たレードヴァルド将軍)
まだ少し会話をした印象でしかないが、レードヴァルドは、戦闘中はまるで獣のようだったが、女性に対して飢えたような印象はなく、どちらかというと潔癖そうな雰囲気の持ち主だった。
だから、先ほどのラシーヌ侯爵の話は、ただの願望といっても差し支えないだろう。
それともレードヴァルドも男性なので、夜になると態度が豹変するのだろうか?
(古い慣習に縛られて、いまだに男尊女卑の激しいオセアン王国とは違い、再興したシュトラール王国は、女性たちも積極的に働いて賃金を稼いで暮らしているという。お母様と逃げ出す先としては悪くないかもしれない)
とはいえ、ラシーヌ侯爵が逃がしてくれればの話だが……
レードヴァルドの世話をしたりする機会が今後巡ってくるかは分からないが、その際に隣国の話を伺ってみたら、今後の自分にとっても有益な可能性がある。
(自分にとっての生まれ故郷でもあるシュトラール。すごく思い入れがあるわけではないけれど、お母様と一緒に旅立つ新天地としては悪くないかもしれないもの)
災い転じて福となす。
ラシーヌ侯爵からレードヴァルドの言いなりになるように命令されて、ある意味では良かったといえよう。
イリスは顔を上げると前を見据える。
「使用人の皆が待っているわ、行きましょう」
そうして、イリスは仕事に戻るために、一歩前に進んだ。
この時、イリスとラシーヌ侯爵のやり取りを黙って聞いている者がいるとは、当の本人たちは知る由もなかったのだった。
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