【R18】使用人令嬢は堅物騎士団長に不器用に愛される 〜王太子殿下が義妹じゃなくて私を専属メイドとして契約するって本気ですか!?〜

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
22 / 107
第1章 残酷非道な騎士団長との出会い

第3話 黒き命令⑥

しおりを挟む
 声を揃えて尋ねてきた双子に対して、イリスは真剣な表情で返した。

「少しだけ風変わりな印象を受けたわね」

「え?」
「風変わり?」

 グリンダとグララは顔を見合わせる。

「黒獅子なのに?」
「残酷非道なのに?」

 イリスは思案に耽った。

(だって、冷静に考えてみればおかしいわ。あの時間帯に裏山の中で野宿をしていて、安眠妨害されたって言って、結局仲間を待たずに屋敷に来たかと思ったら、客室につくなり速攻寝入ったのだもの……)

 レードヴァルドは残酷非道な人物だという噂だったが、イリスからすれば風変りな人物にしか見えなかった。
 ちょうどイリスの頭上でさっと影が差したが、考え事に夢中になって気づけなかった。

「もう夜なのに夕食にも顔を出さなかったし、もしかすると、まだ寝ているのかも?」

 グリンダとグララが再び顔を見合わせた後、イリスと彼女の頭上を何度も忙しなく眺めている。
 イリスはポンと手を打った。

「そう、レードヴァルド将軍は、まるで冬眠中の獣のような人で――」

「誰が冬眠中の獣なんだ?」

 突然、第三者の声が頭上から耳に届いた。

「え?」

 イリスはパッと顔を上げる。
 なんと、そこには今しがた話題に挙がっていたレードヴァルド本人が立っていたのだ。
 イリスは思わず息を呑んだ。

(しまった!)

 グリンダとグララは、イリスとレードヴァルドの様子を引き続きチラチラ眺めているだけで、間に入ってくれそうにはない。
 イリスは直ちに頭を下げる。

「大変申し訳ございません、不快な物言いをしてしまいました」

 すると、レードヴァルドは伏し目がちになった。

「気にするな。罵詈雑言の類を受けるのには慣れている」

「でしたら、尚のこと謝らなければなりません。それに、朝助けてもらったお礼もまだでしたし」

「礼は必要ないが」

「ですが……」

 イリスは恩人相手に失礼な言い回しをしてしまったことで、少々罪悪感に苛まれてしまっていた。
 すると、レードヴァルドが頷いた。

「それなら、そうだな」

「なんなりとお申しつけくださいませ」

 そうは言っても、見知らぬ青年の夜の相手はごめんこうむりたいけれど……

「だったら……」

 レードヴァルドがイリスに命じた。

「今から俺の部屋に来てもらいたい」

 まさか、ラシーヌ侯爵の予言通り、イリスは夜にレードヴァルドの部屋に誘われることになってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

処理中です...