【R18】使用人令嬢は堅物騎士団長に不器用に愛される 〜王太子殿下が義妹じゃなくて私を専属メイドとして契約するって本気ですか!?〜

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第5章 罠にかかる二人

第19話 さようなら①

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 眠りに就いていたイリスだったが、そっと目を覚ました。窓の外を見れば、そろそろ月が沈もうとしている頃だった。
 彼はといえば、すうすうと寝息を立てて眠っている。

(私と一緒に過ごすようになって眠れるようになったって話していたものね)

 イリスはレードヴァルドの役に立てているようで嬉しくなってくる。
 けれども、疑念があった。

(先ほどは落ち着いてくださったけれど、このままだとレードヴァルド様がラシーヌ侯爵領を滅ぼしかねないわ。外交問題になっては、レードヴァルド様にとっても両国にとっても絶対に良くない)

 イリスは床に落ちている衣服を拾うと袖を通す。仕上げにローブを纏うと革靴を履いた。
 窓を開くとひんやりとした風が吹き込んできた。

「ん……?」

 レードヴァルドの声が聴こえたため、イリスは身を強張らせる。
 背後に目を向ける。

(良かった、寝言だったみたいね)

 レードヴァルドはまた寝息を立て始めたため、イリスはほっと胸を撫でおろす。
 彼女は窓枠に両手を置いて片膝を乗せると、急いで外に向かうことにした。

「さようなら、レードヴァルド様」

 実はもう荷物は準備してある。今は一時的に敷地内にある干し草置き場に置いてある。

(グリンダとグララが、荷物を綺麗にまとめておいてくれて本当に助かったわ)

 ラシーヌ侯爵がイリスのことをレードヴァルドが滞在中の客室から追い出した後、グリンダとグララの二人が荷物の片付けを手伝ってくれようとしたのを制したのだ。

『グリンダ、グララ、荷物を開封する必要はないわ。そのままにしてちょうだい』

 双子のメイドは不思議そうに顔を見合わせていた。

『どうして?』

『どうしてなの?』

 続けざまに問いかけられて、イリスは困ったように笑った。

『ええっと、明日になったら自分で開けるから。今日は眠いからそのままにしようと思うの』 

 グリンダとグララがキョトンとした顔をしながら続けた。

『なんだ、じゃあ仕方ないわね』

『明日手伝うから』

 そうして、二人とは別れを告げた。

(二人には嘘を吐いてしまったわね)

 そう――
 嘘が苦手なのに嘘を吐いてしまったのだ。

(だって私は……)

 イリスは荷物を背負ってラシーヌ侯爵領を抜け出そうと決意しているのだから。
 元々そんなに多くのものは持っていなかった。
 イリスは馬小屋に隠しておいた荷物を背負うと、外に飛び出る。
 丘の向こうから少しだけ朝陽が顔を覗かせ始めていた。

(皆が目を覚ます前に急がなきゃ)

 そうして、侯爵領の裏手の山へと向かう。
 
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