βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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すぐそこにある危機。

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命side

俺は秘書や護衛を車に残し
はやる気持ちを抑えながら皆瀬行きつけのBARへと入る…
すると早速テーブル席で泣き崩れている男が目に入り
俺は若干引くが――

「かなめぇ~…」

カクテルを握りしめながらテーブルに突っ伏して妹の名前を呟くその男に
店内には今しがたBARに入ってきた俺を含め
マスターとテーブル席に座る2人の男の計4人しかおらず…
お陰で俺は一発でそいつが皆瀬洋一である事を確認出来た

―――もう妹と別れて一か月近く経つというのに、まだ泣いているのか…
   何とも情けない…

俺は泣いている皆瀬の方を一瞥しながらカウンター席に着くと
マスターにジン・トニックをオーダーしながら
もう一度確認するかのように背後にいる皆瀬の様子を伺う

―――しかし…ようやく会えたな…皆瀬洋一…

俺はようやく直(じか)で会いたかった男
皆瀬の顔を見る事が出来て安堵で顔をが綻ぶ…

―――それにしても――

俺はチラリと後ろの席の皆瀬の顔を見やる

―――普通だな…

妹はかなり面食いな所があり、今まで付き合ってきた男女は皆
モデルかはたまた海外の俳優か女優のような華やかな顔立ちの者達ばかりで
こう言っては何だが――皆瀬の様に華の無い…
こんな何処にでもいそうな平凡な顔立ちの男に、妹は一体何処に惹かれたのかと…
匂いと言っても高(たか)があるだろう…と
この時の俺はそう思っていた…

―――しかもあの男…座ってて断言できないが――妹より背、低いだろ…

愛に身長や性別など関係無いとはいえ――
妹は身長179㎝あり、黙っていればスレンダーな美人だ
どう見ても妹と皆瀬が釣り合う要素など何処にも見当たらなくて
俺は益々首を傾げる

―――本当に妹は何であんな平凡そうな男に――

俺が皆瀬の事を不思議に思いながらジン・トニックを傾けていると
フワッ…と、カクテルとは違う…甘く…良い匂いが俺の鼻腔をくすぐり
俺はカクテルを飲む手を止める

―――何だ…?この――今まで嗅いだ事の無いような…甘い匂いは――

Ωのフェロモンとは違う…
それでいてΩのフェロモンの様に思わず引き寄せられてしまいそうな
その甘くて落ち着く匂いに、俺は心を奪われる…

―――まさか…この匂いは皆瀬から…?

俺は皆瀬から漂ってくるこの匂いに完全に気を取られ、油断していた

だから気づくのが遅れたのだ
店のベルが鳴り、危険な匂いを漂わせたΩが
俺の直ぐ傍まで迫ってきていた事に――
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