βは蚊帳の外で咽び泣く

愚妹が泣いた日。

命side

正直――この店に訪れたのは偶然ではない…

会ってみたかったのだ…あの愚妹が“良い匂いがする”と言って執着し
結婚したいとまで宣（のたま）った男――
“皆瀬　洋一”と言う男が一体どんな男なのか…
会って…直接この目で確かめてみたかった

もう愚妹と皆瀬が別れてから一か月近くが経ち
鬼生道家と関わる事の無くなった男など…今更会ってどうするのか…と
そう、思いはしたが――

それでも会ってみたかった…

あの愚妹が泣いてでも別れるのを嫌がった皆瀬洋一という男が
一体どんなヤツなのかを――

会って…確かめてみたかったのだ…

だから俺は探した、皆瀬洋一を

そしたら思いのほかあっさりと居場所は直ぐに割れた
鬼生道財閥が保有する会社の一つ“株式会社グロース”…
彼はそこで社員として働いていた…

俺は忙しい身でグロースに割ける時間は余りなかったが
それでも何とか時間を作ってグロースに赴いたりもしたが
何故か行く部署行く部署人だかりができてしまい
結局会社では会う事は出来ず…

それならばと探し当てたのが皆瀬行きつけのこのBARだった…



当初俺は皆瀬が妹と別れる前はこう思っていた

どうせ皆瀬も他のヤツらと同じだろうと…
鬼生道家の財が目当てで妹に近づいたのだろう…と――

鬼生道家は古くから大きな力を有しており
政財界に与えている影響は計り知れず…

それ故に近づいてくる不逞の輩も大勢おり――
もし皆瀬洋一もそんな輩の一人で
良からぬ考えを抱き、妹に近づいて来たのであれば裏で処理してしまおうと…

そう、思っていた

しかしそんな矢先、妹は――
これも何かの陰謀か策略なのか…あまり考えたくはなかったが
“由緒正しい”桜花（おうか）家のご息女…
Ωである桜花　桜子（おうか　さくらこ）のフェロモンに中てられ契ってしまい…

その事から桜花家から激しく番う事を迫られ
愚妹は嫌がったが、家の面子を保つためにと愚妹は桜子と番う事に…

元はと言えば愚妹が迂闊だった事が招いた事とはいえ
桜子と番う事となった日の愚妹の表情は今でも忘れられない…

「洋一…」と言ってしくしくと泣き続けるのだ…
まったく女らしくないあの愚妹が愛する男を思いながら…