βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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二人が向かう先は――

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「――ふれ、るな…」
「なんですって?」

横山が薄い笑みを浮かべながら聞き返す
すると俯いた命がスッと顔を上げ、金色に輝く命の瞳と目が合い
横山が息を飲み込んだ次の瞬間


「――皆瀬に触れるなっ!!!この…馬鹿者どもがっ!!!」


「ッ!?!?」
「ぅ…ぁ…?!」

命の声に辺りの空気がビリビリと震え
洋一に触れようとしていた神代と八咫
それとソファーの近くでその様子を眺めていた横山までもが
ビシッとその動きを止め

「う…ごけな…、」
「なんだ…コレ…ッ、」
「う”ぐぅ…」

石のように動けなくなった3人を尻目に
命が目を金色に輝かせながらゆっくりと洋一に近づく
そこに佐伯が息を切らせながら現れ――

「命様っ!」
「…佐伯…」
「…ッ!?」

金色に輝く命の瞳を見た佐伯が一瞬戦く

「命様…これは一体…」

佐伯が言葉を発する事無く固まっている三人と
ソファーの上で苦し気に身悶えている洋一の様子に唖然とする

「ッ、…お前は…ハァッ…ハッ…、っだい、じょうぶ…ッ、なのか…?」
「…?何がです?」
「Ωの…、ッ、洋一の…フェロモン…」
「フェロモン…?命様…私には既に番が――」
「ああ…、ッ、そう…だったな…ところで佐伯…」
「はい。」
「俺はもう――限界だ…
 部屋を…ッ、取ってきてはもらえないか…?」
「部屋を?」
「…ッ、頼む…、」
「…かしこまりました。」

金色に輝く瞳とは対照的に
顔色の優れない命を見て、何かを察した佐伯は
このホテルの部屋を取る為に命の傍から一旦離れ
それを見届けた命は、ソファーの上で呻きながら身悶えている洋一の元に
覚束ない足取りで近づく

「…あ…きら…ッ、ぅぁ…ハ、ァッ…ハァ…、さん…、」
「ッ、…皆瀬…」

未だにヒート状態な上に近くにいる神代と八咫から溢れ出るαのフェロモンによって
碌に動けない洋一が、呼吸を乱し、涙で濡れる瞳で命を見上げる

「、ぅ…大丈夫か…?…ッ、皆瀬…、」

命の手が洋一背中と膝を支えながら
ゆっくりと洋一の身体をソファーから持ち上げ
力の抜けきった洋一の両腕がおずおずと命の首に縋る様に回される…

「あきらさん…、ふ、ぅッ、あき、ら…さん…っ、」

意識が朦朧としている洋一が、泣きながら命の首筋に顔を埋め
甘えるような仕草で命にしがみつき

命はそんな洋一を姫抱きすると、若干心許ない足取りで部屋を後にする

すると命達が部屋を出ると同時に固まっていた三人は
力が抜けたかのようにその場に倒れ込み――

「っつ…何…っ?今の…ッ、」
「ぅ…アレはまるで…大神様の…」

神代と八咫が起き上がり
自分達が先程脱ぎ棄てた上着を羽織りながら命たちの出て行ったドアの方を見る

「…どーする?後を――追う?」
「いや…やめておこう…洋一の発情フェロモンは薬による“偽物”だから
 フェロモンを感じなくなった瞬間
 私達は直ぐに正気を取り戻す事が出来たが――例え“偽物”でも
 未だに発情フェロモンを溢れさせている今の洋一に再び近づくのは危険だ…」
「…だよねぇ…それにしても命様凄いな…
 例え“偽物”の発情フェロモンでも正気を失わずにいられるなんて…」
「…それはどうかな。」
「…?」
「それより…コイツをどうするか…」

神代がゴミを見るかのような目で、気絶している横山を見る

「…そーだなぁ~…そーいやコイツ…
 命様のお父上と懇意にしてるって聞いてるけど――
 “弱み”を握ったら何かに使えるかも。」
「…早速調べさせよう。」

そう言うと神代はスマホで何処かに電話をかけ始め
八咫は気絶している横山から、洋一に使ったと思われる薬を
スーツの内ポケットからこっそり抜き取ると、2人は部屋を後にした
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