βは蚊帳の外で咽び泣く

離さない。

「俺が…お前から離れる訳がないだろう…」

洋一にとって
要との別れは精神的に相当ショックだったらしく…
まるで子供がえりでもしたかのように
たどたどしい言葉遣いで命に「離れないで」と言いながらしがみつき
泣き始めた洋一に

命はその身体を優しく抱きしめ、頭にキスをしながらそう告げると
洋一がピクリと肩を震わせ、潤んだ瞳で命の事を見上げる

「…ホント…？」
「ああ…本当だ。俺がお前から離れるなんて…考えられ無い…」
「でもッ、…要は…俺から離れたよ…？ッ…“運命の番”を…、…見つけて…っ、」
「ッ、それは――」

命の背に回され、ギュッと服を握っている洋一の両手に力が籠り
不安に揺れる洋一の瞳が、真っ直ぐに命を捉えながら
洋一が命からの答えを待つ…

―――どうする…洋一に話すべきか…？

要が実は“運命の番”などを見つけたのではなく
家の面目を保つために無理矢理番わされたのだという事を…

そして覚悟を決め、番うその瞬間まで洋一の名を呼んでいた事を――

「…ッ、」

命が悲痛な表情を浮かべながら唇を噛みしめる…

―――そんな事…今更洋一に話してどうなるとういうんだ…

「…命さん…？」

悲痛な表情なまま押し黙り、自分の事を見つめる命に
洋一の不安が募る…

―――真実を知ったところで…要が桜子と番った事実は変わらない…
　　　これ以上…洋一を傷つけてどうする！今重要なのは――

「洋一…」
「は…んぅッ？！」

突然命に呼ばれ、洋一が返事をしようと口を開いた瞬間
命の唇が洋一の唇と重なる…

「ん…ン…あきらさ…っ、」
「…離さない。」
「ッ、」

命の唇が洋一の唇から離れ、命が真剣な眼差しで洋一の瞳を見つめる

「俺は…絶対にお前の事を離さない。
　要と言う前例がある以上…俺のこの言葉など
　今のお前からしてみたら何の慰めにもならないかもしれないが…」

命が洋一の目蓋にびついばむ様なキスをしながら言葉を続ける

「それでも俺は――
　お前の為ならその“運命”すら跳ね除けてみせる…だから――」

命がその言葉を聞いてポロポロと涙を零し始めた洋一の身体を掻き抱き
その耳元でそっと囁く

「お前こそ…俺から離れるなよ？洋一…
　最も――俺が離さないが。」
「っ、うぅ…ッ、俺だっ…て…っ、ｸﾞｽｯ、はな、れない…離さない…っ！」

洋一は再び耳まで真っ赤にしながら命の胸に顔を埋めて泣きだし
命はそんな洋一のおでこや頭に何度もキスをしながら
小さく震えるその身体を抱きしめ続けた…