βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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それでも…

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―――ああ神様…これは何かの悪い冗談なのでしょうか…?

「かなめ…」

洋一がソファーからゆっくりと立上り
驚愕の表情を浮かべたまま
その瞳には薄っすらと涙を滲ませながらリビングの入口に立つ
一見しただけでは女性とは分かりずらい
中性的な外見の人物の名を洋一が震える声で呟く…

「ッ、何で…っ、」

―――何で…今更こんな…っ!

洋一は自分でも女々しいとは思いながらも
後から後から溢れ出る涙は止められず…

洋一はただひたすら目の前に居る女性を見つめる…

“運命の番”を見つけたと
βの洋一には理解しがたい理由で一方的に別れを告げ
それでもなお、別れてからも女性への未練を捨てられず…
ずっと逢いたいと願いながら
一か月近くも未練タラタラでBARで泣きながら飲んだくれる原因となった女性…

鬼生道 要を…

「よういち…、ッ、貴方こそ何故…此処に…」

洋一が此処に居る事は要にとっても想定外の出来事だったらしく…
要の方も、洋一と同じくらい驚いた表情を浮かべながら
リビングの外へと後ずさろうとしたが――

「…ッ!この匂い…洋一…貴方まさか――」

要は後ずさるのを止め、洋一を見つめたまま
今度はゆっくりと…少しふらつくような足取りで要が洋一に近づこうとしたその時

「――それ以上…洋一には近づかないでもらいたい…要さん…」

浩介が持っていたコーヒーをコーヒーテーブルの上に置き
ソファーから立上ると、洋一を背後に隠すようにして要と洋一の間に立つ

「篠原…さん…」

要が悲し気な表情をしながら目の前に立つ浩介を見つめ
浩介はそんな要を少し怒ったような表情で見つめ返す…

「貴女がどんな理由があって此処を訪れたかまでは知ら無いが――
 洋一はようやく貴女の事を想って泣かなくなったんだ…
 これ以上…洋一を傷つけない為にも
 貴女には此処での用が済んだら早々に立ち去ってもらいたい。」
「…何で私が立ち去らないといけないの?立ち去るなら――」
「…洋一のやつは今、ある理由があって命様と一緒に此処で暮らしている。
 だから…」
「ッ!?ちょっと待って…っ、」

要の顔が血の気が引くようにサァー…と青ざめていく…

「洋一…貴方今…兄さんと此処で一緒に暮らしているの…?
 だから“こんな匂い”を漂わせているの…?!」
「…?こんな――匂い…?」

浩介が訝し気に要を見る

「…マーキングの匂いよ…“兄さん”の…、」
「マーキングって…」

浩介が涙を流しながら後ろに立つ洋一の方をギクシャクとした動きで振り返り
その顔を思わず凝視し
要が追い打ちをかけるかのように震える唇を動かす…

「…洋一は――兄に抱かれたって事…」
「…ッ、」

背後に立つ洋一からヒュッ…という息を飲む音が聞こえ
浩介が思わず洋一の二の腕を強く掴む

「ッ、ぃっ…たいよ…浩介…っ!」
「本当――なのか…?洋一…」
「……っ、」
「要さんが言ってる事は…本当…なのか…?
 お前が――“命”に抱かれたって…」

浩介の洋一の腕を掴む力が自然と強くなり
洋一の顔が苦痛で歪む…

「そんなの…っ、浩介には関係無い事でしょ?!ほっといてよっ!もうっ、」

泣きながら浩介の手を振りほどこうと身を捩る洋一に
浩介の中の怒りにも似た、何とも言えない感情が沸々と湧き上がり
振りほどこうとする洋一の腕を、より一層強く握る

「お…まえは…っ、要さんとの事があったばかりなのに“まだ”懲りてないのか…?」
「…ッ、」

浩介の表情が苦渋で満ち
洋一は何も言い返せずに、ただ浩介から逃れようともがく

「“運命の番”が現れた途端…αとβが互いにどんなに愛し合っていても
 αは平気でβを捨て、Ωを選ぶ…
 抗えないんだよ…“運命の番”には…
 現に――要さんは抗えなかっただろ…?」
「ッ!それは――」

浩介が冷たい視線で要を見つめ
要が下唇を噛みしめながら俯く…

「だからαは…命だけは止めておけ。な?
 どういういきさつでお前と命がそういう関係になったかまでは知ら無いが――
 このまま命と関係を続けたら…確実に辛い想いをするのはお前だぞ?洋一…」

浩介の脳裏に――
未だに“運命の番”に怯えなががら暮らす母親の姿と洋一の姿が重なる…

「俺は…お前に俺のお袋みたいに“運命の番”に怯えてほしくないんだ…
 だから――」

浩介が俯いて泣いている洋一の頬にそっと触れようとした瞬間

「…ッ、それでも…っ、それでも俺は――」

洋一がバッと掴んでいた浩介の腕を振りほどき、玄関へ向けて走り出す

「ッ!?洋一っ!」

浩介と要も慌てて後を追うが
洋一はエレベーターへと乗り込み、浩介と要が駆けこもうとするが間に合わず
エレベーターのドアは無情にも浩介たちの目の前で閉じ
洋一を乗せたエレベーターは一階へ向けて動きだす…

「…不味いわね…早く洋一を止めないと…」
「…?何故?」
「貴方はβだからわからないだろうけど…
 マーキング臭を漂わせた今の洋一は大変危険よ。
 なにしろ…αにとって他のαのマーキング臭はとても刺激が強く
 相手の攻撃性を煽るものなの…だから――
 あんな状態で洋一が外に出たら他のαになにされるか…」
「そんな…っ、」

―――洋一っ、

「あ、ちょっと…っ!」

浩介は居ても立っても居られず
エレベーターを諦め、非常階段に向けて走り出した
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