βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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上書き。

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「此処を泣きながら出て行った男の人がいたと思うけど――
 どっちの方角に行ったかわかる?」

要がエントランスホールに居たコンシェルジュに洋一の事を尋ねる

「泣きながら…皆瀬様の事ですね?
 ドチラに行かれたかまでは分かりかねますが――
 皆瀬様でしたら正面玄関を出て
 左の方へと走って行く姿をお見かけしましたが…」
「正面玄関出て左ね?ありがとう!
 あと至急“兄貴”に連絡入れといてもらえる?
 『お前の洋一が外に出た。』って…それじゃっ!」

要は少し焦りながらコンシェルジュにそれだけ頼むと
既に玄関で待っていた浩介と共にコンシェルジュから聞いた方角へと駆け出す

「もう洋一の姿も見えなくなっちまってるのに――
 こんなんで探せるのか?」

浩介が走りながら、少し前を走る要に聞く

「…まだ洋一の匂いは残ってる…これなら追える!コッチよっ!」

要が確信を持ちながら洋一の残り香を辿って走り出し
浩介もその後に続く

「…しっかし――ホント、犬みたいだよな…αの嗅覚って…」
「…聞こえてるわよ?」
「………」
「まあいいわ。兎に角先を急ぐわよ。
 もし万が一にでも洋一の身に何かありようものなら――
 洋一が家を飛び出す原因を作った私達に兄貴が何をしてくるやら…」

要の顔が青ざめる

「ちゃんと着いてきてよ?βの篠原さん?
 …もし着いて来られないようなら――置いてくから。」

要は浩介を挑発するかのようにそう言うと、更にスピードを上げて駆け出し

「!?はっや!マジかよっ、」

浩介も負けじと要の後を追った…



※※※※※※※



「痛い…っ、離して痛いっ!」

洋一はリーダー格の男に腕を掴まれ
引きずられるようにして先程の公園から少し離れた
もう使われていない廃墟の様に朽ちた倉庫のようなところに連れて来られ――

「狼(ろう)…なんすか?ソイツ…」

倉庫にいた、更に十名程の男達がゾロゾロと姿を現し
物珍しそうに狼と呼ばれた男に掴まれている洋一の事を一斉に見つめる…

「ん~?ああコイツか?…βやΩのヤツには分かんねーかもしんねーけどよ…
 コイツ、良い匂いがすんだわ。
 あと…それとは別に――」
「いっ、」

狼は掴んでいた洋一の腕を一纏めにし、片手でキリキリと引っ張り上げながら
洋一の顔や首筋に自分の顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ

「っ、やめ…、」
「…くっせ。
 コイツβで男の癖にマーキングの匂いなんかつけてやがるもんだから――
 ちょっと遊んでやろうかなと思って此処に連れてきた。」
「マジで?wβの男抱くとかw随分と物好きなαがいたもんすねぇ~…」
「だろ?でもまあ…」

カチッ…と狼がポケットから折り畳みナイフを取り出し、刃を出すと
洋一の着ているワイシャツのボタンにその刃を宛がう…

「!…な…にをっ、」
「誰かのモノ奪うのって――物凄く興奮するだろ?w
 だから――」

プツ…プツ…

「ッ!?やっ、」

狼は一個一個ゆっくりと
洋一のワイシャツのボタンをナイフで弾き飛ばしていく…



「コイツのマーキングの匂い…今から俺ので上書きしてやるよ。
 Ωと違って壊れちゃうかもだけど――せいぜい楽しませてくれよ?βくんw」
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