βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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野生の感。

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会議が終わり、副社長室で書類を纏めていた命のスマホがデスクの上で震え
命がスマホの画面を手に取って見る
するとそこにはコンシェルジュからの着信があり――

ピッ

「…何だ?」
『命様。要様より伝言をお預かりいたしております。』
「要から…?」

―――何で要が俺のマンションのコンシェルジュに伝言を…
   !?ちょっと待て!アイツが俺のマンションに行ったという事はつまり…


   今家に居る洋一と鉢合わせをした可能性が…?


命は嫌な予感を覚え
眉間にしわを寄せ、険しい表情をしたままスマホを握る手に力が入る

『はい。それではお伝え致します。要様よりお預かりした伝言の内容は――
 「お前の洋一が外に出た。」…との事です。』
「はあっ?!」

ガタッ!と…
命はコンシェルジュからの伝言に思わず座っていた椅子を後ろに押し退け
その場に勢いよく立ち上る

「それは一体どういう――」
『――以上が要様からの伝言になります。それでは私はこれで――』
「!おいっ、」

ピッと…困惑する命を残し
コンシェルジュからの通話は要からの伝言を事務的に伝えると切れ――

―――洋一が外に出ただと…?
   俺のマーキングの匂いのせいでただでさえ危険な状態だというのに…っ、
   要のヤツ…一体洋一に何をしたっ?!
   いや、それよりも――

命がデスクの上に置いてある電話の受話器をとり、秘書室に繋がる内線ボタンを押す

『――命様。いかがなさいましたか?』
「佐伯。至急外に車を用意させろ。出る。」
『…と、言いますと?』
「要が洋一に何かしたらしい…
 洋一が外に出たとコンシェルジュを通してアイツからの伝言があった。」
『!何故要様が命様のマンションに…?』
「知らん。詳しい話は車で移動中にでもアイツから聞く。
 なので車を用意させろ。今すぐ。」
『――かしこまりました。』

カチャッと命は受話器を置くと、険しい表情のまま窓の外を眺める

―――洋一…危険だからと言われていたのに何故外へ何か…
   久しぶりに再会した要の姿を見て…気が動転した…とか…?
   なんにせよ…早く洋一を見つけないと…!

命は居ても立っても居られず、車の準備が出来たという報告を待たずして
副社長室を後にした…


※※※※※※※※※※※※


要と浩介が洋一の匂いを辿って人気の無い、小さな公園へと辿り着く

「…洋一の匂いが大分濃い…
 洋一は多分、この近くに居るハズよ。」

かなり走ったというのに息を切らす事無く平然とそう告げる要の横で

「はぁッ、はぁッ、っ、要さんアンタ…はぁッ、はっ…、
 よくっ、平気だな…っ、」

両膝に手をついて、苦しそうに呼吸を繰り返す浩介が
汗一つ掻かず、涼しい顔して立つ要に話しかける

「ン?あぁ…まあね…小さい頃からよく――兄貴と一緒に鍛えられてたから…」

要の表情が少し曇る

「それよりもどうする?貴方はここで休んどく?
 私は一人でも先に進むけど…」

要が洋一の匂いが漂ってくる方を見つめながらそう言うと

「ッ、馬鹿言えっ!折角此処まで来たんだ、俺も行くに決まってんだろっ!」

浩介が一呼吸置き、背筋を伸ばしながら強がって見せる姿に
要が耐えきれずに吹き出す

「フフッwあらそう。ならご自由に
 それじゃあ洋一の追跡を再開――」

要が洋一を追って再び歩きだそうとした時
要の白いワイシャツのポケットに入れていたスマホが鳴りだし――

―――命…

要が前髪を掻き上げながら、スマホ画面に表示されている名前を確認すると
ようやくか…と言った感じでその電話にでる

ピッ

「…やっとかけてきたかバカ兄貴…遅いよ。」
『要…お前今何処に居る。』
「マンションから東に10分ほど足で走ったところにあるこーえん。」
『そこにいろ。直ぐに向かう。』
「…ダメ。洋一の匂いが薄れちゃう…
 それよりも“私達”はこのまま洋一の後を追うから――
 兄貴は公園着いたらまた連絡して。多分洋一はこの近くにいるから…
 それじゃあ。」
『!おい、話はまだ終わって――』

ピッと要は命からの電話を切り

「…いいのか?兄貴を待たなくて…」
「いいのいいの。それより急がないと…何だか胸騒ぎがする…」
「野生の感か?」
「そーかもね。」

要はそう言うと再び洋一の匂いを辿って歩きだし
浩介も呼吸を整えながらその後に続いた…
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