βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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オモチャでもいいから…

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ザァザァ…と…壁に手をつけ、俯いている洋一の頭上から
熱いシャワーの水滴が勢いよく降り注ぎ、洋一の髪や肌に当たって滑り落ち
下へと流れていく…

「…ッ、ぅ…ぅ…っ、」

『βの男なんて孕めないんだから“オモチャ”にする以外
 なんの使い道があるっていうんだよ?』

―――そう…だよね…男でβの俺なんて…Ωと違って孕めないし…
   その上命さんと一緒にいても迷惑かけてばかりだし…
   ホント…何の価値も…ない…よね…

洋一の震える指先が…
先程狼から乱暴を受け、切れて腫れてしまっている後孔へと恐る恐る伸びる…

「ッ!いっ…た…ぃ…っ、」

ぷっくりと腫れる孔の縁に触れた瞬間、ピリピリとした鋭い痛みが背筋を走り
洋一は壁に額をくっつけ、唇を噛みしめながらその痛みに耐える…

―――何の価値もない俺なんかの為に…
   命さんは“運命”に抗うとまで言ってくれた…
   その言葉は凄く嬉しかったし…俺も…そのままその言葉に甘えたかった…
   だけど…っ、

「ひンッ、、んぅン~…ッ、」

洋一の指が一本、腫れる孔の縁をクチクチと押し広げながら挿入っていき
洋一は痛みで顔を顰め、呻き声を上げながらも
ナカへと挿れていく指の動きを止めない…

―――命さんは…鬼生道家っていう由緒正しい家の長男だし…
   βで男の俺なんかが…一緒にいていい相手じゃない…
   一緒にいていい相手じゃないけれども…それでも俺は…っ、


   
   一緒に…いたいよ…



洋一は瞳からポロポロと涙を零し、痛みに耐えながら
後ろの孔を解していった…


※※※※※※※※※※


「…俺の話したかった事は以上だ…」

浩介が静かにその場から立ちあがり、腰に手を当て軽く伸びをする

「…そうか。」
「…いう事はそれだけか?」
「…お前の気持ちはよく分かった。だが――」
「“洋一と離れる気は無い”って言うんだろ?」
「…そうだ。例えお前が洋一の“親友”であっても――
 この件に関しては、俺と洋一の問題であってお前は関係無いからな。」

キッパリとそう言いきる命に浩介が溜息を突く

「…妹さんと同じ事を言うんだな。」
「…要が?」
「今のアンタと全く同じ事を言ってたよ。“貴方には関係の無い事だ”って…
 それは全くその通りだし俺も出過ぎた申し出をしてるって自覚はあるよ。
 けど――」

浩介が命を一瞥する

「結局要さんは“運命の番”を見つけ――
 洋一の事を傷つけたが…」
「………」

浩介のその一言に命は一瞬反論しようと口を開きかけたが

―――要のは“運命”ではないにしろ…洋一を傷つけたのは事実だしな…

そう思い、その反論をグッと喉奥へと飲み込んだ…

「…無言かよ。まあいい…俺は言う事は言ったから…
 とりあえず今日の所は俺は帰るよ。“命様”。」

浩介は少しイラついた口調でそう言うと
命に背を向け玄関に向けて歩きだし、そのまま部屋を後にする

「…」

一人リビングに残された命はソファーの背もたれに首を預け
上を見上げたままその瞳を静かに閉じる

『もしアンタが本当に洋一の事を想うのなら――
 もうこれ以上…俺の“大切な親友”に関わるのは止めてくれ。』

―――無理な相談だ…
   今でさえ…洋一がシャワーを浴びているこんな僅かな時間でさえも
   今の俺には堪らなくもどかしく…長く感じているというのに…
   それなのに――


   …ずっと離れるなんてもう…考えただけで耐えられそうにない…



命が目を閉じたまま何もせず、ただじっとしていたところ
命の両頬を何者かが優しく手で包み込むのを感じ

「…?」

命がその瞳をゆっくりと開きかけたその時

ヌル…

…と、唇に生暖かい濡れた感触が命が慌てて目を開ける
するとそこにはバスローブを羽織り、ソファーに座る命の上に跨って
命にキスをする洋一の顔が間近にあり――

「洋一…っ?!お前…何して――」
「…しよ?」
「…ッ!なにを…」
「せっくす。
 ちゃんと…後ろ自分で解したよ?だから…」
「ッ!?お…まえ…っ!自分が何言ってるのかわかって――」

命が思わず洋一の肩を掴み、その身体を押し退けようとするが
洋一はそんな命の肩に両腕を回し、しな垂れかかるように再び命にキスをする

「ん…ふっ…、よういち…っ!やめ…」
「…命さん…」

洋一の唇がゆっくりと命から離れ
洋一が泣きそうな顔して微笑みながらその口を開く

「…やっぱり…“運命”に抗わなくていいよ。」
「!?なに…言って…っ、」
「何の価値も無い俺なんかの為に“運命”に抗わないで…
 “運命の番”が命さんの前に現れたら…命さんはその人と番って?ね?」

洋一の瞳から止め処なく涙が溢れているにも関わらず
洋一は命に優しい微笑みを向ける…

「俺は…命さんに“運命の番”が現れる間…
 もしくは好きになったΩが現れるまでの間…
 “オモチャ”でもいいから命さんの傍に居させて…おね…がい…っ、」

微笑む事に耐えきれなくなった洋一は
命の肩口に顔を埋め、身体を小さく震わせながら泣きだす

命はそんな洋一を抱きしめると

「…よせ。」
「ッ!?」
「自分を蔑むのはよせ。洋一…」
「あ、きらさ――」
「俺は…お前に何と思われようとお前の為に“運命”に抗うし
 お前が俺から離れようとしても…俺はお前を鎖に繋いででも手放す気は無い。」

命はそう言うと洋一の身体を更に強く抱きしめながら
今度は自分から噛みつく様に洋一の唇に自分の唇を重ねた…
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