βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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跪け。

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「行かないでくれ…っ!洋一っ!!!」

「…ッ!ぁ…」

命の絶叫を聞き
円に連れられて歩く洋一の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる

「ぁき…ら…」
「ッ?!」

隣で無表情のまま涙を流し
小さく命の名前を呟いた洋一に、円は驚き足を止める

「ようちゃん…?」

―――まさか…言霊が…

解けた…?と…円が戸惑い
洋一にもう一度何かしらの言葉をかけようとしたその時

「ッ、お前っ!!」
「…ッ!?」

姿勢を低くし
物凄い勢いで自分めがけて突進してきた浩介の姿に円が思わず怯む

―――こーちゃんまで言霊が…?!

立て続けに円にとって信じられない出来事が起こり
半ば混乱し、その場から動けずにいる円の前に神代が咄嗟に立ちはだかり

「大神様っ!」

突進してきた浩介を神代が受け止めると
二人はその場でギリギリともみ合いになり、睨みあう

「ッ、そこっ、退けっ!」
「退くわけ…、ッ、ないだろっ!大神様…お早く…っ!」

身長や体格に大差ない二人の男が
自分の目の前で鬼気迫る表情をしながら取っ組み合う姿に
円は暫し呆気に取られていたが…

「ッ、行くよっ、ようちゃん!」

急にハッとなって洋一の手を握り
その場から立ち去ろうと洋一の手を強く引く

しかし――

「ッ!ぃ…や…っ!」
「!?なっ、」

円が驚き、洋一の方を振り返る
すると今まで表情を無くしていた洋一に表情が戻り
洋一は泣きながら自分の手を引く円の手を
逆に引っ張りかえしてもがき始める…

「いやだ…っ、はなして…円ちゃん…、離して…っ!」
「ッ、ようちゃんっ!!」
「離してっ!」
「~~~ッ、」

円は抵抗し始めた洋一に苛立ち
嫌がる洋一の腕を、グイグイと力任せに強引に引っ張りながら歩きだそうとするが
洋一は頭を振って嫌がり
暗闇の時のようにその場でしゃがみ込んで抵抗する

「う”ぅう…ッ、、ぃやだ…嫌だ…っ、行きたくないっ!
 命さん…、命さんっ!!」
「ッ、煩いっ!“だま――”」

泣きながら命の名を呼ぶ洋一に円は更に苛立ち
洋一を黙らせようと言霊を使おうとした次の瞬間

「洋一っ!」
「っ、!?」

命の拳が、空を切って自分の顔面目がけて飛んできているのが見え
円は咄嗟に洋一から手を離し
まるで猫のように後ろに飛び退いて命との距離をとり
命が円と対峙する様な形で座り込んでいる洋一の前に立つと
チラリと洋一の方を見やる

「洋一…無事か?」
「グスッ、命さん…うぅ…っ、命さん…っ!」

洋一は命の姿を見てホッとし、泣き笑いの様な顔をしながら命の事を見上げ
命もまた洋一の顔を見て安心したかのように微かに微笑む
そこに不機嫌そうに円が口を開き――

「…ちょっと…邪魔しないでよね?あきちゃん…」
「…そっちこそ…白昼堂々と人攫いとは――
 随分と行儀が悪いじゃないか…円…」
「ッ!?僕の事…思いだした…?」
「…いや?ただ洋一がさっきから貴様の名前を言ってたからな。
 “円ちゃん”。」
「…ッ、」

命が口角を上げ
見る者が見たら見惚れてしまいそうな程の綺麗な――
しかし意地の悪い笑みを浮かべながら円を睨みつけ
円もスッと視線を細めながら命を睨み返す

一触即発の空気が二人の間に漂う中
先に沈黙を破ったのは円の方で…

「…随分と――舐めた態度を取る様になったじゃない…あきちゃん…
 けど――」
「ッ!?」

円の銀色に輝く瞳が命を捉える

―――まさか…っ、

「“跪け。命。”」
「…くッ、」
「命さんっ!」

円の一言に再び命の膝が頽れ始め
洋一が慌てて命に駆け寄ろうとするが――

「来るなっ!!」
「ッ!」

命が洋一に向け手をバッとかざしてその行動を制止すると
頽れかけていた膝を伸ばしながらゆっくりと姿勢を正し
命が静かにその口を開く

「…貴様こそ…」
「…ッ!?」

命の金色に輝く瞳が円を捉える



「“俺の前に跪け…円っ!”」
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