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思い立ったが吉日。
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「ッ!?ぐっ…、」
―――コレはまさか…“言霊”っ?!
命の放った“言霊”は完全では無いとは言え
円を驚かせ、怯ませるには十分すぎるもので――
―――まさかあきちゃんが言霊を使ってくるだなんて…っ、
コレはあきちゃんの元々の素質か?それともようちゃんの…
どちらにせよ…鬼生道に対して何か早く手を打たないと…
円が命の言霊に抗い、ヨロヨロとよろめきながら数歩後ずさるも
その顔にはゾッとするような微笑を浮かべ
円の鋭い視線が命の姿を捉え続ける…
「…中々やるじゃない…あきちゃん。僕――ビックリしちゃった。
あきちゃんが言霊を使えるだなんて…」
「…言霊…?」
命が怪訝な表情を浮かべながら首を傾げる
「使ってる自覚無し?それで相手に“跪け”なんて言えちゃうあきちゃん流石!
…でもまあ…どっちにしろ――」
円の声色が、急に背筋が凍るような冷たいものへと変わり
その雰囲気が先ほどまでの何処か余裕が伺えるものから一変する
―――あきちゃんに言霊が通じないのなら…
「…ようちゃんは――此処から連れて行くけどねっ!」
「!」
言い終えるや否や、円は突然命に向かって猛然と駆け寄ると
料理の際の猫の手の様に指先全部をくの字に曲げた右手の掌を
命の胸元目がけ、凄まじい勢いで突きだす
―――力ずくであきちゃん倒して…ようちゃんを奪えばいいっ!
「くっ、」
命は咄嗟に左手で円の手を払い除けるが
円が間髪入れずに手を払いのけられた反動を利用し
流れるような動作で左足を振り上げると
足の甲をヒュッと命の脇腹目がけて振り、命は右腕で脇腹への攻撃を防ぎつつ
今度は命が左足を円の胴体目がけて勢いよく振り
円がそれを右肘で叩き落とす…
至近距離でどちらも一歩も退かない一進一退の攻防を繰り広げるなか
突然…
「ッ!?きゃああぁぁあああっ!!!」
「!?」
「あ…命様…っ、コレはどういう――」
正気を取り戻したコンシェルジュの一人が悲鳴を上げ
もう一人が状況が飲み込めずに狼狽えだす
それもそのはず
片や命と円が
片や浩介と神代が…
品格ある高級マンションのエントランスホールでバトルを繰り広げていたら
狼狽えるのは当然の事で――
「と、兎に角警察に通報を…っ、」
―――まずい…
「大神様!」
状況を察した神代が
自分に掴みかかっていた浩介の鳩尾に強烈な一撃を食らわせ
浩介をその場に跪かせると、円の元へと駆け寄る
「…ここは一旦退きましょう大神様。」
「嫌だよっ!折角会えたのに…あとちょっとでようちゃんを連れて帰れるのに
諦めるなんて…ッ、」
「大神様っ!」
神代が円の腕を掴み、グイッと引っ張る
「止めてよ神代っ!離してっ!!――ようちゃん…っ!」
「…ッ!」
円がよろめきながら洋一に向かって手を伸ばす
しかし洋一は怯えた瞳を円に向けるのみで…
「…ッ!ようちゃん…っ、」
それを見た円の伸ばした手が行き場を無くして空を彷徨い
力無く下ろされる…
「大神様…早くしないと…っ!」
「…分かった…けど僕は諦めないから…っ!必ずまたようちゃんを迎えに…
ううん、」
円がスッと命を睨みつける
「――ようちゃんを奪いに戻るから…覚悟しといてよね?あきちゃん…」
それだけ言い残すと円は命たちに背を向け
神代と共にエントランスホールを出て行き
命はその円たちの後姿を睨(ね)めつけながら見届けると
洋一の方へと振り返り
「洋一っ!」
「ぁ…あきら…さん…っ!」
その場にヘタり込み、動けなくなっている洋一の元へと駆け寄ると
その身体を強く抱きしめ
洋一も命の身体をのけ反りながらも抱きしめ返す…
「うぅ…あきらさん…グスッ、命さん…俺…っ、」
「…お前がアイツに連れていかれなくて良かった…本当に良かった…っ!
一時はどうなる事かと…」
人目を気にする余裕など今の二人は無く…
二人は強く抱きしめ合って互いの無事を喜ぶ
そこへ――
「いっ…てて…っ、
あんにゃろ~…俺の鳩尾に強烈なのぶち込みやがって…」
「…何だ篠原…まだいたのか。もう帰っていいぞ。」
「お前なぁ…」
浩介が呆れたように地べたに座り込んで抱き合っている二人を見下ろす
「それにしても…神代はかなりの武術の使い手と聞いていたが――
よく持ち堪えたな、篠原。褒めてやる。」
「ホント、お前なぁ…」
全く褒められている気がしない命の物言いに浩介が溜息をつき
洋一がすかさず泣きながらも浩介のフォローに入る
「グスッ…浩介は確か…幼いころから少林寺拳法習ってて…
大学入ってからはキックボクシングも始めて…今も続けてるって言ってたよね…」
「まーな。」
「ほお…」
浩介がちょっと誇らしげにフフン!とドヤ顔をし
命はそれを気にする事無く素直に感心する
そこに血相を変えた佐伯がエントランスホールに飛び込み――
「命様っ!皆瀬さんっ!!二人とも無事ですかっ?!」
「無事だ。それよりもお前の方は――」
「無事です。…ただ――三人には逃げられてしまいました…」
佐伯が悔しそうに顔を歪ませ、歯を食いしばりながら俯く
「いい。気にするな。」
「…命様…」
「それより――」
命が洋一を支えながらその場に立ち上ると
何やら決意したかのように言葉を続けた
「引っ越すぞ。今すぐ。」
―――コレはまさか…“言霊”っ?!
命の放った“言霊”は完全では無いとは言え
円を驚かせ、怯ませるには十分すぎるもので――
―――まさかあきちゃんが言霊を使ってくるだなんて…っ、
コレはあきちゃんの元々の素質か?それともようちゃんの…
どちらにせよ…鬼生道に対して何か早く手を打たないと…
円が命の言霊に抗い、ヨロヨロとよろめきながら数歩後ずさるも
その顔にはゾッとするような微笑を浮かべ
円の鋭い視線が命の姿を捉え続ける…
「…中々やるじゃない…あきちゃん。僕――ビックリしちゃった。
あきちゃんが言霊を使えるだなんて…」
「…言霊…?」
命が怪訝な表情を浮かべながら首を傾げる
「使ってる自覚無し?それで相手に“跪け”なんて言えちゃうあきちゃん流石!
…でもまあ…どっちにしろ――」
円の声色が、急に背筋が凍るような冷たいものへと変わり
その雰囲気が先ほどまでの何処か余裕が伺えるものから一変する
―――あきちゃんに言霊が通じないのなら…
「…ようちゃんは――此処から連れて行くけどねっ!」
「!」
言い終えるや否や、円は突然命に向かって猛然と駆け寄ると
料理の際の猫の手の様に指先全部をくの字に曲げた右手の掌を
命の胸元目がけ、凄まじい勢いで突きだす
―――力ずくであきちゃん倒して…ようちゃんを奪えばいいっ!
「くっ、」
命は咄嗟に左手で円の手を払い除けるが
円が間髪入れずに手を払いのけられた反動を利用し
流れるような動作で左足を振り上げると
足の甲をヒュッと命の脇腹目がけて振り、命は右腕で脇腹への攻撃を防ぎつつ
今度は命が左足を円の胴体目がけて勢いよく振り
円がそれを右肘で叩き落とす…
至近距離でどちらも一歩も退かない一進一退の攻防を繰り広げるなか
突然…
「ッ!?きゃああぁぁあああっ!!!」
「!?」
「あ…命様…っ、コレはどういう――」
正気を取り戻したコンシェルジュの一人が悲鳴を上げ
もう一人が状況が飲み込めずに狼狽えだす
それもそのはず
片や命と円が
片や浩介と神代が…
品格ある高級マンションのエントランスホールでバトルを繰り広げていたら
狼狽えるのは当然の事で――
「と、兎に角警察に通報を…っ、」
―――まずい…
「大神様!」
状況を察した神代が
自分に掴みかかっていた浩介の鳩尾に強烈な一撃を食らわせ
浩介をその場に跪かせると、円の元へと駆け寄る
「…ここは一旦退きましょう大神様。」
「嫌だよっ!折角会えたのに…あとちょっとでようちゃんを連れて帰れるのに
諦めるなんて…ッ、」
「大神様っ!」
神代が円の腕を掴み、グイッと引っ張る
「止めてよ神代っ!離してっ!!――ようちゃん…っ!」
「…ッ!」
円がよろめきながら洋一に向かって手を伸ばす
しかし洋一は怯えた瞳を円に向けるのみで…
「…ッ!ようちゃん…っ、」
それを見た円の伸ばした手が行き場を無くして空を彷徨い
力無く下ろされる…
「大神様…早くしないと…っ!」
「…分かった…けど僕は諦めないから…っ!必ずまたようちゃんを迎えに…
ううん、」
円がスッと命を睨みつける
「――ようちゃんを奪いに戻るから…覚悟しといてよね?あきちゃん…」
それだけ言い残すと円は命たちに背を向け
神代と共にエントランスホールを出て行き
命はその円たちの後姿を睨(ね)めつけながら見届けると
洋一の方へと振り返り
「洋一っ!」
「ぁ…あきら…さん…っ!」
その場にヘタり込み、動けなくなっている洋一の元へと駆け寄ると
その身体を強く抱きしめ
洋一も命の身体をのけ反りながらも抱きしめ返す…
「うぅ…あきらさん…グスッ、命さん…俺…っ、」
「…お前がアイツに連れていかれなくて良かった…本当に良かった…っ!
一時はどうなる事かと…」
人目を気にする余裕など今の二人は無く…
二人は強く抱きしめ合って互いの無事を喜ぶ
そこへ――
「いっ…てて…っ、
あんにゃろ~…俺の鳩尾に強烈なのぶち込みやがって…」
「…何だ篠原…まだいたのか。もう帰っていいぞ。」
「お前なぁ…」
浩介が呆れたように地べたに座り込んで抱き合っている二人を見下ろす
「それにしても…神代はかなりの武術の使い手と聞いていたが――
よく持ち堪えたな、篠原。褒めてやる。」
「ホント、お前なぁ…」
全く褒められている気がしない命の物言いに浩介が溜息をつき
洋一がすかさず泣きながらも浩介のフォローに入る
「グスッ…浩介は確か…幼いころから少林寺拳法習ってて…
大学入ってからはキックボクシングも始めて…今も続けてるって言ってたよね…」
「まーな。」
「ほお…」
浩介がちょっと誇らしげにフフン!とドヤ顔をし
命はそれを気にする事無く素直に感心する
そこに血相を変えた佐伯がエントランスホールに飛び込み――
「命様っ!皆瀬さんっ!!二人とも無事ですかっ?!」
「無事だ。それよりもお前の方は――」
「無事です。…ただ――三人には逃げられてしまいました…」
佐伯が悔しそうに顔を歪ませ、歯を食いしばりながら俯く
「いい。気にするな。」
「…命様…」
「それより――」
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何やら決意したかのように言葉を続けた
「引っ越すぞ。今すぐ。」
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