βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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鬼生道引っ越しセンター再び?

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「…お言葉ですが命様。」
「何だ?」
「急に引っ越すとおっしゃられましても…
 引っ越し先が決まらなければ、引っ越しの仕様が御座いません。
 まさかとは思われますが――…今から引っ越し先を探すおつもりで?」

佐伯が至極当然の事を真顔で命に尋ね
命がその顔に一瞬「?」と疑問符が浮べだ後
「ああ…そういえばお前に話していなかったな。」と
何かを思いだしたかのように小さく呟いたのちに、続けてその口を開いた

「実は洋一と契った日に後処理の方法をネットで検索していたら
 良い物件を見つけてな。」
「…へ?」
「…ちぎったって…後処理って…」

ちょっと明るくエントランスホールで堂々と話す命とは裏腹に
洋一は今の言葉に顔を赤くしたり青くしたりと
あわあわと焦りながら狼狽え始め
浩介は浩介で遠い目をしながら

―――…そう…だよな…マーキングされてたし…
   契ったっていう事はつまりやっぱりどー足掻いてもそーゆー事なんだよな…
   洋一はβで男だから…事に及ぶには尻の穴を使うしかないわけで…
   それは要するに洋一がソコでアイツを受け入れたという事で――

浩介の脳裏に一瞬…ほんの一瞬だけ全裸で四つん這いになり
自ら尻臀(しりたぶ)の肉を割り広げながら
孔を晒している洋一の姿を想像してしまい――

「…ッ!?」

浩介の顔がみるみると赤くなり始め
その上よからぬ場所に熱が集まり出し、ピクピクと反応し出した事に焦り
洋一達から僅か背を向け、顔が見えない様に俯きながら深呼吸し出す

―――バッカお前…っ!親友のあらぬ姿で何勃ちかけてんだよっ!!
   やめろよそーいうの!マジやめろっ!!!

「…?ど…どうしたの浩介…?何か顔色が――」
「ッ!なっ…なんでもない…っ!あっち向いてろっ!」
「…?」

浩介は自分の顔を下からヒョコっと覗き見ようとする洋一からますます背を向け
顔を耳まで赤く染めながら慌てふためき
洋一はそんな浩介の事がますます心配になって顔を覗き込もうと躍起になり
洋一に顔を見られたくない浩介と
浩介の顔を見たい洋一は、いつしか二人してその場でクルクルと回り始め――

―――なにをやってるんだ…あの二人は…

そんな二人の様子に命は首を傾げるも、まあいいかと更に続きを語り出す

「…実は前々から洋一をとじ……ン”ン”ッ、
 二人で静かに暮らせる場所はないかと探していてだな…
 その物件を見つけた際に、思わず購入してしまっていたのだ。」
「…思わず購入って…」

あえて言いなおした部分には触れず
流石の佐伯もコレには呆れ、命の顔をじっとりと見つめながら言葉を発する

「…何かを買うのは貴方の自由ですし…そこを責めたりはしませんが――
 せめて一言欲しかったです。
 …で?どんな物件を購入されたので?」
「コレだ。」

命がポケットからスマホを取り出し、指で数回画面をタップしたのち
スマホ画面を佐伯に見せる

「これは――素敵なお屋敷ですね…」
「だろ?」

スマホ画面には、青々と生い茂る木々に囲まれた洋館風の建物が写し出され
まるで絵画の様なその佇(たたず)まいに佐伯が思わずホゥ…と溜息を漏らす

「此処に引っ越す。なので佐伯、信用出来るものを数名集めろ。
 今回は引っ越し先をあまり多くの人間には知られたくないのでな。
 少人数で行いたい。」
「かしこまりました。」
「…篠原。」
「ん?」
「お前はもう家に帰るといい。」
「いや…俺も手伝うよ。その引っ越し。」
「…駄目だ。」
「…何で?」

浩介が若干ムッとしながら聞き返し
命が微かに顔を顰め、浩介の顔を見据えながら口を開く

「お前…円に監禁されてたと言っていたよな?」
「ッ!」

浩介の表情が驚きで固くなる

「しかもお前は円の事を“ヤバイやつ”と言っていた…
 それはつまり…お前は円の“言霊”を知っていて
 かつ、その言霊の力に捕らわれ
 何処かに監禁されていたという事なのだろ?違うか?」
「……」
「あの言霊とやらに人を何処まで操れる力があるかまでは分かんが――
 またお前が円に操られ、知られたくない新居の場所をヤツに教えないとも限らない。
 なのですまないが――」

命が浩介に背を向け、浩介も何も言い返せずに黙って俯く…
そこに洋一が躊躇いがちに声をかけ――

「命さん…浩介にも手伝ってもらおうよ。引っ越し…」
「しかし…」
「浩介は信用できる良いやつだよ?
 さっきだって――俺を助けようと必死に頑張ってくれてたじゃない…」
「それは――確かにそうなのだが…」
「それに…引っ越しはちょっとでも人手があった方が早く済むよ?」
「…」
「だから…」

懸命に言い募る洋一に根負けしたのか
命はハァ~…と額に手を当てながら溜息をつくと

「…わかった。お前も手伝え、篠原。」
「!え~…しょーがねぇ~なぁ~…」

浩介は照れくさそうにポリポリと頭を掻くと
ちょっとだけはにかんだような笑みを命と洋一に向ける
そこに佐伯が声をかけ

「話がまとまったようで何よりです。ところで命様。」
「何だ。」




「此処って――電気ガス水道って通ってます?」
「あ…」
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