βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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何時かはちゃんと…

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ブブブブ…ブブブブ…

『彼から離れろ。』

ブブブブ…ブブブブ…

『彼の傍にいていいのはお前じゃない。』

ブブブブ…ブブブブ…

『お前は彼に必要とされていない。』

ブブブブ…ブブブブ…

『彼に必要なのはΩ。βのお前じゃない。』

ブブブブ…ブブブブ…

『孕めないβの男の癖に、将来有望な彼と一緒に居ていいと思ってるの?』

―――ッ、

時刻は午後19時を回り
先程引っ越しを手伝ってくれた浩介や佐伯、他数名との夕食を終え
命は佐伯たちを見送る為に玄関へと向かい
自分は後片付けの為に一人、キッチンに残った洋一だったが…

ブブブブ…ブブブブ…

「ッ、」

ポケットに入れたスマホが振動し、洋一の身体が怯えたようにビクンッと跳ねる…

―――もう…さっきから何なんだよ…コレ…

初めの内は悪戯だろうと軽く受け流していた洋一だったが――

―――怖いよ…止めて…止めてよもう…!

いくら鈍い洋一でも
あれからひっきりなしに届く黒地に赤文字のメール内容に
流石に自分と命の事を指しているのだと気づいた洋一は怖くなり…
今もなお振動し続けるスマホを無視し続ける…

―――一体…誰がこんなメールを…

洋一はメールが届くようになってからも
命達の前では不安を押し隠し、努めて明るく振るまっては見せてはいたが――
内心、そのメール内容に洋一の心は疲弊し
今にも泣きたくなるのをグッと堪えながら
洋一はキッチンで後片付けに専念する…

『彼に必要なのはΩ。βのお前じゃない。』
『孕めないβの男の癖に、将来有望な彼と一緒に居ていいと思ってるの?』

―――分かってるよ…そんな事…っ、
   誰だか知ら無いけど…そんな事わざわざ言わなくたって
   俺が命さんに不釣り合いな事ぐらい…俺が一番よく分かってる…
   で、も…、

「うっ…」

食器を洗っていた洋一の瞳から
とうとう堪えきれなくなった涙が溢れ出そうになり…
洋一は慌てて涙を拭こうとして、うっかり泡まみれの手の甲で目を擦ってしまい…

「あっ、つっ…なにやってんだ俺…、」

気づいた時にはもう遅く…
泡が目の周りに付いてしまって、目を開けられ無くなった洋一は
近くに置いてあった布巾を取ろうと目を瞑ったまま
記憶を頼りにカウンターに手を伸ばすが――

コン…

「あ…」

カシャンッ!

カウンターに置いてあったグラスをうっかり手で弾いてしまい
弾かれたグラスは床へと真っ逆さまに落ちてゆき
見るも無残なガラスの破片へとその姿を変える…

―――ホント俺…何やってんだか…っ、

動揺に動揺を重ね…
洋一はそんな自分が情けなくなってきて、また泣きそうになる…

そこにガラスの割れる音を聞きつけた命が、慌ててキッチンに駆けつけ――

「ッ、洋一っ、どうしたっ?!」
「命さん…」

見れば洋一の足元にはガラスの破片が散乱しており…

「!大丈夫か洋一…何処か切ったりは――」

命はすぐさま洋一の傍へと近づくと
怪我などはないかと上から下まで慎重に洋一の身体を触って確かめていく…

「ッ、俺は大丈夫です…それよりごめんなさい…俺…うっかりしてて…
 グラス割っちゃって…」

泡で目が開けられない洋一は、カウンターに手を置いたまま俯き
命に謝罪する

「グラスなんてどうでもいい。それよりお前に怪我がなくて良かった…」

命は心底ホッとしたようにそう言うと
ポケットからハンカチを取り出し洋一に手渡す

「…それよりもコレで目の周りを拭け。泡だらけじゃないか。」
「…すみません…」

洋一は命から手渡されたハンカチで目の周りを拭き
命はその間、ガラスの破片から狼狽えている洋一を遠ざけながら
手近にあったハンドクリーナーでガラスの破片を吸って床を綺麗にしていく

「何があった?」
「え?」
「…お前――夕食の前から様子がおかしかっただろ?
 何があった。」
「ッ、別に…何も…」
「嘘を言うな。」
「ッ、」
「…俺がお前の異変に…気づかないとでも?」

命がハンドクリーナーを止め、洋一の方を少し悲し気な表情で見つめる


『お前は彼に必要とされていない。』
『彼に必要なのはΩ。βのお前じゃない。』


「…ッ、」
「洋一…?」
「っ本当に…何でもないです…
 ただちょっと…引っ越しで疲れちゃて…」

えへへ…と洋一は力無く微笑む
するとそこに命が洋一に向かって手を伸ばすと
その身体を掻き抱く…

「…俺は――そんなに頼りにならないか…?」
「っぁ…命…さん…?」
「ッ、」

命は洋一の事を強く抱きしめながら、その耳元で切なげに囁く

「…今は…話たくないのならそれでいい…ただ――」
「…」
「何時かはちゃんと話してくれ…
 俺は…隠し事は嫌いだ…」
「…命さん…、ッ、ごめんなさい…」

洋一は自分の事を強く抱きしめてくる命の背に両手を回すと
縋るようにその背中をギュッと抱きしめた…
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