βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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この出会いは偶然か必然か 2

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「ッ、ああ…」

命が契に差し出された手を恐る恐る握る…

―――あんな表情の命さん…今まで見た事無い…

契と握手をしている命の表情は
心ここに在らずといったいった感じに何処かボーっとしているにも関わらず
その瞳は目の前の契の姿を熱のこもった瞳で食い入る様に見つめていて…

―――、まさか…、水鏡さんは――

契の手を握り、契だけを熱心に見つめ続ける命の姿に
洋一の心がザワつく…

そこにふと、契が命の斜め横で茫然と立ち尽くしている洋一に視線を向け――

「…ッ!」

契がフッと――洋一に向けて微笑みかける…
その微笑みは一見するととても儚げで美しいのだが――
洋一はその笑みを見た瞬間…ゾッと背筋を駆け上がる悪寒の様なものを感じて
みるみるうちに青ざめていく…

「…ところで命さん…僕が今行っている事業について…
 貴方に相談したい事があるのですが――」

契は洋一から再び命に視線を戻すと
握っている命の手を両手で包み込み、熱っぽい瞳で命を見つめながら
命を誘う…

「…向こうに…二人っきりでお話出来そうな場所があるので…
 そこで僕と…二人きりでお話しませんか…?」
「あ…?あぁ…別に――構わんが…」

契が妖艶な笑みを浮かべながら
相変わらず契だけを見つめてボーっとしている命の手を引き
そのまま命を何処かへと連れて行こうとする…

「あ…」

―――ッ、やだ…っ、

自分の方を見る事も無く
契と共に何処かへ行こうとする命のもう片方の手を洋一が思わず掴み
咄嗟にその手をグイッと自分の方へと引き寄せるようにして洋一が引く

「ぁ…命さん…っ!」
「ッ!?」

洋一に強く手を引かれ
普段なら洋一に手を引かれたくらいじゃビクともしない命の身体が
ガクッと後ろにのけ反り、それと同時に…

「…ッ、ぁ…?」

―――この…匂いは…

フワッ…と…いつも以上に強く感じる洋一の匂いが命の鼻腔を擽り
さっきまで虚ろだった命の瞳に
徐々に何時もの強い意志を感じさせる光が戻っていく…

「…洋一…?」
「――ッ、命さん…っ!」

ようやく自分の方を振り向いた命に
洋一が微かに瞳に涙を浮かべながらホッとした表情で命に微笑む

「俺は…?」
「命さん…」

そこに未だに命の手を掴み、微かに表情を険しくした契が
命を見つめながら不満げな声で命の名を呼び
それに気づいた命が再び契の方に視線を向けるが
その瞳には先程までの熱っぽさは無く…

「…ッ、すまないが…」

命が契の手をそっと振りほどく

「急用を思いだしたので…我々はこれで失礼する。
 …では社に戻るぞ。洋一、佐伯。」
「はい…っ!」
「――ハッ!か…かしこまりましたっ、」

命は嬉しそうに顔を綻ばせる洋一と
さっきまで洋一の匂いに中てられていたのか
命に声をかけられて急に慌て始めた佐伯を引き連れ、契に背を向けて歩き始める

―――…やっぱり邪魔だな、あのβ…何とかしないと…

契がその綺麗な顔を醜く歪め
人目も憚(はばか)らずに左手の親指の爪を苛ただし気に噛みながら
自分から去って行く命の背を見つめる…
そこに横山が契に声をかけ――

「…ところで水鏡さん…相談したい事とは…?
 私でよろしければ相談に乗りますが――」

下心見え見えの卑下た笑みを浮かべながら
横山が契の腰に手を回そうとする
しかし契はその手をサッと躱(かわ)し――

「…結構です。お心遣い感謝します、横山さん…
 では、僕も用事を思いだしましたので…この辺で失礼させていただきます。」

ねっとりとした眼差しで自分の事を見つめてくる横山に軽く頭を下げると
契ももう此処に用はないと言わんばかりの迷いのない足取りで
その場を後にした…
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