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団長 × アミル
捕縛
しおりを挟む暗い地下室で男たちは向かい合っていた。
一人は楽し気に、一人は不満を隠さない顔で。
「アンタのおかげでこっちは商売あがったりだよ。
卵を無駄に減らしたばかりか貴重な幼体まで失ったんだ」
「ああ、騎士団に回収されたらしいな。
せっかく取引現場から連れ出せたのに、もったいないことだ」
他人事のような言葉に男が激高する。
「アンタの主が見たがってるからとか無茶を言うから連れていったんだ!
貴族だかなんだか知らないがそのおかげでこいつらも卵を産まなくなったんだぞ!」
男が手を広げ示した先には大きく頑丈な檻に鎖で繋がれたブラッディホークの番。
共にいた幼体が消えたせいか仲間のブラッディホークの叫びを聞いたからかめっきり卵を産まなくなったという。
落ち着けばまた産み始めるが機会の損失が許せないのだろう。
凶悪な魔獣を檻に閉じ込め飼育し卵を手に入れ販売をしていた男へ取引相手の男が申し訳なさそうな顔をする。
「すまないな、しかし断れなかったのはそっちもわかっているだろう?
逆らえばこの町どころかこの地方で商売ができなくなる」
「駄目なら他の所へ行けばいいだけだ。
コイツらがいればいくらでも稼げるからな」
檻の外に繋がった鎖を引っ張りブラッディホークを引き寄せる。暴れて鳴くブラッディホークをにやついた目で見、鎖を離す。
慌てた羽音で中に据えられた枝に戻るブラッディホークを見ながら別の地域へ移る算段を口にする男へ取引相手は冷笑を浮かべた。
「移動するにも今は他所の騎士団が出張っていてそう簡単じゃないだろう?
抱きこんでいた奴らと違って融通が利かない」
忌々しそうに舌打ちをして取引相手を睨みつける。
逃げるにも分が悪いことは男もわかっていた。
「そこで相談だ。
そのブラッディホークをこちらで買い取るってのはどうだ?
主人が迷惑料も込みでかなりの高値を付けてくれた。
そっちにとっても悪い話じゃないと思うんだが」
取引相手の持ち掛けてきた話に怒りの形相を浮かべた男だったが怒鳴り返すことはなかった。
今の状況が悪いことは男も理解している。
せっかく手に入れた貴重な個体を売り大金を得て逃げるか、断って金を生み続けるとはいえ危険な魔獣を抱えて騎士団の目を掻い潜り新天地で新しく商売を始めるか。
安全と金を天秤にかけ、男は答えを出した。
「いいだろう、売ってやる。
だが今残っている卵もくれてやる代わりに即金だ」
持っているだろうと睨む男へ取引相手は重い音のする袋を机へ置いた。
行く先の決まっていた交渉に不満げな顔をするが、男は文句を飲み込んで袋の中身を確認して懐へしまう。
断れば口封じに遭うか騎士団へ突き出されるかのどちらかだと危険な橋を渡ってきた男は理解していた。
交渉が終われば用はないと男はその足で地下室を出て行く。
ただでさえ騎士団がうろつく中、騎士団の一人に姿を目撃された男が出歩くのは危険が伴う。
逃亡資金を得たその足で町から出れば逃げおおせるだろうと足を進めた。
地下室に残された取引相手の男は檻の中を見て満足気に口を吊り上げる。運よくブラッディホークの卵を手に入れ生育を成功させた男から稀少な個体を手に入れられた喜びを浮かべて。
しばらくして男の足音が聞こえなくなったのを確認してブラッディホークを手に入れた男も出口に向かう。
主人もこの結果に満足するだろうとほくそ笑む。
町を襲撃していたブラッディホークも殲滅され、程なく騎士団も帰っていくだろう。
不釣り合いな大金を持った男を騎士団が見咎めてくれれば尚好都合だった。
ほとぼりが冷めたらもっと大きな飼育場を用意すしようと考える。取れる卵の個数がもっと増えれば主人の影響力が増す。
今後の算段に注意が逸れていたからだろう。
階段を上り外に出た男が剣を突きつけられるまで周囲を包囲する騎士たちに気づかなかったのは。
剣を突きつけた騎士は暗闇の中にあってもわかるほど底冷えする怒りを乗せて男を見つめていた。
諦め悪く退路を探した男がざっと視線を巡らせると先に地下室を出て行った男が血を流した状態で騎士に捕縛されている姿を見つけた。
男の視線に気づいたのか剣を突きつけている騎士が低い声で破滅を言い渡す。
「抵抗はするなよ。
あの男みたいになりたくなければな」
後ろ手に縄を打たれ騎士に取り囲まれている男を見、抵抗した者の末路を悟り怯えた表情を浮かべる男へ眼前の騎士は追い打ちをかける。
「こっちは部下を一人やられてるんだ、手心を加えてもらえるなんて期待はするなよ」
激情を表す視線を向けながらも首に突き付けた剣は微動だにしない。
震え上がった男は大人しく逮捕を受け入れたのだった。
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