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副団長 × アミル

容赦のない事後処理

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 取り終えた調書の書類をまとめる。
 抵抗の意思を無くした領主たちの証言から、売人の男がブラッディホークを飼育し卵を得ていたことがわかり、騎士団は騒然とした。
 魔獣の飼育という重罪もさることながら、それを町中で行っていたという恐ろしい事実に。

 すぐさま飼育場になっていた場所へ赴き対応にあたったおかげで町が3度目の襲撃を受けることにはならなかったが、場合によってはまた襲われていた可能性も高い。今回住人への被害が出なかったことは本当に運が良かったとしか言えない。
 なぜここの騎士団が飼育や取引に気づかなかったのか。
 そちらは領主が関わり不正を容認させていたという。とんでもない話だ。
 騎士団の腐敗は広範囲に及び、領主に抱き込まれた者たちが異変に気づいた騎士を僻地へ飛ばし自浄作用を失わせていた。
 今回アミルたちの騎士団へ入った救援要請は飛ばされた騎士の苦肉の策だったらしい。中央騎士団へ訴え出るには証拠に乏しく時間もかかる。救援要請を偽造して近隣の騎士団を呼び寄せることで異変を察知してもらいたかったという。
 領主の罪は重い。
 卵を優先的に買い入れるために魔獣の飼育を見逃させ取引を繰り返していただけでなく、自分たちでも魔獣を飼育できないかと考えていたらしい。
 あの夜ブラッディホークたちが襲ってきたのも領主がブラッディホークの幼体を見たいと無理を通したせいだ。

 事態の重さに急報を聞いた中央騎士団から人が派遣されることが決まり、すでに先遣隊が出発したと聞く。
 王宮にも領主の罪は届いており、不正の調査と領地の管理のために人が送られることが決まっている。

 アミルたちは不正の証拠を処分されないように領主の屋敷や彼の騎士団に目を光らせていた。
 人手が足りないため全てを見張ることはできないがカイルを中心に不正の証拠となる書類を押収し、到着した中央騎士団が速やかに任務にあたれるようにとまとめている。

 同時に領主の屋敷の捜索も進めていたのだが。
 領主が捕らえられ騒然とする屋敷へ踏み入った騎士団へ抗議したのは、屋敷の者ではなくあの女性だった。

「勝手に屋敷に入ってきて何のつもり!
 ここが領主の屋敷だと知っていて!?」

「当然知っていて捜索に入っているんですよ」

 嘲笑う笑みで告げたカイルに希望を浮かべて縋る声ですり寄る女性。

「カイルっ!
 お願い、何とかしてよ!」

「何とか?」

 カイルの笑みが深くなる。

 その笑みを僕の隣で見ていた先輩が「怖えぇ……」と呟く。
 アミルも同感だけど口に出すと後が怖そうなので口にはしない。
 容赦なく女性を追い込んでいくカイルに本当にあの人が嫌いなんだなと思う。

「そもそも貴女は部外者でしょう。
 この屋敷にいてはいけないのでは?」

「私はいつでも屋敷に来て良いってあの人に言われてるの!」

 部屋だってあるんだからと答えたところでカイルから指示を受けた騎士が女性を取り囲む。

「領主と懇意にしていて利害関係のある人間だ、連れて行って話を聞き出すように」

 低い声で命じるカイルは清々すると言いたげだった。
 叫ぶ女性を無視して、屋敷の使用人に聞いて女性の部屋も捜索しろと部下に指示を飛ばしている。

「知り合いっぽいのに容赦ないな」

 女性の呼びかけからカイルと知り合いなことは皆にもわかっていた。

「お兄さんと離婚したって言ってたので身内ってわけでもないですし……。
 副団長が魔獣を呼び寄せた領主の関係者に情けを掛けるとは思えないですよ」

「は? マジ?!」

 驚く先輩へ町で会った時のことを伝える。

「離婚しておめでとうって……。
 しかも『望んでいた自由な生活を送れて良かった』とか酷えな」

「え?」

 離婚したことをおめでとうは確かにアミルも違和感があったしカイルの言い方にも棘があったけど、自由な生活ができていると言ったことが酷いっていうのはどういうことだろう。彼女が望んでいたことのような言い方だったけれど。
 疑問を浮かべる僕へ先輩が顔を近づけて声を潜める。

「アミル、それは隠語みたいなもんで貴族の間では意味が違うんだよ。
『自由な生活』ってのは貞淑じゃない行動を指す」

 義務を果たしたらお互い自由な生活を楽しみましょうなら、子供を作った後はお互いに愛人を持っても恨みっこなしという意味らしい。
 近くにいた他の先輩も話に入ってきて新たな情報を追加していく。

「そういえば副団長って兄上の婚約者に惚れてたって噂を聞いたことがあるな」

「え、兄弟の婚約者に言い寄られたって話じゃなくて?」

 だから兄弟と折り合いが悪くなって騎士団に入ったのかなと囁く先輩たち。
 そんなことよりもアミルの頭を占めていたのはあの時の会話の流れ。文脈に今聞いた情報を足していく。
 つまり、カイルがあの時言ったのは……。

「離婚して愛人になれて良かったね……?」

 なんてとんでもない発言をしてたのかと驚愕の顔でカイルを見つめる。
 思わずカイルを見てしまったアミルへ先輩たちが「馬鹿、バレる!」と声を上げた。
 先輩の注意空しくカイルがこちらを向いて笑った。「さっきから聞こえてるよ」との言葉と一緒に。
 即座に頭を下げて謝り脱兎のごとく去って行った先輩たちを見送ってカイルが「別に怒ってないのに」と呆れた声を出す。そんなに怖かったかなと首を傾げるカイルがアミルの側までやってくる。
 完全に逃げるタイミングを失ったし、今逃げられても後が怖い。
 そう思ったけれど楽しそうな笑みを浮かべるカイルは本当に怒ってはないみたいだった。

「カイル、本当にそんなこと言ってたんですか」

 口にしてからつい名前を呼んでいたことに気づく。周りに人がいなくなっててよかった。
 カイルは気にした様子もなくその通りだと頷く。

「ああ、さっきのあれね。 そうだよ。
 ついでに完全にとうが立つ前に売れて良かったねとも言った」

 あれか……!
 『今だから』お似合いの相手が見つかって良かったねって!

「女性になんてこと言ってるんですか!?」

「女だけどそんな丁重に扱う必要ない相手だし」

 元義姉でしょう、と言いかけて止める。
 聞かれたくないと言われたことだ。

 今さらながら先輩が口にした『副団長カイルは兄の婚約者に惚れていた』という言葉が頭に届く。
 カイルの態度を見ていると俄かには信じがたいけれど。
 多分カイルはあの女性のことが嫌いだし。
 二人の様子からすると言い寄られていたの方が信憑性が高い。

 ただそれが過去に何かがあったせいで感情が反転したのだと言われたらそれを否定する理由をアミルは持たない。
 負の感情を露にすること自体特別なことではあるのでそこに意味を見出してしまいそうになる。

 黙ったアミルにカイルが顔を寄せる。

「何? 俺があの女に便宜を図るとか思った?」

「いえ、そんなことをするとは思っていませんが……。 あの人のこと嫌いでしょうし」

 今は、と付けそうになって口を噤む。
 アミルの様子を見ていたカイルがやっぱり後でアイツら締めようと呟いたのに申し訳ない気持ちになる。特にできることはないけれど。

「まあ、いいや。
 今それどころじゃないし、無駄話してないで行こうか」

 話を打ち切って歩き出すカイルの後を追う。
 まだまだやることはいくらでもある。
 無駄話をしている場合じゃないのはその通りだった。


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