騎士団長に恋する僕は副団長に淫らな身体を弄ばれる【団長ルート 完結】【副団長ルート 完結】【団長&副団長ルート 完結】

紗綺

文字の大きさ
48 / 69
団長&副団長 × アミル

助言なのか罠なのか

しおりを挟む
 

 初討伐の日から団長は普通に接してくれるようになった。
 カイルと言い合いしている姿を見たからか僕も気負わずに接することができている。
 あんな子供みたいに治療を嫌がって暴れて言い合いをするなんて、想像もしない姿だった。
 親しみが湧く姿を思い出し笑みを漏らす。

「アミル、考え事?」

「わあっ!」

 急にひょいっと覗き込まれて声を上げる。
 驚き過ぎだよと文句を言うカイルだけど、夜に訓練場の片隅で人に声を掛けられたら驚いて当然だと思う。誰もいないと思っていたのに。
 カイルを見ると剣を手にしている。

「一人で訓練ですか?」

 珍しい。カイル一人で訓練をしているところは見たことがない。
 しかもこんな夜に。
 不思議に思っているとカイルが意味ありげに笑い、嫌な予感を覚える。

「アミルが相手してくれないからさー、発散しとこうと思って」

 初討伐の日はカイルが団長に捉まっていたせいか誘われずに済んだ。
 運が良かったと思う。
 あの日に誘われたらきっと断れなかった。
 高揚は未だ燻るように身体に残っている。

「っていうかアミルは大丈夫なの?」

 見透かしたようにカイルが問いを向ける。
 答えにできた間はそれが真実ではないと表すようだった。

「……大丈夫です」

「そう……?」

 薄い笑みを見せるカイルには僕の虚勢なんてわかっているんだろう。
 今はね?と言いたげな瞳を見ていられなくて視線を逸らす。
 いっそ飲み込まれたら楽になれるかもと考えてしまう自分が嫌だった。

「せっかくだから手合わせしようか」

 剣を持っておいでというカイルを見つめ返す。
 早くと言われて剣を取りに駆ける。

 戻ってくるとカイルは準備運動なのか素振りをしていた。
 流れるような剣の動きに見惚れる。
 カイルの剣は本当に綺麗だ。
 型通りの動きなのにただ型をなぞるのとは違う、説得力。
 一通りの型が終わるまで動けなかった。
 型を終えたカイルがアミル手招きし剣を構え向かい合う。

「アミルはまだ夜の討伐には行ったことないよね」

「はい」

 夜は討伐の危険度が増すためアミルのような見習いや新人には回ってこない。
 緊急度も高いため実力のある少数精鋭で向かうもので、当然カイルや団長は何度もこなしている。

「夜の討伐を危険にすることの一番は何かわかる?」

 一番、とカイルの問いに眉を寄せる。
 暗闇や魔獣そのものもそうだろうけれど、わざわざ問われると悩む。
 答えを待たずにカイルは言葉を続けた。

「恐怖だよ」

「……恐怖」

 そう、と笑みを深める。

「どこから魔獣が襲ってくるのかわからない恐怖、暗闇のそこかしこに魔獣が潜んでいるのではないかと風で揺れる木の葉の音にすら恐怖する」

 淡々とした語り口がじわじわと恐怖を煽る。
 そこで平常心を保てないような者は連れていけないのだろう。パニックにでもなれば本人だけでなく周りも危険だ。

「そこで平静を保つ方法はなんだと思う?」

 少し考えて口にする。

「よく周りを見ることですか?」

「んー、大事なことだけど少し違うかな。
 見てるつもりで想像ばかり働かせて恐怖に縮こまっちゃう奴もいるしね」

 当てられなかったことに若干の悔しさを覚えながらカイルの答えを待つ。
 そんな特別なことじゃないんだけどねと正解を教えてくれた。

「慣れ、だよ」

「慣れ、ですか」

 そうと答えるカイルはからかっているつもりはないらしい。
 確かに慣れが作る安心は大きい。普通の答え過ぎて肩透かしをされた気分だったが繰り返すと不思議とすっと心に落ちてきた。

「そうだよ。
 知らない、わからないから怖いし、いつもと違う状況に迷いが生まれる。
 だからアミルも慣れておくといいよ、知っているかそうでないかだけで変わるから」

 ちゃんとした助言だったことに神妙に頷く。
 いつかはアミルも夜の討伐に出ることがあるだろう。
 今この助言をもらえたのはきっと未来の糧になる。
 そんな風に先のことだと考えていたアミルの考えは一瞬で打ち砕かれた。

「だから、簡単に音を上げないでね?」

 そう告げると共にカイルの姿が掻き消えた。
 咄嗟に構えた双剣で降ってきた剣を受け止める。

「……くっ、ぅっ!」

 重い――!
 かろうじて防げた一撃を弾き距離を取る。

「――!」

 離れた距離を一瞬で詰められ放たれた突きを大きな動作で避ける。動揺に体勢が崩れたのが自分でもわかった。

「――っ!!」

 続けざまに放たれた突きを構えた剣で軌道を逸らす。手を襲った衝撃に違和感を覚える。
 片剣が弾かれ、口の端を吊り上げたカイルにわざと剣だけ弾かれたのだと察した。
 ゴウッと激しさをもって振り下ろされる剣がアミルを襲う。
 先ほどのように距離を取る隙さえ与えない。

 間近で感じた死の気配にぞわっと総毛立った。
 残った片剣でカイルの攻撃を受け止める。
 両手で持っているのに剣を取り落としそうなほど重い一撃だった。
 なんとか防いだけれど反撃を考えることもできずに足が勝手に下がろうとする。

 ――ダメだ。

 カイルの目が冷酷に細められたのを見て足を止めた。
 逃げたらダメだと強く感じる。
 なぜかはわからないけれど、ここで引いたら終わりだと。
 カイルの挙動に集中し、剣を握り直す。
 風が吹き初動の足音をかき消した。
 振り下ろされた攻撃を横に受け流し、開いた脇腹を狙う。
 ふっとカイルの姿が消えた。
 ひたっと首に当てられた感触に動きを止め、手を上げる。
 完敗だった。

「参りました」

 降参を告げると当てられていた剣の腹が引かれる。
 バクバクと鳴る心臓は、未だ危険と恐怖を伝えていて気持ちが悪い。

「惜しかったけど、悪くない動きができた方だね」

 良い良い、と褒めるカイルにまだこっちの感情はついて行かない。

「俺の動きが見えづらくなったことで攻撃を避ける動きが崩れた。
 避ける動作が大きすぎたの自分でもわかったでしょ?」

「はい」

 頷いて失敗を思い返す。
 見づらさと焦りからいつもより大きく避けてしまった。

「攻撃は全部防げてたし、最後も逃げないでよく見てた。
 ちゃんと集中したら俺の挙動が見えたでしょう」

 首肯して全部カイルの思惑通りに動かされたのだと悔しさを通り越して感心を覚える。
 追い詰めるためにわざと片剣を弾き攻撃の手を減らしその上でアミルがどう行動するのかを見ていた。

『最後まで戦う意思を捨てないかどうかで生き残る人間は決まる』

 前に言っていた言葉が頭に浮かぶ。
 その言葉を実践で味わせられた気分だ。
 先の話だと油断するなと。
 素直に感謝をする気にならないのは全部カイルの手の平で踊らされたのが癪に障るからだろうか。

「卑怯ですよね」

「え? 嫌なら逃げても良いよ」

 恐怖と戦いの高揚。
 討伐の後に感じるそれと似たものを浴びせられ、燻っていた火種を煽られた。
 カイルの笑みが深くなる。
 アミルを手合わせに誘ったときからこのつもりだったんだろうか。
 逃げて良いと口にしながら、その目は逃がす気はないと言っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...