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団長&副団長 × アミル
騎士との戦闘
しおりを挟むアミルの行く手を塞ごうとした男へ牽制の一撃を加え距離を取らせる。
包囲を抜けたアミルが走り去っていくのを見送って武装した騎士たちへ視線を戻す。
平服であっても男たちの動きは訓練された騎士のものだった。
最初からここの騎士団に不審は多々あったけどここまで腐敗しているとは思わなかった。
魔獣飼育の犯人を引き渡せと要求したのも自分たちで始末をつけるからといった理由ではないだろう。
でなければ制服を脱ぎ身元を隠して俺たちを襲ったりしない。
「さて、先に謝っておこうかな」
「何……?」
まだ地面から身を起こさない男を階段の下へ蹴り落として隊長格らしき男へ笑みを向ける。
抜き払った剣が微かな灯りを反射して煌めいた。
「俺、手加減とか苦手だから。
うっかりやっちゃったらごめんね」
手加減をする必要のない魔獣と違い眼前の相手は人間だ。
それも、騎士。
傷を負わせると面倒事になる。けれど。
こちらに引く道理はなかった。
「はっ、バカなことを。
たった一人で我ら全てを倒す気でいるのか」
「倒せたらいいんだけどね」
倒す方が余程難しい。
意識せずとも浮かべた笑みが酷薄なものであるとわかる。
「うっかり殺しちゃったらごめんね?」
そこまではしないつもりだけれど。
直らない怪我をさせてしまう可能性はある。
団長と違い武装した騎士を無傷で片づけるなんて言い切ることはできない。
そもそもカイルの専門は魔獣退治であるし。
まあ、団長もそうだけど。
「寝覚めが悪いからできるだけ気をつけるけど、約束はできないから」
そっちも精々気を付けてねと嗤うと馬鹿にされたと思ったのか隊長の左後方に控えていた男が怒りを露わに切り掛かってきた。
望み通りの反応に笑みを深める。嘲るような笑みに見えたのか勢いを増し振り下ろされる剣に隊長の制止も間に合わなかった。
勢いだけの単純な攻撃を受け流し剣の柄で切りかかって来た男を殴りつけ意識を奪う。一人減った。
冷静さを欠いた部下にまずいと思った隊長が口を開く前に、彼らを煽る言葉を口にする。
「あれ? なんか大層こと言ってた割に大したことないね。
こんなに弱いなら心配しなくて良かったかも」
手加減しても大丈夫そうだと嗤って見せたカイルへ激高した騎士たちが次々に飛び掛かってくる。
「待てっ!」
隊長の制止の声を無視した騎士が切り掛かる。感情的になり読みやすい攻撃になる騎士に半ば呆れながら剣を振るう。簡単に剣を弾き飛ばされた相手が状況を飲み込むより早く、がら空きになった腹へ蹴りを入れる。
咄嗟の防御すら覚束なかった男はカイルの手加減のない蹴りに悶絶し意識を手放した。
仲間が続けてやられたことにもう一人が怒声と共に突きを放つ。
連携も何もあったもんじゃない動きにほくそ笑む。唯一隊長格の男だけは冷静さを保ったまま残った部下たちへ無闇に攻撃するなと指示を飛ばしている。
周囲の様子を観察しながら突きを躱し、避けられ焦った男の顔へ拳を叩き込む。まともに拳を受けた男は呻き声すら上げずに崩れ落ちた。
瞬く間に3人伸されたことで警戒したのか、残りの騎士たちは慎重にカイルとの距離を測っている。
生まれた硬直状態に予想以上に上手くいったと内心で笑う。
カイルがしていたのは時間稼ぎだ。
逃がしたと見せたアミルが援軍を呼んで来るまでの。
近くでぶわっと膨れ上がった闘気に、カイルを注視していた騎士たちが反射的にそちらを向く。
闘気の正体がすでに迫り自分の身に剣を振り下ろしていることを認識した騎士の一人がかろうじて迫る軌道に剣を滑り込ませるが間に合わない。
防御しようとした剣ごと弾き飛ばされ石畳に転がった。
相変わらずでたらめな強さだと思う。ある程度は鍛えているだろう騎士を吹き飛ばすとかどれだけ馬鹿力なのか。
突如現れた頑強な騎士の姿、その身体から溢れる気迫にカイルを囲んでいた騎士たちが目に見えて動揺する。
それは隊長格の男も同様で、その隙を逃さずカイルは隊長へ切り掛かった。
寸でのところで隊長がカイルの攻撃を防ぐ。
押し返す余裕はないようだがこの程度でやられてはくれないみたいだ。
剣を引き距離を取った隊長が悔し気に俺たちを睨む。
「やってくれたな……!」
「それはこっちのセリフだよ」
こちらの動きを掴んで襲撃してくるとは。
多勢に無勢と侮る気持ちもあったのだろう。最初から連携を忘れてくれたのは助かった。
カイルの言葉を揶揄と受け取ったのか隊長の表情が怒りに染まる。
それでも最初の奴らと違い冷静さを失うことはなかった。
視線が俺の背後へ向かい、構えていた剣が投擲される。
――いつの間にか階段を上り逃げようとしていたローブの男へ目掛けて。
繋がっていた者にとって不都合な情報を握る男だ。
口封じに切り替え男の命を狙った剣を咄嗟に弾く。
――!
響いた金属音に隊長が舌打ちをする。ローブの男は自分が狙われたことに身を震わせ一目散に逃げて行った。
男が逃げたのを見て隊長も背を向けた。剣も手放しこれ以上の戦闘続行は不可能だと判断したのだろう。
団長が相手をしていた騎士たちもすでに全員倒れ伏している。
部下を回収するのも諦めて単身離脱していった。
「あー、団長すみません」
「いや、いい」
団長の腕にわずかに傷があるのを見て謝罪を述べる。剣を弾いたのは良かったけど団長を掠めるとは思わなかった。これは俺の失態だ。
「しかし予想外のことが起こったな」
ローブの男が逃げて行った方向を見ながら団長が呟く。
頷きを返しながらカイルも同意を述べる。
「そうですね。
逃がすのは予定通りでしたが、まさかここの騎士団が出張ってくるとは思いませんでした」
犯人をどうするつもりだったのかは知らないが真っ当に裁くつもりでなかったのは確かだ。
頭が痛いと言った顔で団長が黙り込んだところへ駆け寄る足音が聞こえた。
「団長、副団長! 大丈夫でしたか!」
戻って来たアミルが辺りを見回し無事だったことに安堵を見せる。
やって来た他の者も速やかに倒れた襲撃者に縄を掛け引っ張っていく。
予定外の事後処理は部下たちに任せ地下室の魔獣の始末に階段を降りようとしたところで耳に飛び込んできた会話に振り向いた。
「団長! 怪我してるじゃないですか、先に治療をしてください」
部下の一人が団長の傷に気づき医療班でもあるアミルを呼び寄せる。
近くにいたアミルは団長の傷を見て水で洗い流しポーションを取り出した。
「本来なら消毒だけでも大丈夫だと思いますけれど、任務中なので大事を取ってポーションを使いますね」
任務に支障が出るといけないのでと澱みない手つきで取り出されたポーションが振りかけられる前に静止をかけた。
「アミル、待って」
「カイル?」
どうして止めるのかと困惑の表情を見せるアミルへ視線で団長に許可を得てから理由を教える。
「団長はポーションが合わない体質だから治療は上級ポーションでないとできないんだよ」
驚きに目を瞠るアミルへ、だから消毒だけか傷が深そうなら俺が持ってる上級ポーションで治療してと告げて持っていた上級ポーションを渡す。
理由を問いたそうなアミルへ首を振る。アミルならこれだけで察するだろう。
ここで説明できるような理由じゃない。
俺の予想通りアミルは言葉を飲み込んで団長の治療に戻った。
アミルが団長の治療をしている間に魔獣の処理を終わらせる。
予想以上に大事になった捕り物に次に打っておく手を頭に浮かべる。まだ休めそうにない。
治療を終えたアミルを見て邪な考えがよぎる。
発散しないと危なそうだと思うが近くで見ている団長に悟られないよう顔には出さない。
とりあえず今後の動きを調整する必要がある。頭を切り替え団長を宿へ促す。
団長も予想外の襲撃があったため急ぎ状況を整理する必要があることを認め、事後処理は任せて宿へ向かうことになった。
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