入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~

紗綺

文字の大きさ
17 / 27
〜甘い学園生活送ります〜

仕組んだなんて人聞きが悪い

 

経営学の講義を終えて移動しようとしたところで王弟殿下に呼び止められた。
周りの生徒は興味を含んだ視線を向けたが、王弟殿下にひと睨みされてそそくさと立ち去っていく。
次の講義まで復習をしようと思っていたのにとの思いを腹に隠して向き直る。
内緒話がしたいのか扉を閉めようとする殿下に、ストップをかけた。

「この格好とはいえ女なので密室にしないでいただけますか?」

今日も男子の制服を着てはいる。
けれど格好の問題ではなく異性と密室で二人きりはマズイ。

「面倒くさいな、聞かれて困るだろうと気を使ってやったのに」

舌打ちをした殿下の用向きがそれで想像がついた。

「申し訳ございません、元婚約者があのような方でしたので……。
どうしても男性を警戒してしまうのです」

目を伏せて謝罪をすると殿下が顔を顰めた。
醜聞は関心が高く、広まるのが早い。
当然殿下も知っているはずだ。

「そのデイガルドのこと、仕組んだのはお前だろう」

首を傾げ、沈黙を保つ。

元婚約者となったデイガルド侯爵子息が学園を退学になったのは大っぴらに公表はしていない。
けれど王弟殿下が調べたら隠せはしないだろう。

「なぜそう思うんですか?」

学園側はそれまでの素行を徹底的に調べ上げた。
女性が接客する酒場や娼館への出入りも問題としていたが、退学を決定的にしたのがあの日デイガルド侯爵子息の相手をしていた女性の来歴だ。
彼女が学園に入る際に出した推薦状がデイガルド侯爵の息のかかった家からのものだったらしく、最初から自分の相手をさせるために学園に入れたと判断されたらしい。
本人は否定していたようだが事実を総合的に判断するとそうとしか見えないとの判断が下った。

「デイガルドの浮気相手だったあの女」

「ああ、レイル家のお血筋だったとか」

少し珍しい色味だったから辿ればそこに行きつくのも不思議はない。
浮気相手を用意しての自作自演だと思ったとか?

「なぜ知っているのかも問いたいが、そっちじゃない。
推薦状を書いたのがデイガルド侯爵傘下の貴族だったからデイガルド自身が画策したということになったが、アイツは否定を続けていた」

そうですね、最後まで認めなかったとか。
当然ですけれど。

くだんの貴族はデイガルドの最初の婚約者の母方筋だ」

「世間は狭いですね」

「その婚約者だった女性は婚約を解消したあと領地に籠りきりになっている」

頷きで知っていると先を促す。
苦虫を噛み潰したような顔をするけれど、それくらいは知っていて当然では?

「噂ではデイガルドに無体をされ心を病んだとか」

「さぞ恐ろしいことをされたのでしょう」

彼の令嬢がデイガルドの婚約者になったのは12歳。
ルークが調べてくれたその無体の内容も知っている。
彼女の身内が、一線を越えなければ良いと思ったと言い放った馬鹿に鉄槌を下したいと思っても無理はない。
彼女はようやく傷が癒えてきたと聞く。
療養の名目で訪れていた土地で伴侶と出会い婚姻に到ったと傷ついた姿を見守ってきた方が教えてくれた。それまでの苦悩や葛藤を知っているからこそ、その方は彼女がようやく安心できる場所を得られたことに涙ぐんでいた。

「女性の傷を暴いて何がしたいのでしょうか?
趣味が悪いですね」

溜息とともに冷たい視線を向ける。
自身でもそう思っているのか一瞬口を噤み、やはり黙ってはいられないとまた口を開く。

「それから……、その浮気相手と同室だった使用人はハイラル伯爵領出身だとか」

「出稼ぎでしょうか、以前からおりますが水害直後は人材の流出が多かったですから」

殿下らしくもない。いつもはもっと直截に、ずけずけ物を言うのに。
奥歯に物が挟まったような話しぶりが違和感を増長させる。

「殿下、何を言いたいのかわかりませんが、デイガルド侯爵子息との婚約破棄はあちらの不貞行為が原因ですよ?」

「その行為にいたった理由のひとつに、ハイラル領出身の女から譲られた媚薬があってもか」

よくそこまで調べたなと笑みを零す。

「俺は、不本意だがオマエのことを学友だと認識している」

意外な認識に目を瞬く。
いつも文句ばかり言っているのに、驚く。

「その学友が犯罪と言われる行為に手を染めているのなら質したいと思うのはおかしなことか?」

いいえ、と答える。
思ったよりも近しいところに私を置いてくれているのだなと感じた。
殿下は、とは言わなかった。
ふっと一つ息をついて答えを口にする。

「あれは恋人と幸せな夜を過ごすためのごく弱い物にすぎません。
理性を忘れて獣のように時と場所をわきまえず事に及ぶようなものではありませんよ」

殿下が学友としてと言ったので私も学友として答える。
犯罪行為をしていないか心配しているというのなら払拭してあげるだけの言い訳は立つ。
けれど殿下はもう一歩踏み込んできた。

「お前は何の目的であんな手の込んだことをしたんだ」

「目的なんて……」

なぜ決まりきったことを聞くのだろうか。

「あの男との婚約を破棄したかった、それだけですよ」

「そのためだけにあんな手の込んだことをしたというのか」

確かに手間はまあまあかかった。
けれど自分の家と協力者たちを守るために当然の手配だ。

「侯爵は欲をかき過ぎました。
もちろん弱みに付け込んで自分に有利な契約を結ぶのは世の常ですが、相手の譲れないものに手を伸ばすと痛い目を見ることもあります」

伯爵家としては食料援助の見返りとして20年の通行料免除を申し出ており、それで侯爵家には十分な利益だったはずだ。
足元を見て不良債権を押し付けてくるだけではなく、伯爵家を乗っ取るつもりでいたのだから抵抗されるのは当然だと思う。
これにはルークを説得しきれなかった私の落ち度もあるけれど。
私の婚約が解消されずにハイラル家を自分が継げば他の誰かを娶らなければならない。それがどうしても嫌だと。
何度説得しても私がルーク以外との間にもうけた子を育てる方が余程マシだと聞き分けなかった。



沈黙が続き、殿下が顔を上げる。
私を真っ直ぐに見つめる瞳から揺らぎが消え、強い意志が宿った。

「俺に敵対するなよ」

思わずふっと笑ってしまった。何を言うのかと思えば。

「殿下、私は自分の領地が一番大事なだけの地方領主です。
王弟殿下と敵対することなど……、ありえませんよ」

理由がなければ、と含みのある間を持たせる。
しばし視線をぶつけ合う。
先に視線を外したのは殿下の方だった。
そうか、との呟きに籠められたのが安堵だったのか失望だったのかは私にはわからなかった。


感想 6

あなたにおすすめの小説

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

[完結]婚約破棄ですか? 困りましたね。え、別の方と婚約? どなたですか?

h.h
恋愛
未来の妃となるべく必死で努力してきたアリーシャ。 そんなアリーシャに婚約破棄が言い渡される。アリーシャが思ったのは、手にした知識をこれからどう活かしていけばいいのかということだった。困ったアリーシャに、国王はある提案をする。

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【短編】婚約破棄した元婚約者の恋人が招いていないのにダンスパーティーに来ました。

五月ふう
恋愛
王子レンはアイナの婚約者であった。しかし、レンはヒロインのナミと出会いアイナを冷遇するようになった。なんとかレンを自分に引き留めようと奮闘するも、うまく行かない。ついに婚約破棄となってしまう。