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【2-3】時期外れのアニメキャラのパジャマ姿で現れた小学生にしか見えないフィラから、グラマー女子高生の風子を起こすように言われる。

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【2-3】占い祓い屋風雷館には風神・雷神・吸血鬼の娘がいる!

  東岡忠良(あずまおか・ただよし)

【2-3】時期外れのアニメキャラのパジャマ姿で現れた小学生にしか見えないフィラから、グラマー女子高生の風子を起こすように言われる。

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──【2-3】──

 朝になり、フィラは窓の外を見た。着ているのは、二年前に人気のあったアニメキャラクターの子供用のパジャマである。
 「今日は雨か……。カレーとご飯は少な目かな……」
 とつぶやくと、そのパジャマ姿のまま部屋に近いトイレに行くと、ちょうど雷がお手洗いを済ませて出てくるところだった。
 高校生の雷だが、中学校で使っていた運動着を寝巻きにしている。そのために白い布のゼッケンに大きく『稲妻』と書かれている。
「おはようございます。フィラさん」
 と会釈する。
「ああ。おはよう。雷」
 と軽く手を上げる。
「フィラさん、まだそのパジャマを着ているんですか?」
 と呆れ気味に言う。
「ああ。着るぞ。なんせ、私の身体のサイズにピッタリな上に、格安で売っていた物だからな。まだ、二着ほどあるぞ」
 と微笑む。
「そのキャラクターの出るアニメって、確か二年前に終わったやつでしょう。恥ずかしくないですか?」
 と心配するように見つめる。
「いやいや。それはこっちのセリフだよ」
 と雷の今の服装を指摘する。
「私は平気です。一年前まで中学校で着ていたものですから」
 と飛び抜けた美しさの美少女が首を少し傾けて笑う。
「私も大丈夫よ。だって部屋着みたいなものだから、他人が見ることないもの」
 とフィラ。
「伊織さんには見られていいんですか?」
 と雷が心配そうにすると、
 ない胸の前で腕を組み、「う~ん」と唸(うな)ると、
「逆に見せるのもありかな」
 と真顔で言った。すると、
「あ。そうですか。なら私はもう何も言いません」
 と呆れ、
「そうそう。もう、伊織さんは起きて事務所の掃除をやっていましたよ」
 と言いながら、自分の部屋のある三階の階段を上っていった。
「それはいけないわ。まだ七時よ。昨日、八時だと伝えたのに」
 とフィラはトイレに入った。
 トイレから出ると、すぐに風雷館の事務所に行った。扉を開けると、
「お早うございます」
 と伊織の爽やかな挨拶が返ってきた。
「やあ。お早う」
 と右手を上げると、伊織はしばらくフィラのことを見つめていたが、何かに気がついたのか目を反らして机を拭き始めた。
「なに? 何か私、変?」
 とわざと言ってみる。
「いえ。特に何も……」
 と言ってこちらを一切見ない。
「伊織君は正直ねえ~」
 と言って側に寄って、
「この古いアニメキャラのパジャマがそんなに見苦しい」
 と言うと、
「いえ。そんなことは……」
 と目を逸らした。
「言っとくけど、私。普段着は子供服が多いのよ。特に終わったアニメの服はよく投げ売りしているからね。この綿(めん)百パーセントのパジャマも四百八十円だったし」
「え! そうなんですか!」
 とフィラをじっくり見つめる。
「まあ、さすがに外には出られないけど、このビル内ではこういう格好をしているから気にしないでね」
 と言う。少し間が空いて、
「はい。分かりました」
 と答える。
「それと」
「はい」
「私、昨日、八時にここに来るように言ったわよね。何で一時間早いの?」
「えっと、それは……」
「やる気を見せている感じかしら?」
「いえ。何というか……」
「はっきり言ってよ」
「実は久しぶりにぐっすり眠れて、早く目が覚めてしまったんです」
「そうなの? あなた、睡眠時間が長くないの?」
 と不思議そうに訊くと、
「そうですね。眠りは深いんですけど、六時間も寝たらすっきりって感じですかね」
「へえ~。そうなのね」
 と一四〇センチくらいのフィラはそう言うと、一八〇センチはある伊織を見上げるようにして、
「伊織君。いい。あなたには出来るだけ長くここで働いて欲しいと思っているわ。だからもし、今回みたいに一時間早く起きたら、自分のことをやりなさい。分かった?」
「え。いいんですか?」
 と伊織。
「いいわよ。それと休みの土日に、臨時の仕事をお願いすることもあるわ」
「臨時の仕事ですか?」
「そう。だから変に頑張らないで、空き時間には勉強するなり、身体を休めるなり、趣味をやるなりしてくれたらいいわ」
 とフィラは優しい口調で言った。
「本当にそれでいいんですか?」
 と伊織は少々信じられない様子である。
「もちろんよ。じゃあ、今からお願いしたいことを教えるわ。心配しなくてもそんなに難しくないから」
 と少し型の古いデスクトップパソコンの電源を入れる。少し間が空いてから、パソコンが立ち上がると、パソコンの横に置いてあるビニール袋に入った昨日の日付の『ワンコインカレー・梅』の食券を手に取り、
「お店があった次の日は、食券の内容を確認しながら、経理ソフトに数字を入れて欲しいの」
 とマウスを操作しながら説明する。
「打ち込むさいには相手の勘定科目と右左を間違えないように入力すれば問題ないわ。解らなければ私か雷ちゃんに訊いてくれたらいいから」
「はい。分かりました」
 と答えると、
「伊織君。素直でよろしい」
 と微笑んだ。
 そうしているうちに、
「じゃあ、行ってきます」
 と雷がフィラさんと伊織に声をかける。
 雷は昨日見たブレザーの制服姿である。
「あら。雷ちゃん。そろそろ期末試験じゃないの?」
 と言うと、
「フィラさん。期末試験はもう終わったわよ。今日は普通に授業よ」
「そっか。でもう試験は返ってきたの?」
「ええ」
「結果はどうだった?」
 と心配そうに言うと、
「一応、学年トップだったわ」
 ときちんと着こなされたブレザーで笑顔を向けた。
「雷ちゃん、さすがね。それで風子ちゃんは?」
 と嬉しそうな顔の後、心配そうな表情で言った。
「いつも通り二回起こしたんですけど、『後、五分』ってまた言っていましたよ。これ以上は私も遅くなるので」
 と美しい顔で苦笑する。
「毎朝とはいえ困ったものね」
 とフィラは大きなため息をついた。 
「雷ちゃんはもう行きなさい」
「はい。では行ってきます。健闘を祈ります」
 と右手でビシッと敬礼をして階段を下りていった。
「伊織君。悪いんだけど風子を起こしてくれるかな」
 とフィラは言うが、
「え? いいんですか?」
 と伊織は焦る。
「ん? 何か問題でも?」
 としらばっくれる。
「その……。男の僕が高校生の女の子を起こしに行っても。その……。部屋に入らないといけないし……」
 と言うと、
「あ? あ~。いいの、いいの。というか伊織君にこれから毎朝お願いできるかしら」
「え! 本当に大丈夫ですか?」
 と完全に慌てている。
「いいわよ。というか早く起こさないと風子ちゃん、間に合わないわよ」
「確認なんですけど、もしかして雷さんと同じ高校ですか?」
「もちろん、同じ高校よ」
 と腕を組んで三階のある天井を仰いだ。
「分かりました。すぐに起こしてきます」
 と伊織は慌てて三階に上がっていった。
 三階に上がると、北側が風子の部屋になっている。
「風子さん! 風子さん! 起きて下さい! 風子さん」
 と何度も何度もノックするが返事はない。伊織が困った様子で続けていると、階段をゆっくりと上ってきたフィラが、
「伊織君。構わないから部屋に入って起こして」
 と真剣な表情で言う。
「え? いいんですか?」
 と伊織はフィラの方を見る。フィラは腰に手を当てて、
「扉をノックしたくらいじゃ、風子は起きないわよ。あの子、朝はとても苦手なのよ」
 と大きくため息をついた。
「分かりました。行きます」
 と『風子』と書かれたドアのノブに手をかけたが、
「本当にいいんてすか? 昨日、会ったばかりの僕みたいな大学生が、女子高生の部屋に入って?」
 と助けて欲しそうにフィラを見る。
「仕方がないでしょう。全然、起きないんだから。それに私だとちょっと危ないのよ」
 と言う。
「え? 危ない?」
 と伊織は不信感を持ったが、
「ほら! 行った、行った!」
 と急(せ)かした。
「風子さん! 入りますよ!」
 と部屋に入ると、本や紙やぬいぐるみなど、物が床に散乱している奥のベッドに風子は気持ちよさそうに寝ていた。
「風子さん! 風子さん!」
 とベッドから離れたところから声をかけるが反応はない。
 すると後ろから、
「私が許すから風子の身体を揺すって起こして。というか、それしか起きないから」
 と少しニヤけた顔で言った。
「わっ、分かりました」
 と物を踏まないように気をつけて歩き、風子の寝息が聞こえるくらいまで近づいた。
「さあ。そこで揺すって起こすのよ」
「揺するってどこに触れたらいいですか?」
 と伊織。
  見ると風子は、赤い短パンからは白くて太めの太腿(ふともも)がスラリと伸びていて、大きな胸のせいでプリントされた歪んだ顔のキャラクターが、息と共に上下している。
「あのう……。これ、どこを触ればいいんてすか?」
 と伊織は訊くしかない。
「どこでもいいわよ。足でもお尻でも、なんなら胸でもね」
 とフィラは言った。

2024年1月2日

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