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【2-4】『完売閉店』の札を出すと、フィラの知り合いが訪ねてきた。「梅さんはおられますかのう」
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【2-4】占い祓い屋風雷館には風神・雷神・吸血鬼の娘がいる!
東岡忠良(あずまおか・ただよし)
【2-4】『完売閉店』の札を出すと、フィラの知り合いが訪ねてきた。「梅さんはおられますかのう」
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
お待ちしています。
──【2-4】──
伊織は、風子の見事なプロポーションを見て、思わずゴクリと喉が鳴った。
胸がときめくほど美しい雷もかなり魅力的だが、一七〇センチはあるだろう長身と、大きな胸と細いウエストそして大きく丸みを帯びたお尻は、女としての魅力に溢(あふ)れている。
伊織はここなら大丈夫だろうと、肩に触れて揺すった。
「風子さん。起きて下さいよ。風子さん」
と声をかけた。
「ううう~ん。後五分……。雷ちゃん……。後五分……」
伊織の後ろからクスクスとフィラの笑い声が聞こえる。ドアのところに立っていたが、部屋に落ちている物を平気で踏んで、伊織の側までやってきて言った。
「伊織君。こうやって起こすのよ」
と言うと、フィラは細い左腕を風子の深い胸の谷間に突っ込んだ。
「ふひゃい!」
と風子から聞いたことのない声がしたかと思うと、
「起・き・な・さ・い!」
と言いながら、右手を短パンに突っ込んで、お尻をまさぐった。
「ふひゃふひゃいい~!」
と「冷たい」と「こそばい」が一緒になったような奇妙な声を出して飛び起きた。
「風子。今日、学校よね。行かないつもりなの?」
とフィラは見た目と違う風格のある姿で仁王立ちした。
「い……。行きます……」
「だったら、さっさと着替えて走ってけ!」
「はいっ!」
と飛び起きて、Tシャツを抜こうとした時だった。
「うわっ! ちょっと待って下さい! すぐ出て行きますから!」
と伊織は大慌てになった。
「ちょっと風子、着替えるの待った! 伊織君は早く出て行って!」
と転がるように風子の部屋を出ていった。伊織は部屋の前で呼吸を整えていると、静かにフィラも部屋から出てきて、
「ということで、風子を起こすのもお願いしたいんだけど」
と訊くと、
「すいません。男の僕には無理です」
と静かに言った。
すると雷とは違いシワだらけの制服と、乱れた髪型のまま、
「いっ、行ってきまっひゅ」
と袋のままの菓子パンを咥えて、勢いよく階段を下りて行った。
「どう? パンを咥えて走る女子高生って初めて見たでしょう?」
「はい……」
「暖かくなるまで、平日はよく見かけることになるわよ」
「はあ~」
「だから、風子を起すのもお願いしたいんだけど?」
とまた言った。
「すいません。出来ればフィラさんか雷さんにお願いしたいんですけど……。これ以外は何でもやりますんで」
と正直な気持ちを伝えた。
するとフィラは大きくため息をついて、
「まあ。出来たらお願いしたいんだけど……。普段は仕込みがあるのよねえ……」
と言って、階段の方に向かい、
「今から朝食を一緒に食べましょう。ついてきて」
と二階へ向かう階段を下りていった。
「ちょっと待ってて」
と二階で自分の部屋に入ると、アニメキャラのパジャマを隠すように、スポーツブランドのスウェットを上着にして出てきた。
「ついてきて」
と一階に下りると、ビル前の道路を歩いて『ワンコインカレー・梅』の古そうなシャッターの鍵を解錠すると同時に、ガラガラと開ける派手な音がした。器用にシャッターを閉めるための金属の棒を使って上げ切った。
「この作業も明日からお願いね」
と作業のためにポケットへ直したキーホルダーを再び取り出して、
「これがシャッターの鍵。これがカレー店の鍵だから」
とシャッターの方はかなり古そうな錆も少しある鍵だったが、カレー店の鍵は比較的新しい鍵に赤い油性マジックが塗られていた。
「風子が赤く塗ったのよ。分かりにくいからってね」
と微笑むと、戸を引いて中に入る。ガラスの引き戸には『ワンコインカレー・梅』と書かれていた。
中に入ると店の中はすでに綺麗に清掃されていた。
「朝早くに雷ちゃんが食べて行ったのね」
とフィラは云うと、
「やっぱりね」
と炊事場にはカレー皿とスプーンが水に浸けてあった。
「本当は四人で一緒に食べたかったんだけど、昨日銃で撃たれたからね。私まだ、体調が万全じゃなかったんで起きれなかったのよね」
とフィラは言った。
「それで伊織君。今日も店は通常通りに営業するから」
「はい。僕は構いませんけど。その……。大丈夫ですか?」
と心配する。
「大丈夫……。死んだりとかはしないから。ただ身体には負担がないとは言えないわね。凄く疲れているの。だからフォローをお願いね」
と笑顔を向けた。
「臨時休業には、なぜしないんですか? そんなに疲れているのに」
と伊織が言うと、
「あそこに寸胴が二つあるじゃない」
と親指で背後を指差す。
「はい。ありますね」
「あれは昨日の午前中に仕込んだカレーなのよね」
「あ。じゃあ」
「あれを今日中に売り切らないと赤字よ」
「そうですね」
「でも今日はご飯以外の仕込みはやらないわ。明日は臨時休業にするつもり。だからカレーを食べたら、米を研いで炊飯器のスイッチを入れたら、私は自分の部屋で開店時間まで寝ているから」
「はい」
「だからカレーの朝食を食べたら、伊織君は二階の事務処理をお願い。終わったら、また戻ってきて表の道を掃除してから、またシャッターとドアを開けて店内の簡単な掃除を頼むわ。開店時間は十一時よ」
と指示をすると、
「分かりました」
と小さな手帳にメモをした。
「あなた、熱心ね。嬉しいわ」
とフィラ。
「熱心だなんて。一日も早く仕事を覚えたいだけです」
とメモを書き終えた。
「じゃあ、まずは食べましょうか。今日はカレーライスしかないけど」
とフィラは伊織のためにご飯をよそい電子レンジで温めて、次にカレールーをかけると、再びレンジにかけた。
「悪いけど電子レンジを使うわ」
「そんな。問題ないですから」
と伊織。
「昨日のゴタゴタでカレーもご飯も余っているの。だからたくさん食べてね。そうそう。テーブルにある福神漬や辣韮(らっきょう)は好きなだけ食べていいわよ」
と二人はテーブルに向かい合わせで座り、
頂きます。
と手を合わせて食べ始めた。
空腹だった伊織は勢いよく食べた。
「いい食べっぷりね」
「は、はい」
その後、沈黙がやってきて、
「伊織君は何も訊かないのね」
とフィラもカレーを口に運ぶ。すると、
「お聞きしたいことはたくさんありますけど、聞いていいんですか?」
と顔色を伺(うかが)うようにしている。
「そうね。内容にもよるけど、出来るだけ答えるわ」
とフィラ。
「そのう……。どうして雷さんは朝食のためにシャッターとドアを一度開けたのに、また閉めたんですか?」
「えっ! なに? 訊くのそこ!」
とフィラは笑った。
「ええ。ちょっと疑問に思って」
と左手で頭を掻く。
「二年前くらいかしら。一度、泥棒に入られたことがあるのよ」
「泥棒ですか!」
「うん。その時はシャッターは開けっ放しだったのよ。そしたらドアとあの券売機がバールか何かで、無理矢理こじ開けられてね」
「えっ!」
「まあ、すでにお金は回収してあったから問題はなかったんだけど、ドアの鍵は壊されていたから交換。券売機はそこだけ修理よ。全く、大損害よ」
と自棄気味(やけぎみ)に言った。
「それはなんというか。お気の毒と言うか……」
「本当にお気の毒よ。だからその事があってから、面倒くさいけど、いちいちドアとシャッターを閉めることにしたのよ」
「そうだったんですね。ところで……」
「何?」
「風子さんはやっぱり僕が毎朝、起こさないといけませんか?」
と確認すると、
「そうね。私、普段はカレーの仕込みをしているのよ。そのさいも風子を起こすために」
と間を置いて、
「ドアを閉めて、シャッターを閉めてから、三階にあがることになると」
「時間も手間もかかる」
「寸胴を火にかけているからね。それも止めないといけなくてね。余りしたくないのよね。また、温め直しになるから」
「それは確かに大変ですね」
「だからお願いできるかしら。どんな方法を使ってもいいから、風子を起こしてちょうだい」
と微笑んだ。
「分かりました。明日から起こします」
と約束した。
それから伊織は、フィラの指示通りに動いた。十一時にはカレー店をいつも通りに開店して、多くのお客様が来てくれた。
フィラさん。昨日は大丈夫だったかい?
元気そうだね。よかった。
と常連さんらに声をかけてもらっている。その際に、
「明日は臨時休業します。来週からは通常営業しますので、よろしく」
と声を出し、入口に張り紙もした。
伊織もご婦人らから声がかけられた。
お兄さん、いい男ね。
大学生なの? 可愛いわ~。
と。
十二時過ぎになると、二人仲良く雷と風子が戻ってきて、カウンターの端でカレーを食べる。
食べ終わると、少しだけ店を手伝うと、また学校に戻っていった。
二人は伊織に対して態度がそっけなかったが、伊織自身はそれどころではなく、大忙しだった。
カレーは飛ぶように売れて、午後二時前には完売した。
「伊織君。完売閉店の札を出しておいて」
と言われ「はい」と気持ちのよい返事をした後、部屋の角にあった『完売閉店』と書かれた木製の札を手に取り、入り口のドアに付けられたフックに、それを掛けた時だった。
「梅さんはおられますかのう」
と杖をついたおばあさんが、笑顔で立っていた。
「えっと……。梅さん? ですか?」
と伊織が後ろを振り向いて、フィラの方を見ると、
「房江(ふさえ)じゃない。半年ぶりね」
と駆け寄ってきた。
2024年1月6日
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東岡忠良(あずまおか・ただよし)
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──【2-4】──
伊織は、風子の見事なプロポーションを見て、思わずゴクリと喉が鳴った。
胸がときめくほど美しい雷もかなり魅力的だが、一七〇センチはあるだろう長身と、大きな胸と細いウエストそして大きく丸みを帯びたお尻は、女としての魅力に溢(あふ)れている。
伊織はここなら大丈夫だろうと、肩に触れて揺すった。
「風子さん。起きて下さいよ。風子さん」
と声をかけた。
「ううう~ん。後五分……。雷ちゃん……。後五分……」
伊織の後ろからクスクスとフィラの笑い声が聞こえる。ドアのところに立っていたが、部屋に落ちている物を平気で踏んで、伊織の側までやってきて言った。
「伊織君。こうやって起こすのよ」
と言うと、フィラは細い左腕を風子の深い胸の谷間に突っ込んだ。
「ふひゃい!」
と風子から聞いたことのない声がしたかと思うと、
「起・き・な・さ・い!」
と言いながら、右手を短パンに突っ込んで、お尻をまさぐった。
「ふひゃふひゃいい~!」
と「冷たい」と「こそばい」が一緒になったような奇妙な声を出して飛び起きた。
「風子。今日、学校よね。行かないつもりなの?」
とフィラは見た目と違う風格のある姿で仁王立ちした。
「い……。行きます……」
「だったら、さっさと着替えて走ってけ!」
「はいっ!」
と飛び起きて、Tシャツを抜こうとした時だった。
「うわっ! ちょっと待って下さい! すぐ出て行きますから!」
と伊織は大慌てになった。
「ちょっと風子、着替えるの待った! 伊織君は早く出て行って!」
と転がるように風子の部屋を出ていった。伊織は部屋の前で呼吸を整えていると、静かにフィラも部屋から出てきて、
「ということで、風子を起こすのもお願いしたいんだけど」
と訊くと、
「すいません。男の僕には無理です」
と静かに言った。
すると雷とは違いシワだらけの制服と、乱れた髪型のまま、
「いっ、行ってきまっひゅ」
と袋のままの菓子パンを咥えて、勢いよく階段を下りて行った。
「どう? パンを咥えて走る女子高生って初めて見たでしょう?」
「はい……」
「暖かくなるまで、平日はよく見かけることになるわよ」
「はあ~」
「だから、風子を起すのもお願いしたいんだけど?」
とまた言った。
「すいません。出来ればフィラさんか雷さんにお願いしたいんですけど……。これ以外は何でもやりますんで」
と正直な気持ちを伝えた。
するとフィラは大きくため息をついて、
「まあ。出来たらお願いしたいんだけど……。普段は仕込みがあるのよねえ……」
と言って、階段の方に向かい、
「今から朝食を一緒に食べましょう。ついてきて」
と二階へ向かう階段を下りていった。
「ちょっと待ってて」
と二階で自分の部屋に入ると、アニメキャラのパジャマを隠すように、スポーツブランドのスウェットを上着にして出てきた。
「ついてきて」
と一階に下りると、ビル前の道路を歩いて『ワンコインカレー・梅』の古そうなシャッターの鍵を解錠すると同時に、ガラガラと開ける派手な音がした。器用にシャッターを閉めるための金属の棒を使って上げ切った。
「この作業も明日からお願いね」
と作業のためにポケットへ直したキーホルダーを再び取り出して、
「これがシャッターの鍵。これがカレー店の鍵だから」
とシャッターの方はかなり古そうな錆も少しある鍵だったが、カレー店の鍵は比較的新しい鍵に赤い油性マジックが塗られていた。
「風子が赤く塗ったのよ。分かりにくいからってね」
と微笑むと、戸を引いて中に入る。ガラスの引き戸には『ワンコインカレー・梅』と書かれていた。
中に入ると店の中はすでに綺麗に清掃されていた。
「朝早くに雷ちゃんが食べて行ったのね」
とフィラは云うと、
「やっぱりね」
と炊事場にはカレー皿とスプーンが水に浸けてあった。
「本当は四人で一緒に食べたかったんだけど、昨日銃で撃たれたからね。私まだ、体調が万全じゃなかったんで起きれなかったのよね」
とフィラは言った。
「それで伊織君。今日も店は通常通りに営業するから」
「はい。僕は構いませんけど。その……。大丈夫ですか?」
と心配する。
「大丈夫……。死んだりとかはしないから。ただ身体には負担がないとは言えないわね。凄く疲れているの。だからフォローをお願いね」
と笑顔を向けた。
「臨時休業には、なぜしないんですか? そんなに疲れているのに」
と伊織が言うと、
「あそこに寸胴が二つあるじゃない」
と親指で背後を指差す。
「はい。ありますね」
「あれは昨日の午前中に仕込んだカレーなのよね」
「あ。じゃあ」
「あれを今日中に売り切らないと赤字よ」
「そうですね」
「でも今日はご飯以外の仕込みはやらないわ。明日は臨時休業にするつもり。だからカレーを食べたら、米を研いで炊飯器のスイッチを入れたら、私は自分の部屋で開店時間まで寝ているから」
「はい」
「だからカレーの朝食を食べたら、伊織君は二階の事務処理をお願い。終わったら、また戻ってきて表の道を掃除してから、またシャッターとドアを開けて店内の簡単な掃除を頼むわ。開店時間は十一時よ」
と指示をすると、
「分かりました」
と小さな手帳にメモをした。
「あなた、熱心ね。嬉しいわ」
とフィラ。
「熱心だなんて。一日も早く仕事を覚えたいだけです」
とメモを書き終えた。
「じゃあ、まずは食べましょうか。今日はカレーライスしかないけど」
とフィラは伊織のためにご飯をよそい電子レンジで温めて、次にカレールーをかけると、再びレンジにかけた。
「悪いけど電子レンジを使うわ」
「そんな。問題ないですから」
と伊織。
「昨日のゴタゴタでカレーもご飯も余っているの。だからたくさん食べてね。そうそう。テーブルにある福神漬や辣韮(らっきょう)は好きなだけ食べていいわよ」
と二人はテーブルに向かい合わせで座り、
頂きます。
と手を合わせて食べ始めた。
空腹だった伊織は勢いよく食べた。
「いい食べっぷりね」
「は、はい」
その後、沈黙がやってきて、
「伊織君は何も訊かないのね」
とフィラもカレーを口に運ぶ。すると、
「お聞きしたいことはたくさんありますけど、聞いていいんですか?」
と顔色を伺(うかが)うようにしている。
「そうね。内容にもよるけど、出来るだけ答えるわ」
とフィラ。
「そのう……。どうして雷さんは朝食のためにシャッターとドアを一度開けたのに、また閉めたんですか?」
「えっ! なに? 訊くのそこ!」
とフィラは笑った。
「ええ。ちょっと疑問に思って」
と左手で頭を掻く。
「二年前くらいかしら。一度、泥棒に入られたことがあるのよ」
「泥棒ですか!」
「うん。その時はシャッターは開けっ放しだったのよ。そしたらドアとあの券売機がバールか何かで、無理矢理こじ開けられてね」
「えっ!」
「まあ、すでにお金は回収してあったから問題はなかったんだけど、ドアの鍵は壊されていたから交換。券売機はそこだけ修理よ。全く、大損害よ」
と自棄気味(やけぎみ)に言った。
「それはなんというか。お気の毒と言うか……」
「本当にお気の毒よ。だからその事があってから、面倒くさいけど、いちいちドアとシャッターを閉めることにしたのよ」
「そうだったんですね。ところで……」
「何?」
「風子さんはやっぱり僕が毎朝、起こさないといけませんか?」
と確認すると、
「そうね。私、普段はカレーの仕込みをしているのよ。そのさいも風子を起こすために」
と間を置いて、
「ドアを閉めて、シャッターを閉めてから、三階にあがることになると」
「時間も手間もかかる」
「寸胴を火にかけているからね。それも止めないといけなくてね。余りしたくないのよね。また、温め直しになるから」
「それは確かに大変ですね」
「だからお願いできるかしら。どんな方法を使ってもいいから、風子を起こしてちょうだい」
と微笑んだ。
「分かりました。明日から起こします」
と約束した。
それから伊織は、フィラの指示通りに動いた。十一時にはカレー店をいつも通りに開店して、多くのお客様が来てくれた。
フィラさん。昨日は大丈夫だったかい?
元気そうだね。よかった。
と常連さんらに声をかけてもらっている。その際に、
「明日は臨時休業します。来週からは通常営業しますので、よろしく」
と声を出し、入口に張り紙もした。
伊織もご婦人らから声がかけられた。
お兄さん、いい男ね。
大学生なの? 可愛いわ~。
と。
十二時過ぎになると、二人仲良く雷と風子が戻ってきて、カウンターの端でカレーを食べる。
食べ終わると、少しだけ店を手伝うと、また学校に戻っていった。
二人は伊織に対して態度がそっけなかったが、伊織自身はそれどころではなく、大忙しだった。
カレーは飛ぶように売れて、午後二時前には完売した。
「伊織君。完売閉店の札を出しておいて」
と言われ「はい」と気持ちのよい返事をした後、部屋の角にあった『完売閉店』と書かれた木製の札を手に取り、入り口のドアに付けられたフックに、それを掛けた時だった。
「梅さんはおられますかのう」
と杖をついたおばあさんが、笑顔で立っていた。
「えっと……。梅さん? ですか?」
と伊織が後ろを振り向いて、フィラの方を見ると、
「房江(ふさえ)じゃない。半年ぶりね」
と駆け寄ってきた。
2024年1月6日
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