占い祓い屋風雷館には風神・雷神・吸血鬼の娘がいる!

東岡忠良

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【3-1】フィラ。「何で私はいつまでもAカップなのに、風子はHカップで、雷ちゃんまでFカップなのよ〜!」

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──【3-1】──

 この後、伊織はフィラと一緒に風子の部屋へ入った。風子の部屋にあるテレビを撤去するためなのだが、
「お願いです~。持って行かないで~」
 と伊織の足に風子が縋(すが)りつくと、
「なかなか良いシーンね」
 とフィラは素早くスマホを取り出してバシャバシャと写真を撮った。
「これ『裏切りと愛』という題名を付けて、インスタに上げていいかな?」
 と笑顔のフィラ。
「勘違いさせるような題名を付けないで下さい」
 と伊織。
「ところで伊織君は、テレビの後ろのややこしい配線は出来るのかな?」
「できますけど。ただ僕の部屋にも同じアンテナの端子がありますかね?」
 と訊いた。
 フィラは少し考えて、
「すべての部屋には同じものを付けているはずだから、多分大丈夫」
「分かりました」
 と手早くケーブルや端子を外すと、軽々とテレビを運び出した。
「ああ~。私のテレビが~」
 と名残惜しそうにしている。
「二階の事務所はもう閉めますね」
 と雷が風子の部屋に顔を出した。
「雷ちゃん、ご苦労様。悪いんだけど時間がないんで、これで四人分の夕食と朝食を買ってきてくれるかな?」
 と一万円を雷に渡した。
「はい。分かりましたけど、いいんですか?」
 と雷。
「いいのよ。いくら何でも二日続けてカレーは嫌でしょう」
 と申し訳なさそうにフィラが言う。
「でも今晩くらいで全部、食べ切れそうですよね」
「まあ。そうなんだけど」
 とフィラは苦笑する。
「なら、うどんを買ってきます。カレーうどんにしてみんなで食べましょうよ。トッピングする揚げとかネギとか買ってくるわ。朝食はいつもの感じでいいですよね」
 するとフィラは雷の側に行って、目一杯背伸びして、
「本当に雷ちゃんはよく出来た娘だよ。私は嬉しいよ」
 と頭を撫でた。
「あの! 伊織さんが見てるから! フィラさん、恥ずかしい……」
 と赤くなったが、
「じゃあ、行ってきます!」
 と素早く外出した。
 雷を見送った後に、フィラは風子の方を見て、
「そうそう、風子」
「はい……」
「これ、渡しとく」
 と一万円を出した。
「え……。これは……。お小遣い?」
「違うわよ」
 と語尾に軽く怒気を含めた。
「数日の食事代よ。私も雷ちゃんも伊織君もいないからね。あなた一人で留守番よ」
「え~。そんな~」
 と風子が悲しげに言うと、
「誰のせいだと思ってんの!」
 とフィラは風子に顔を近づけた。
「……百パーセント、私のせいです……」
「よろしい。あなたはこれからよくよく精進して、反省してちょうだい。それともし進級出来なかったら?」
「出来なかったら?」
「高校を辞めて、昼間はカレー店員。夜は風雷館の専属占い師になりなさい」
 と意地悪く笑った。
「え~! そんな~!」
「それが嫌なら今は勉強! 明日は補習! 勉強、しっかりやる!」
「はいっ!」
 と直立不動になった。
「じゃあ、渡しとくから」
 と一万円を風子に渡しながら、
「いつものように何に使ったか分かるように、レシートとお釣りは渡してね」
「はい……」
「じゃあ。伊織君はテレビの取り付けをお願い」
 はい。
 と伊織は動き出した。
 伊織が自分の部屋にテレビを運ぼうとして、ドアを開けるために一度テレビを廊下に置いた時だった。
 声が聞こえてきた。
「風子ちゃん。私はあなたのご両親である風神様から、あなたを預かっているのよ。確かにいつ、あなたは空に帰ってしまうか分からないし、人間の勉強だって神の国に帰った後は、全く役に立たないかもしれない」
「はい……」
「でもね。ダラダラとした生活を送ってきた時と、きちんとした生活をしてきた時と比べたら、神の国に帰る時にきちんとした時の方が、胸を張って堂々と出来ると思うのよ」
「はい……」
「それに、もし一生神の国に帰ることがなかったら、あなたは人間として生きていかないといけないのよ」
「はい……」
「それでよ。『私、高校を進級出来ませんでした。ダブりました』でまともに生きていけると思う?」
「……思いません」
「つまりそういうことなの。だから勉強は一生懸命にやって頂戴(ちょうだい)。高得点を取れ、とは言わないからさ……」
 それを聞いてしまった伊織は、
「フィラさん。なんだかんだ言っても、風子さんのことを大切に思っているんだな……」
 と呟いた。
「血は繋がってないけど、あなたは私の大切な娘なんだから……」
「フィラさん!」
「風子……」
 と二人は抱き合ったようだったが!
「フィラさん……」
「プハッ! 風子! あんた、乳デカ過ぎ! 息できないじゃないのよ~!」
「あっ! ごめんなさい。つい、力が入っちゃって」
「こっ! こっちは小柄なんだからね。少しは考えて行動してよ! 息が出来なくて死ぬかと思ったわよ!」
「え? でも吸血鬼(バンパイア)はそう簡単に死なないんじゃ?」
「死ななくても苦しいわよ!」
 伊織は聞かないようにするために、
「さ。テレビを取り付けるか」
 と自室に入っていったが、二人の大きくて良く通る声は、聞きたくなくても自然と聞こえてくる。
「全く! おっぱいばっかり大きくなって! 風子、あなた今、サイズは何なのよ?」
「え? Hカップです」
「Hカップ!」
 と特にフィラの大きな声が聞こえた。
 さすがに伊織もドキリとする。
「そんなサイズ、一般人で聞いたことないわよ!」
「私、一般人ですけど~」
「いいや。Hカップなんてグラビアアイドルか、エッチなビデオでしか聞いたことないわよ」
「? エッチなビデオ? 昔あったテープで録画するやつですか? それがエッチなんですか?」
 と不思議そうにしている。
「この平成生まれが! 若いわ、おっぱいデカいわ、ビデオは知らないわって! どうせ私はAカップの江戸時代生まれで、明治になってから日本に来て、昭和でビデオデッキに感動したわよ! 悪い!」
 とフィラが拗(す)ねる声がした。
「ちょっと、フィラさん……。声が大きいんだけど……」
 と伊織は呟く。知りたくない情報が勝手に耳へ入ってくる。
「待てよ?」
 とフィラの声。
「あなた、下着はどうしているの? 確かGカップの下着しか持っていないはずよね?」
 と言うと、
「それは、買ったんです」
「買った? Hカップの下着って特売なんてないはずよ。どちらかというと特注に近くて高いはず。お金が入ったら、すぐに使っちゃう風子が、どうやって買っている訳?」
 とフィラは不思議そうに言った。
「さあ~。どうしたんでしょうねえ~」
 と風子が勿体振ると、
「あなた、まさか! 町中でパンパンとかしてないわよね?」
 と不愉快そうに言うと、
「? パンパン? パンパンって何ですか? パンでも売るの?」
 と風子はキョトンとしている。
「パンパンって街娼(がいしょう)のことよ」
「え? がいしょう? って何ですか?」
 するとまた、フィラは声を荒げて、
「だからしっかりと勉強しなさいって言っているのよ!」
 と怒り出した。
「あ~。何か分からないけどごめんなさい。下着を買うお金は、雷ちゃんから借りてるの」
 と言った。
「雷ちゃんから借りてる? それは何でよ?」
「これ、フィラさんには秘密にしてって、雷ちゃんに言われているんだけどな~」
「いいから早くおっしゃい!」
「今、雷ちゃんの胸のサイズってFカップなの。それでニ年前に私が付けていたブラを雷ちゃんにあげたら、とても喜んでくれてお金を貸してくれたんだ。あ。本当はお金をくれるって言ってくれたんだけど、悪いから貸しでいいって、私から言ったんだよ。偉いでしょ」
 と風子は自慢げに言った。
 すると、
「……あんなに細い雷ちゃんって、胸の大きさがFカップもあるの……」
 と俯いていたが、
「何で私はいつまで経ってもAカップなのよ!」
 と叫んでしまった。
「フィラさん、気にしてたんですか?」
「そりゃ、そうよ! 私、この身体になって何年経っていると思っているのよ。百年よ! 百年! その前は小学校低学年くらいの身体でさあ。もう、辛くて辛くて仕方がなかったのよ!」
「まあ~、でもほら。若く見えるから~」
「若過ぎるのよ! 何なのこの身体は!」
 と怒りがなかなか収まらない。
「ただいま~。ダッシュで買ってきたわよ。三月とはいえ、まだまだ寒いわね~」
 と雷が戻ってきた。
「何で私はいつまでもAカップなのに、風子はHカップで、雷ちゃんまでFカップなのよ~!」
 と轟くような声量で言い放った。
「フィラさん……」
 と雷の声がした。明らかに怒っている。
 伊織も聞き耳を立てるのをやめて、テレビの取り付けに集中した。
 それでも隣りの部屋の話し声は、どうしても聞こえてきてしまう。
「あ? あら~。雷ちゃん、お帰り~。どうしたの? そんなに怒っちゃって~」
 とフィラがとても焦っている。
「フィラさん……」
「はいっ!」
「私の胸のサイズを夜に大声で叫ばないでくれますか……」
「はいっ! 本当にごめんなさい~!」
「ところで伊織さんは?」
「伊織君なら、自室でテレビを取り付けているわよ」
「そう……」
「そうよ。それがどうかした?」
「伊織さんに私の胸のサイズを聞かれてないでしょうね?」
「聞かれてない。聞かれてない。絶対、聞かれてない!」
 すると、
「私のは聞かれたと思うよ。フィラさんのも」
 と風子が要らない情報を継ぎ足す。
「なら、私のも聞かれたんじゃないの……」
「聞かれてない。絶対に聞かれてない」
 とフィラが否定する。
「分かったわ。私、伊織さんに直接聞いてくる」
 と言ってドサッという音がした。買ってきたうどんや朝食の入った袋を置いたのだろう。
 廊下を歩いて近づいてくる足音がすると、伊織の部屋の扉が開いた。
「伊織さん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
 と笑顔の雷が立っていた。   

2024年1月14日

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