悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

木曜日午前

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第5話 夢につながる道

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低層階マンション内にある会議室のような場所。シックで美しい扉は、その前にいた黒服によって開けられた。扉の向こう側、広がる光景に俺は顔を強張らす。
 
 パンッ、パンッ、パンッ
「あっ、んんぁっ! ひぃ! ぃ!!」
 
 バチンッ!  バチンッ!
「いいいいっ゛! ごめんなざぃっ! いだぁい!!!」
 
 ブゥゥゥンブゥゥゥン
「ンンンンンンッ! ンーーッ!!!」
 
 まるで昔ドラマで見た銀座のクラブのように、いくつかのソファとテーブルが並んでいる。
 その一つでは、芸能人が通う有名な学園の制服を着たキレイな顔の男の子が、おじさんとセックスをしていた。
 その一つでは、バニーガールみたいな恰好をした筋肉質な男性がその人より若い青年に長い鞭で叩かれていた。
 その一つでは、自分より幼く見える子が裸のまま口枷をつけられて、大人の玩具で責められていた。
 その他のテーブルでも狂乱が繰り広げられている。
 
 ただ、それ以上に心抉られることがあった。
 
「なんで……」
 
 キレイな顔の男の子は、この前有名ブランドの公式アンバサダーになった子だ。
 筋肉隆々の男性はボクシングの元世界チャンピオンでバラエティ引っ張りだこの人で、鞭打ちしているのはAI学習教材で億万長者になった社長。
 幼く見える子は、昔子役で一世風靡をした同い年の俳優で、最近ドラマで返り咲いたと言われている。
 あっちのテーブルはアイドルグループのラッパーだったけど、今はソロで活躍してる人が、あっちは大物政治家。
 イケナイコトをされている子たちは、今テレビ局の一線で活躍しており、イケナイコトをしている人達は権力を持った人ではないだろうか。
 
 上手い話には、裏がある。
 自分の身に降り掛かったものがなにか、俺は初めてそこで理解し始めた。
 
「さあ、私達の席に行こうか」
 
 キムジノプロデューサーにそう言われ、絶望しかけていた俺はハッと現実に戻される。まるで当たり前の光景だと言わんばかりに、一切動揺しないプロデューサー。もしかしたら、ここに何度も来ているのかもしれない。
 俺はとにかく、今は穏便に事を済ますために、どうにか会話を続けようと口を開いた。
 
「は、はい、あ、あの席はどのあたりですか?」
「左側の、後ろから二番目だよ。隣はイファンくんの席だ、よかったね」
「そ、そうですね」
 
 そう言ってさされた席。そこにはいくつかの箱が用意されており、一体何をされるのかと、体が竦む。しかし、その席に向かって歩き始めたプロデューサーの機嫌を損ねるわけにもいかないしと、歩幅を合わせて席に向かう。何が起きるかわからない。けれど、ここまで来てしまったのは自分の無知さだ。
 
 そう、ジウのため、グループのため、今は俺の役割を全うするしかない。
 
 席に着く前に、隣のイファン先輩を見る。イファン先輩は監督の欲望貪っている。それはたいそう欲望まみれな姿だった。
 
 席には、まず最初にキムジノプロデューサーが座る。座っていいかわからず待っていると、「殊勝だね、座ってここに」とプロデューサーの隣に座るように言われる。
 俺は戸惑いながらも、その隣に腰掛けた。
 目の前にはウイスキーと少し背丈が低いグラスが2つ、水が入ったバケツが用意されている。
 
「お酒の作り方わかる?」
「す、すみません、俺、未成年で……」
「ああ、そうだよね、じゃあ、今日は俺が自分で作ろうかな」
 
 そう言って、ささっと酒を作るプロデューサー。その横で俺はグラスに水を注いだ。軽く乾杯をし、水を少し口に含む。緊張からか乾いた口内に、この水分はよく染み渡った。
 
「どう? この会場すごいでしょ? 正直に話していいよ」
「正直、困惑してます。ここは一体……」
「セファンが顔役している、お食事会だよ。ここには:何をしてでも|夢を叶えたい子たちが来るんだ」 
 
「何を、してでも……」
 
「ああ、隣のイファンを見てみろ、もう正しく監督の情夫だよ」
 
 促されるように見たイファン先輩は、まるで犬のように四つん這いの体制で、監督を喜ばすために自ら激しく腰を振っている。
 
「そんぎぃ、にぃ! ぎ、もぢぃい! ぃい!」
「盛りすぎだぞ」
「いぐっ! ィぐぅ!」
 
 他人の性行為をここで初めてみたのに、あの少しワイルドな先輩が上擦った声で媚を売り続けている。視線を思わず彷徨わせた後、心決めてプロデューサーの方を見る。プロデューサーは俺をしっかり見ていた。
 まるで全てわかるかのように、じっくりと自分を見ている目だ。悪寒だろうか、ぞわりと体が震える。 膝に置いた手もぎゅっと力が入る。
 
「シグレくん、怖い?」
「……はい」
「でもね、これが芸能界で生きるってことだよ」
「そ、ぅな、んですか?」
「シグレくんもグループ売れたいでしょ?」
「は、ぃ」
 
 プロデューサーは、膝に置かれた俺の手の上に、手を置いた。じっとりとした人の温かさを持った手は柔らかく重くないはずなのに、まるで捕まった囚人の鉄枷のように重く伸し掛かるように感じた。
 
「私と契約すれば、それも簡単だよ。なんなら、デビューショーケースも、MVも、用意することができる」
 
 耳元で囁かれた言葉は、喉から手が出るほど欲しいものだった。
 
 
 
 
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