春夏冬エルフのお節介

招杜羅147

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5.待つ人へ㊤

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「ロスリエル、これを国境付近に届けてくれない?」
「は?」

出しっぱなしになっていた本類を全て棚に戻したところだった。

「国境…というと、今この国と争っているミャゼッティ国との国境線?」
「うん、危険な場所だとは思うけれど…ロスリエルなら行けるかなー? と思って」

行けなくはない。 人の子等は脆弱だ。 俺を傷つけるのは彼等には難しい。
だがエルフは人同士の争いに関与しない。

「参戦のお願いじゃないの。 …先日近くの集落の女の人が来てね、幼馴染の無事を知りたいって言ってたわ」
「へえ」
「次男坊だから一旗揚げるつもりで志願兵として行ったんだって」
「そんないいものじゃないだろうに」

戦場は華々しく輝けるような場所ではない。
糞尿と、血と臓腑の匂いがむせ返るほど立ち込める…今この瞬間にも、己も辺りに散らばる肉片の仲間入りを果たし得るような場所だ。
幼馴染がいる故郷を守ろうという気概は称賛出来るが、兎に角生き延びることが出来ないと、英雄にもなれないのだ。

「もうじきミャゼッティ国は撤退するわ」
「…何かしたのですか?」
「私が出来ることはささやかなものよ。 でも件の辺境にいる魔女は大魔女だからねぇ…」

戦争どころではなくなるような”何か”をしたのだろう。
シアは穏やかで付き合いやすいが、本来魔女というものは恐ろしい力の持ち主だものな…。

「で、これは軟膏と…木の葉? それから…この種は…」
「この軟膏は深い傷に有効なモノよ。 歩ける程度には回復できると思う。 葉っぱはコカの葉。 噛んでいる間は体の痛みを和らげてくれるわ。 1人1枚ね」
「帰路向けに特化した医療品なんですね」

治しやすそうな傷は、現地にいる治療師や介抱する者に任せるということだ。

「ところでその幼馴染の特徴は?」
「名前はラッゾで、砂色の髪、ハシバミ色の目で、ひょろっとしているそうよ」
「…複数の該当者がいそうな外見ですね」
「村から出征した若者なんてそんなもんでしょ」

金髪や青い目は日焼けする。 朝から晩まで畑仕事をしている農民の多くは、髪も目も日に焼けて黒ずみ、茶色っぽくなっていくのだ。

「…これは?」

軟膏と葉が入った革袋の中に鳥笛のようなものが入っている。

「それは1対しか作ってないからラッゾに渡してね」
「対ということは…もう一つは幼馴染の村娘が持っているわけだ」
「そうよ」

村娘は幼馴染の身を案じ、勇気を振り絞って皆が忌避する塔の魔女のもとにやってきたのだ。
商人の俺の対価は金や新たな魔道具が主だが、娘は願い事の対価に何を差し出したのだろう。
・・・まぁ他人の俺が詮索していいものではないな。

「ではこちらを預かります。 …種は遠慮なく使っても?」
「ええ、かまわないわ。 お願いね、私はここから動けないから」

魔女はその土地のマナと深く結びついている。 故にマナの領域を超えた移動は出来ないらしいのだ。
俺は革袋を掴むと、窓枠を蹴って空へ飛び出した。
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