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序章
遺跡
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父は言った。
世界には不思議なことがある。理由もわからずにそれを体験するのがワクワクすると。
母は言った。
世界には不思議なことがある。理由を辿りその答えを見つけるのがワクワクすると。
少年は思った。
いつか、世界の不思議を探しに行こうと。
◆
「どこだここ?」
貝塚耕作は、そう言って不思議そうに辺りを見渡した。
彼が眠っていたのはひんやりと冷たい石の台座の上だった。床に描かれた青い燐光を放つ幾何学模様が周囲をぼんやりと照らし出し、自分がどこかの遺跡の中に彼はいた。壁の壁画、女神像と祭壇のような物。よく見れば大理石のように輝く素材が年月で朽ち果てている。相当古い遺跡、それが第一印象だったが、砂埃や蜘蛛の巣などは見当たらないずに定期的に掃除されているようだった。
(―――なんで俺は…)
観察し終えた耕作は、自分の置かれた状況を思い出そうと額に手を当てて考える。
しかし、記憶が鮮明ではない。靄がかかったように何も思い出せない。
《―――見つけ出せ》
そんな中、小さな火花を散らすようにそんな言葉が頭を過ぎった。ここに来るまでに誰かに、誰か老人のような男にその一言を言われたような気がした。
だが、そんな老人に心当たりはない。いつも通り、高校へ行く準備をして自宅のベッドに横になる。何時もの何の変哲もないベッドだ。
それが、気がついたときには遺跡の台座に寝ていた。
服装は寝たときのまま。ユ○クロで買った薄い生地のステテコにTシャツ。もちろんそれ以外の持ち物は見当たらない。混乱する頭を落ち着かせようとするが―――。
「ま、いっか」
そう言ってあらゆる事を忘れて、ぴょんと台座から床に飛び降りた。
いまだ青く光っている模様を警戒もせずにペタペタと歩く。
貝塚耕作。日本の高校一年生であり、中肉中背、極々普通の少年だ。顔は悪くない。性格もさっぱりしている。話すと気軽に話せて女子からも悪くない評判を受けている。
が、とにかく軽い。
シリアスな状況を非常に軽く、他の人の気持ちを考えずに思ったままを言うので時々呆れられる。素直という美徳ではあるが、なんとも言えない残念さがある。
突然陥った状況でも彼は家に帰れないという不安は余りなかった。誰かの悪戯だろうで、すましていたのだ。外に出て道があれば、世界は繋がっている。壮大すぎる納得の仕方で気にも留めない。それよりも自分のいる場所にムクムクと好奇心がわいた。
遺跡内を歩き回りながらあちらこちらの物を不用心に調べる。インディージョーンズの映画のような仕掛けがないかを探し回る。出っ張りを押すと、秘密の扉に繋がるそんなシーンを想像して笑いながらしばらく探すが―――。
「何もないなー」
ひとしきり女神像と祭壇を調べ尽くすと彼は残念そうに息を吐いた。
残るは祭壇の反対側。燐光が届かずに暗い闇がぽっかりと口を広げている場所だけだ。 人間は本能的に闇を怖がる。だが、耕作はそこにも何も考えずに歩いて行き、暗闇の中を覗いた。
(あ、階段だ)
彼が見た先。斜め上の方向に微かな光が差し込んでいる。
真っ暗な暗闇だからこそ見えるような僅かな光り。それが縦に数条差し込んで、ぼんやりと石の階段が見えた。かなり長い階段だ。
耕作は、足下に気をつけながらその階段を上っていった。およそ100段。
そこまで上り詰めると僅かな明かりがハッキリとして、その場所が木の扉だとわかる程度には夜目が利くようになっていた。そしてまた何も考えずに鉄のノブらしきものを捻る。
「あれ?」
耕作は思わず声が出た。
ノブを回そうとしても、ノブは完全に固着して回せない。回してダメなら押してみろ、ということで直ぐさま押すが、ブチブチと音がして少し開くだけ。耕作は躊躇わずにそのまま突進した。
「おわっ!」
ブチブチブチ!と蔦のようなものが千切れる音が鳴って、彼は勢いよく外に放り出された。派手に転んでゴロゴロと地面を転がる。幸いにも地面は背の低い芝生だったので彼はむしろ楽しくて更にゴロゴロと転がった。
「やばい…芝生、気持ちいい…」
芝生の上に仰向けに寝っ転がった耕作は、りんりんと鳴く虫の音とそよ風にあたりながら草木の香りを吸い込んでいる途中で息を止めた。
「ってすげぇ!」
思わず大声を上げた。
空は満点の星空が広がっていた。街の明かりの下で見るよりも数十倍以上星の数は多い。あまりにも星がありすぎて、落ちてしまいそうなほどだ。
そして何よりも―――。
「月が二つある!」
月が二つあった。彼の見ている先には、薄い青色の大きな月と僅かに小さい赤い月が双子のように8の字を描いて寄り添っている。その地球では見ることもできないような幻想的な光景を彼は無心で目に焼き付けながら、ふと思い当たる。
ついでに、ポンと手を叩いた。
「あ、これってもしかして異世界?」
ようやく彼は自分の置かれた状況を理解した。
世界には不思議なことがある。理由もわからずにそれを体験するのがワクワクすると。
母は言った。
世界には不思議なことがある。理由を辿りその答えを見つけるのがワクワクすると。
少年は思った。
いつか、世界の不思議を探しに行こうと。
◆
「どこだここ?」
貝塚耕作は、そう言って不思議そうに辺りを見渡した。
彼が眠っていたのはひんやりと冷たい石の台座の上だった。床に描かれた青い燐光を放つ幾何学模様が周囲をぼんやりと照らし出し、自分がどこかの遺跡の中に彼はいた。壁の壁画、女神像と祭壇のような物。よく見れば大理石のように輝く素材が年月で朽ち果てている。相当古い遺跡、それが第一印象だったが、砂埃や蜘蛛の巣などは見当たらないずに定期的に掃除されているようだった。
(―――なんで俺は…)
観察し終えた耕作は、自分の置かれた状況を思い出そうと額に手を当てて考える。
しかし、記憶が鮮明ではない。靄がかかったように何も思い出せない。
《―――見つけ出せ》
そんな中、小さな火花を散らすようにそんな言葉が頭を過ぎった。ここに来るまでに誰かに、誰か老人のような男にその一言を言われたような気がした。
だが、そんな老人に心当たりはない。いつも通り、高校へ行く準備をして自宅のベッドに横になる。何時もの何の変哲もないベッドだ。
それが、気がついたときには遺跡の台座に寝ていた。
服装は寝たときのまま。ユ○クロで買った薄い生地のステテコにTシャツ。もちろんそれ以外の持ち物は見当たらない。混乱する頭を落ち着かせようとするが―――。
「ま、いっか」
そう言ってあらゆる事を忘れて、ぴょんと台座から床に飛び降りた。
いまだ青く光っている模様を警戒もせずにペタペタと歩く。
貝塚耕作。日本の高校一年生であり、中肉中背、極々普通の少年だ。顔は悪くない。性格もさっぱりしている。話すと気軽に話せて女子からも悪くない評判を受けている。
が、とにかく軽い。
シリアスな状況を非常に軽く、他の人の気持ちを考えずに思ったままを言うので時々呆れられる。素直という美徳ではあるが、なんとも言えない残念さがある。
突然陥った状況でも彼は家に帰れないという不安は余りなかった。誰かの悪戯だろうで、すましていたのだ。外に出て道があれば、世界は繋がっている。壮大すぎる納得の仕方で気にも留めない。それよりも自分のいる場所にムクムクと好奇心がわいた。
遺跡内を歩き回りながらあちらこちらの物を不用心に調べる。インディージョーンズの映画のような仕掛けがないかを探し回る。出っ張りを押すと、秘密の扉に繋がるそんなシーンを想像して笑いながらしばらく探すが―――。
「何もないなー」
ひとしきり女神像と祭壇を調べ尽くすと彼は残念そうに息を吐いた。
残るは祭壇の反対側。燐光が届かずに暗い闇がぽっかりと口を広げている場所だけだ。 人間は本能的に闇を怖がる。だが、耕作はそこにも何も考えずに歩いて行き、暗闇の中を覗いた。
(あ、階段だ)
彼が見た先。斜め上の方向に微かな光が差し込んでいる。
真っ暗な暗闇だからこそ見えるような僅かな光り。それが縦に数条差し込んで、ぼんやりと石の階段が見えた。かなり長い階段だ。
耕作は、足下に気をつけながらその階段を上っていった。およそ100段。
そこまで上り詰めると僅かな明かりがハッキリとして、その場所が木の扉だとわかる程度には夜目が利くようになっていた。そしてまた何も考えずに鉄のノブらしきものを捻る。
「あれ?」
耕作は思わず声が出た。
ノブを回そうとしても、ノブは完全に固着して回せない。回してダメなら押してみろ、ということで直ぐさま押すが、ブチブチと音がして少し開くだけ。耕作は躊躇わずにそのまま突進した。
「おわっ!」
ブチブチブチ!と蔦のようなものが千切れる音が鳴って、彼は勢いよく外に放り出された。派手に転んでゴロゴロと地面を転がる。幸いにも地面は背の低い芝生だったので彼はむしろ楽しくて更にゴロゴロと転がった。
「やばい…芝生、気持ちいい…」
芝生の上に仰向けに寝っ転がった耕作は、りんりんと鳴く虫の音とそよ風にあたりながら草木の香りを吸い込んでいる途中で息を止めた。
「ってすげぇ!」
思わず大声を上げた。
空は満点の星空が広がっていた。街の明かりの下で見るよりも数十倍以上星の数は多い。あまりにも星がありすぎて、落ちてしまいそうなほどだ。
そして何よりも―――。
「月が二つある!」
月が二つあった。彼の見ている先には、薄い青色の大きな月と僅かに小さい赤い月が双子のように8の字を描いて寄り添っている。その地球では見ることもできないような幻想的な光景を彼は無心で目に焼き付けながら、ふと思い当たる。
ついでに、ポンと手を叩いた。
「あ、これってもしかして異世界?」
ようやく彼は自分の置かれた状況を理解した。
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