雪に白鷺、罪に罰〜ひきこもりの僕が陽キャ弟の弱みを握った結果

Umika

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弟のこと

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 真雪まゆき夏尋なつひろは、周囲からよく似た兄弟だと言われていた。顔が似ているらしい。真雪のお下がりを来た夏尋と、四年前の真雪のアルバムの写真を見比べた両親は、そっくりだと言って喜んでいた。

 真雪と夏尋は四歳離れている。幼い頃の夏尋は、おとなしく内気な性格で、他人になかなか心を開かなかった。例外だったのが真雪だ。夏尋は真雪によく懐いていた。真雪が外に遊びに行くときは、夏尋は必ずついてきた。だから真雪は夏尋を仲間に入れてやって友人たちと遊んだ。
 家の中でも夏尋は真雪にべったりだった。どこに行くにも夏尋は真雪のそばにいたがる。真雪がトイレに行っても、トイレの扉のすぐそばで待っている始末だった。
 子どもの頃の真雪は、戦極輝戦記せんごくきせんきというアクションゲームが好きだった。夏尋も一緒にやりたがったので、家の中でよく二人で協力プレイをして遊んでいた。
 真雪が小学生から中学生のときは、真雪が夏尋の勉強を見てやることもあった。真雪は、年下の弟が慕ってくるのが満更でもなかったのだ。
 そうして仲がよかった頃、二人で同じ布団で昼寝をしているとき、夏尋がこっそり真雪に伝えてきたことがある。

「俺のお嫁さんは、真雪がいい」

 真雪はそれを聞いて、笑い飛ばした。兄弟だから結婚はできないと真雪は当たり前に弟に言った。
 夏尋はひどくショックを受けたような顔をして、二度とそういうことを口に出さなくなった。内気だから、強く指摘されるとしょぼんとしてしまうのだ。

 だから、真雪が思うに、夏尋は昔から少し変というか、思い込みの強いところがある。それで今回の奇妙な要求になったのだろう。

 真雪にべったりだった夏尋が変わったのは、夏尋が高校生の頃だ。それまで引っ込み思案だった夏尋が、モテ始めたのだった。
 夏尋は、他人から見て好ましい外見をしているらしい。同じような顔をしている真雪には驚きだったし、真雪が同じ歳の頃はそんなにモテなかった。
 周りからの扱いが変わったからか、夏尋はどんどん明るく外交的な性格に変わっていった。他人から好かれる外見をさらに際立たせるように、ファッションにも気を遣うようになった。
 真雪はそんな夏尋が、次第に苦手になっていった。真雪は、学校のクラスの中では地味で静かなほうだった。クラスの派手な連中を真雪はあまり好まない。夏尋は真雪の好まない方向へ変わってしまった。

 夏尋は高校生になって性格が明るくなってからも、最初は真雪と一緒にいたがった。ある日、夏尋に誘われて真雪が一緒に書店に行ってやったとき、偶然出くわした夏尋のクラスの学生が、夏尋たちに話しかけてきた。夏尋の友人たちは派手で、真雪は鬱陶うっとうしく感じた。その日の帰り、「もうお前とは色々と合わないな」と真雪が夏尋に伝えてから、真雪と夏尋の間に距離ができた。真雪は、夏尋はすっかり別の世界の人間になってしまったのだと思った。

 それから、夏尋が真雪より偏差値の高い大学の学部に合格したのと同時に真雪が就活で挫折ざせつして、いまに至る。ひきこもりの真雪に、夏尋は月三万円を渡している。
 真雪はSNSで、「収入源を得た!」と投稿していた。その投稿にいいねをくれたのはリノだけだ。素性の知れないリノだけが、真雪の投稿に律儀にいいねをくれる。

 真雪は当初、月に手に入る金が増えたことを嬉しく思っていた。だが、だんだん不安が芽生えてきた。
 ふと、この悪行が両親にばれたら、どうなるのだろうと真雪は考えた。きっと、両親は真雪をひどい人間だと弾劾するだろう。ひきこもりの時点で家族に迷惑をかけているのだ。真雪のやっていることを知ってショックを受けるに違いない。
 そうなると、真雪は家を追い出される可能性がある。働きもしない、くずな人間を養う必要はないからだ。いくら家族といっても、深く失望させてしまったら見捨てられるに違いない。
 真雪はこの先が恐ろしくなった。
 たとえ追い詰められて家を追い出されたって、真雪は自分が働けるとは思わない。働けなかったら、犬死にだ。

 死ぬのは百歩譲っていいとしても、苦しんで死ぬのは嫌だ。寒い中、誰にも顧みられず、空腹で力尽きる……その将来を想像して、真雪はぞっとした。
 自分でしたことのくせに、真雪は追い詰められる想像をして不安になっている。
 恐ろしくて、馬鹿らしかった。真雪が夏尋を脅していたはずなのに、真雪のほうが不安でいっぱいになっている!

 自業自得なのかもしれない。くずが落ちるべくして落ちていく。自然なことだ。
 真雪はいま、部屋のベッドで寝転がっていた。夏尋から月三万円をもらうようになってから、三ヶ月が経った。真雪は深呼吸をして心を落ち着ける。頭を切り替えたかった。

 自分がくずなのは変えられない。やってしまったことも、変えられない。ならば、悪行がばれるという最悪の事態に備えて、金をなるべく貯めようと思った。なにをするにも、まずは金がいる。備えがあれば、精神的な支えにもなる。

 真雪はふと思い立って、立ち上がった。
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