4 / 4
第一章「新学期」
4
しおりを挟む
彩との別れから二日後、玲香は学校で彼女と再会した。入学してから一週間以上が経過した月曜日。真新しい生活は、徐々に鮮度を落としていた。
「おはよ~、玲香!」
玲香が教室に入った瞬間、まるで飼い主を出迎える犬のような素早さで彩が飛び出してきた。その様子を見ていると、月曜の鬱憤などは吹き飛んでいった。
「おはよう! 彩、テンション高いね!」
輝かしい笑顔の彩にそう声をかけ、玲香は朝日が差し込む自身の机に向かった。リュックを机にかけ、彩の机へと向かう。二人は一昨日の出来事について改めて語り合った。
「あのひよこのやつ、棚の上に並べてみたんだけど……」
玲香はスマホを取り出し、一面が黄色で埋まっている画像を彩に見せた。
「え~! これ密集しすぎて、凄いことになってるじゃん!」
赤銅色のツインテールを揺らしながら笑う彩。彼女の笑顔は玲香にも伝播した。
「あはは! これ並べながら自分でもそう思ってたよ」
しばらく例の小物について話し合い、一段落した時、玲香の愉快さをさらに増幅させるような、思いがけない話が切り出された。
「あ、そうだ! ねぇねぇ、これ見て!」
彩は徐にスマホを取り出すと、それを玲香の眼前に差し出した。そこには『Ecstasy World』の文字が表示されている。玲香は濃紺の瞳を見開かせ、驚愕の声を漏らした。
「えっ! 『エクスタ』買ったんだ!」
このゲームは有料であるため、玲香がいくら布教活動を行ったとしても、実際に購入してくれる人はまず現れなかった。彩と、自分の大好きな物を共有でき、新たにできた共通の趣味に心を躍らせる玲香であったが、その時、無慈悲にも予鈴が鳴り響いた。
「じゃあ、また後で! いっぱい話したいことあるから」
そう彩に別れを告げ、自分の席へと引き返した。
席に着こうとした時、玲香の前方から薄灰色の鋭い視線が刺さった。その視線に気づいた玲香は、栗色の髪を持つ少女のかんばせに静かな怒りを感じ取った。いつもと違う彼女を怪訝に思った玲香は、椅子を引きながら声をかける。
「おはよう里奈、どうしたの?」
訝しむように濃紺の瞳を向ける玲香に対し、里奈はすんとした表情で返答した。
「なんでもない……」
明らかに『なんでもない』人の反応ではない。そう感じた玲香は、大切な友人を放ってはおけないと思い、里奈を慰めるように声をかけた。
「そうなの? もし何かあったら、あたしに相談してね」
――私たち『友達』だから。
その言葉を発した瞬間、里奈の表情が暗くなったのは気のせいだろうか。里奈はそんな顔のまま俯き加減で呟いた。
「……行きたい」
「えっ?」
小鳥のさえずりのような里奈の声に、玲香は思わず聞き返してしまう。今度は顔をあげ、薄灰色の瞳をこちらに向けながら発した。
「今度一緒に遊びに行きたい……」
憂いと羞恥を混ぜ合わせたような表情の里奈の唐突な申し出に、玲香は困惑した。もっと深刻な悩みを打ち明けられるかと心構えをしていただけに、玲香は少し安心した。シリアスな表情を一転させ、玲香は快諾する。
「いいよ! 今週の土曜日とかはどう?」
玲香の反応に、里奈は驚いたように目を見開かせた。
「……いいの?」
「逆に、なんでだめだと思ったの?」
玲香にとってはその方が不思議でならなかった。里奈の顔は、雲の隙間から太陽が顔を出したかのように、明るさを取り戻した。
「ありがとう……その日なら空いてる」
感極まった里奈は、玲香の質問に返答することすら忘れて喜んだ。そして、里奈はとあることを思いついた。
「あと……連絡先、交換しない?」
そう提案することに若干の恥じらいを覚えた里奈だが、待ち合わせには必要不可欠だと自身を納得させる。
(断られたらどうしよう……あまりに突然過ぎた?)
そんなネガティブ思考のスパイラルに陥った里奈であったが、その思考はすぐに打ち切られた。
「もちろん! あたしもそろそろ交換したいなぁって思ってたから」
里奈には玲香が天使のように思えた。彼女こそが、自分自身にとって必要不可欠な存在なのではないか。そんな大仰なことを考えたが、案外間違っていないのかもしれない。なぜならば、この感情のすべての根源は彼女なのだから。
連絡先を交換した二人は、各々の家で当日の予定を話し合っていた。
『ここ行かない?』
里奈から提案された場所は、奇しくも彩と訪れたばかりの商業施設であった。玲香は初め、別の場所を提案しようとしたものの、あの商業施設でまだ見回れていない場所があることに気づいた。それに一度行ったことのある場所だから、安心して楽しめるような気もしたのだ。
『OK』と書かれたスタンプを送り返し、それに既読が付いたことを確認すると、メッセージアプリを閉じた。
ホーム画面を眺め、無意識に『エクスタ』を起動させる。
「彩もやり始めたんだ……」
クラスメイトの友人が二人ともこれをやっていると思うと、なんとも嬉しい。
「今度三人で一緒にやりたいな……」
そんなことを考えながら、玲香は新章の攻略を進めていった。
「おはよ~、玲香!」
玲香が教室に入った瞬間、まるで飼い主を出迎える犬のような素早さで彩が飛び出してきた。その様子を見ていると、月曜の鬱憤などは吹き飛んでいった。
「おはよう! 彩、テンション高いね!」
輝かしい笑顔の彩にそう声をかけ、玲香は朝日が差し込む自身の机に向かった。リュックを机にかけ、彩の机へと向かう。二人は一昨日の出来事について改めて語り合った。
「あのひよこのやつ、棚の上に並べてみたんだけど……」
玲香はスマホを取り出し、一面が黄色で埋まっている画像を彩に見せた。
「え~! これ密集しすぎて、凄いことになってるじゃん!」
赤銅色のツインテールを揺らしながら笑う彩。彼女の笑顔は玲香にも伝播した。
「あはは! これ並べながら自分でもそう思ってたよ」
しばらく例の小物について話し合い、一段落した時、玲香の愉快さをさらに増幅させるような、思いがけない話が切り出された。
「あ、そうだ! ねぇねぇ、これ見て!」
彩は徐にスマホを取り出すと、それを玲香の眼前に差し出した。そこには『Ecstasy World』の文字が表示されている。玲香は濃紺の瞳を見開かせ、驚愕の声を漏らした。
「えっ! 『エクスタ』買ったんだ!」
このゲームは有料であるため、玲香がいくら布教活動を行ったとしても、実際に購入してくれる人はまず現れなかった。彩と、自分の大好きな物を共有でき、新たにできた共通の趣味に心を躍らせる玲香であったが、その時、無慈悲にも予鈴が鳴り響いた。
「じゃあ、また後で! いっぱい話したいことあるから」
そう彩に別れを告げ、自分の席へと引き返した。
席に着こうとした時、玲香の前方から薄灰色の鋭い視線が刺さった。その視線に気づいた玲香は、栗色の髪を持つ少女のかんばせに静かな怒りを感じ取った。いつもと違う彼女を怪訝に思った玲香は、椅子を引きながら声をかける。
「おはよう里奈、どうしたの?」
訝しむように濃紺の瞳を向ける玲香に対し、里奈はすんとした表情で返答した。
「なんでもない……」
明らかに『なんでもない』人の反応ではない。そう感じた玲香は、大切な友人を放ってはおけないと思い、里奈を慰めるように声をかけた。
「そうなの? もし何かあったら、あたしに相談してね」
――私たち『友達』だから。
その言葉を発した瞬間、里奈の表情が暗くなったのは気のせいだろうか。里奈はそんな顔のまま俯き加減で呟いた。
「……行きたい」
「えっ?」
小鳥のさえずりのような里奈の声に、玲香は思わず聞き返してしまう。今度は顔をあげ、薄灰色の瞳をこちらに向けながら発した。
「今度一緒に遊びに行きたい……」
憂いと羞恥を混ぜ合わせたような表情の里奈の唐突な申し出に、玲香は困惑した。もっと深刻な悩みを打ち明けられるかと心構えをしていただけに、玲香は少し安心した。シリアスな表情を一転させ、玲香は快諾する。
「いいよ! 今週の土曜日とかはどう?」
玲香の反応に、里奈は驚いたように目を見開かせた。
「……いいの?」
「逆に、なんでだめだと思ったの?」
玲香にとってはその方が不思議でならなかった。里奈の顔は、雲の隙間から太陽が顔を出したかのように、明るさを取り戻した。
「ありがとう……その日なら空いてる」
感極まった里奈は、玲香の質問に返答することすら忘れて喜んだ。そして、里奈はとあることを思いついた。
「あと……連絡先、交換しない?」
そう提案することに若干の恥じらいを覚えた里奈だが、待ち合わせには必要不可欠だと自身を納得させる。
(断られたらどうしよう……あまりに突然過ぎた?)
そんなネガティブ思考のスパイラルに陥った里奈であったが、その思考はすぐに打ち切られた。
「もちろん! あたしもそろそろ交換したいなぁって思ってたから」
里奈には玲香が天使のように思えた。彼女こそが、自分自身にとって必要不可欠な存在なのではないか。そんな大仰なことを考えたが、案外間違っていないのかもしれない。なぜならば、この感情のすべての根源は彼女なのだから。
連絡先を交換した二人は、各々の家で当日の予定を話し合っていた。
『ここ行かない?』
里奈から提案された場所は、奇しくも彩と訪れたばかりの商業施設であった。玲香は初め、別の場所を提案しようとしたものの、あの商業施設でまだ見回れていない場所があることに気づいた。それに一度行ったことのある場所だから、安心して楽しめるような気もしたのだ。
『OK』と書かれたスタンプを送り返し、それに既読が付いたことを確認すると、メッセージアプリを閉じた。
ホーム画面を眺め、無意識に『エクスタ』を起動させる。
「彩もやり始めたんだ……」
クラスメイトの友人が二人ともこれをやっていると思うと、なんとも嬉しい。
「今度三人で一緒にやりたいな……」
そんなことを考えながら、玲香は新章の攻略を進めていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる