友情+独占欲=愛情?

ろーすとびーふ

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第一章「新学期」

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 オリエンテーションの日の放課後、彩と連絡先を交換した玲香は、メッセージでのやり取りの末、駅前に新しくできた商業施設に行くことになった。そこには様々なテナントが入っており、一日中楽しむことも可能である。玲香は初めて行く場所に、期待を膨らませていた。

 約束の日の朝、玲香はいつも通り、朝のルーティンを済ませ、制服ではなく私服に着替える。この日の私服は、グレーのフレアスカートに白のニットセーター、その上に黒のブルゾンを羽織った、春らしいコーデである。
 朝の十時に待ち合わせをしている玲香は、家の近くの鎌ヶ崎駅まで徒歩で赴く。
 目的地である紫苑しおん駅には、電車でも数十分ほどかかる。その間も、電車に揺られながら彩と連絡を取っていた玲香だが、気が付くといつの間にか目的の駅に到着していた。

 改札を抜けた玲香は、駅前のロータリーで彩を待つ。
「お、玲香! お待たせ~!」
 後ろから唐突に声をかけられ、驚いた玲香だったが、声の主が彩であることに気づいて安心する。彩は、クリーム色のブラウスに、ブラウンのジャンパースカートという格好であった。いつものツインテールは変わらないものの、その容姿に新鮮さを覚えた玲香は、瑞々しい声音で彩に驚きを告げる。
「彩、バスで来たんだね!」
 てっきり、電車で来るものだと思っていた玲香に、彩はニコニコしながらこう言った。
「うん! 家、ここから近いから!」
「へぇ……毎朝大変そうだね……」
 高校がある鎌ヶ崎とは、数十キロ程度離れているため、毎日の通学のことを考えると尊敬するしかない玲香であった。
「ううん、電車使ったら一瞬だよ!」
 徒歩通学である玲香には、彩の言葉が信じられなかった。

 駅に隣接する商業施設に入った二人は、最初に雑貨屋に向かっていた。
「見て、玲香! これ、めっちゃかわいくない?」
「うわ、かわいいね!」
 店舗内に入るや否や、彩はデフォルメされた猫のかわいらしいキーホルダーを指さしていた。そして、その指をそのままキーホルダーに近づけ、二匹の猫を手に取る。
「これ、お揃いで買わない?」
 そう言いながら、玲香を見つめる彩。『お揃い』というものをあまり経験したことのない玲香だったが、彩との親睦の証にはピッタリであろう。そう考えた玲香は、頷きながら答えた。
「いいね、それ!」

 レジに向かい、二つのお揃いキーホルダーを購入した玲香と彩は、その足で階上のゲームセンターに向かっていた。
 ゲームセンターの入り口付近にあった、半球状の小型クレーンゲームを見つけた玲香は、彩に声をかける。
「ねぇ彩、このひよこのやつやらない?」
「うお! 数えきれないほどひよこがいる……」
 まるで黄色い海のように、ガラス球の中には大量のひよこの小物が入っていた。お金の投入口には、百円で十プレイできると書いてある。
「ひよこ、取り放題じゃん!」
「あたし、やってみるね」
 この価格設定に興奮を抑えきれない彩を横目に、取り敢えず百円を投入し、クレーンを操った玲香は、十回のプレイで七羽のひよこを手に入れた。
「案外取れないものなんだね……」
 もっと簡単に掬い上げられると思っていた玲香は、少し残念そうにつぶやいた。
「よ~し! 次はあやの番だ!」
 気合の入った声に玲香は苦笑いしたものの、その腕前には驚愕せざるを得なかった。
「す、すごい……」
 玲香と同じ回数しかクレーンを操作していないはずなのに、玲香の三倍以上ものひよこを掬い上げたのだ。
「えへへ、さすがに取り過ぎちゃったから玲香に半分あげるよ!」
 正直言って七羽でも十分であった玲香に、その倍ほどのひよこが手渡されたのだから、苦笑を禁じ得ない。
「ありがとう、彩……」
 受け取らないわけにもいかなかった玲香は、弱弱しい感謝を述べつつ、ゲームセンターを後にした。

 続いて二人が向かったのは、同じ階にある落ち着いた雰囲気のカフェであった。テーブル席に着き、玲香はカフェラテ、彩はカプチーノを注文する。
「いやぁ、さっきのはすごかったね」
 ゲームセンターでの出来事を振り返り、思わず彩に声をかけた玲香。それに対し、少し苦笑いしながら彩は答えた。
「実はあや、ああいうのが得意で、いつも取り過ぎちゃうんだよ……」
「へぇ……それは逆に大変だね……」
 クレーンゲームにおいて、取り過ぎてしまうという悩みを初めて聞いた玲香は、彩と同じような表情になった。
 その後、二人の注文した飲み物が来ると、玲香はカフェラテを口にしながらとある疑問を投げかけた。
「そう言えば、月曜日のオリエンテーションの時に、あたしにあんなに熱心に声をかけてくれたのって、なんでなの?」
 その問いを聞いた瞬間、彩のかんばせに若干の恥ずかしさが浮かんだ。カプチーノを飲む手を止める。
「えへへ、実は入学式の時の自己紹介で、『ああ、玲香とは仲良くなれそうだなぁ』って思ったからだよ」
(あの日の自己紹介のおかげだったんだ……)
 玲香の疑問も晴れたところで、二人はこれからの予定を話し合い始めた。

 日が傾き始めるまで遊んだ二人は、電車のダイヤ的に別れを強いられていた。満足が飽和している黒茶色の瞳に対して、玲香もまた同様の声音で告げた。
「本当に今日は楽しかった! また一緒に遊ぼうね、彩!」
「うんっ!」
 笑顔で大きく手を振る彩。それに負けじと、玲香も手を振る。駅の改札でちらりと振り返ってもなお、彩は手を振り続けていた。

 一人で電車に乗り込んだ玲香。先ほどまでの楽しさは、その余韻を残すだけだった。鎌ヶ崎駅に着くまで、玲香は今日一日を振り返っていた。
(彩と一緒にいると退屈しないな……これからも『友達』として仲良くしていきたいな……)
 玲香の中では、彩は『友達』としてかけがえのない存在になっていた。
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