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5 俺の居場所

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 アリシアと別れた俺は、城下町に戻るといくつかの店を見て回り、結局自分の家へと戻った。家、と言ってもアパートみたいに貸し出している部屋を借りてるわけではない。グラノ・ベーカリー、その2階部分にある使われていない部屋を間借りしているのが今の俺だった。カランコロンと音を鳴らして店の扉を開ける。店主である、ヘンドリック・フロマンが顔を上げた。

「いらっしゃいって、なんだトウセイか。今日は1日出かける予定のはずだったろ」
「その予定だったんですけど、用事が早く終わったんです」
「用事? ああ、遠くにいる友人に会いに行ってたんだっけか」
「え、友人……? あ、はい、そうなんです! 王都の外にいる人なんですけど、今日は早めに解散になっちゃって」

 魔女について、友人と説明していたのをすっかり忘れていた。俺は慌ててこくこくと頷く。ヘンドリックは「そうか」と頷いてから、「それはそうと帰って来たなら店手伝え」と笑った。

「トウセイ、おかえり!」

 俺とヘンドリックが話していると、店の奥から女性が一人顔を出した。エプロンを着て、手にはバスケットを持っている。彼女はマーサ・フロマン。ヘンドリックの奥さんで、城を出てから行き場のなかった俺を見つけてくれた恩人だった。

「ただいま、マーサさん」
「ちょうどいいタイミングで帰って来た! 今ね、新作に挑戦してたとこなの」
「新作、ですか?」
「ラスクだよ、ラスク。ほら、この前お前がアドバイスしてたろ? チョコレート液をかけるのはどうかって」
「ああ、あのときの! いや、アドバイスと言うか、ちょっとした提案だったんですけど……あの時の話、覚えててくれたんですね」

 マーサは、「まあね」と言って頷いた。マーサの作るラスクは美味しい。特に、パンの生地にチョコを練り込んだラスクは俺のお気に入りだ。少し前に、新しい商品について悩んでいたマーサに、新作のチョコラスクを出すのはどうかと提案したのは、本当にその場の思い付きだった。例えば、チョコを生地に使うんじゃなくてラスクにかけてと、元の世界で好きだったお菓子を思い出しながら提案したのだが、どうやらマーサはその時の話を覚えててくれたらしい。嬉しいと思うと同時に、普段は調理場にいるはずのヘンドリックが店番をしていた理由も納得がいった。

「マーサさんがラスクづくりをしてたから、ヘンドリックさんが店番をしてたんですね」
「まあな。お菓子作りはこいつには敵わないからな」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」

 俺たちは雑談しながら、マーサの作ったラスクを食べた。甘いチョコにサクサクのラスクがよく合って美味しい。見た目も可愛いし、かけたチョコの上に砕いたナッツを乗せたりホワイトチョコレートを使ったりとアレンジも効きそうだ。時たま訪れるお客さんに新作を振舞って感想を聞いたり、どこを変えればもっと美味しくなるか2人と話したりして、店が混んでくるおやつ時までの時間を過ごした。
 温かい2人に、優しい街の住人。きっとここが俺の居場所だ。
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