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15 訪問の決心
しおりを挟む橋の建設を調べるならば、向かうのは当然城である。あそこは王が住んでいるだけでなく、政治や情報の中心である。図書室もあり、工事や整備などの記録もあるかもしれないと思った。いかし、不安はある。それは___
(俺が訪ねても話を聞いてくれるだろうか)
俺は城を飛び出した人間である。直接文句を言われたことはないが、城にいる人で不満を持っている人がいても不思議じゃない。それに、これは予言に関することだ。予言の内容を知っているのは限られた人間のみ。後々のことを考えて、無暗に言いふらすのも避けたかった。俺の話を聞いてくれそうで、かつ予言の内容をすでに知ってそうな人物……そんな人がいれば。
(アリシアはだめだ。多分、予言については何も知らない。もっと、上の……)
思い浮かぶ人物がいないでもなかった。火事の予言について、俺と同じように調べている人間。もし、その人間に話したら、橋について調べてくれるのだろうか。
(でも……話したくない)
俺はもう、あの人とは話さないと決めたんだ。向こうだって、それは分かってる。きっと会話何て成立しないだろう。でも……もし、俺の他に橋がまだできていない可能性を考えている人間がいなかったら。それに、町の見回りをしている騎士団が、4店目のリサの店に気付いていない可能性もあった。事実、他の花屋の店に行ったときは騎士団がいたのに、リサの店の近くに騎士団はいなかった。もし、予言された店がリサの店だったら……騎士団は火事に気付くのが遅れてしまうんじゃないか。
(……今の時間なら、城にいる。事務仕事か、鍛錬か……)
できることをやるって決めたばかりだろ。俺は息を吐いた。向かうべき場所、合うべき相手は決まった。
*
何となく、朝から疲れが取れなかった。未だ解決の目途が立たない、火事の予言にストレスでも感じているのだろうか。剣を振って体でも動かそうと思ったが、残念ながら時間がない。グレンノルトは城の団長室で、背伸びをした。何をどうしたって目の前に積まれている書類は、自分が片付けなければなくならないし減りもしない。グレンノルトはただただだるかった。
コンコンコンと部屋の扉が叩かれた。
「入れ」
部下に頼んでいた仕事の報告だろうか。グレンノルトは眠気覚ましのコーヒーを啜り、手元に視線を落としながらそう答える。しかし、「失礼します」と返って来たのは、部下の声ではなく、意外にもメイドのアリシアのものだった。彼女が訪ねてくるだなんて、珍しい。そう思い、顔を上げたグレンノルトの思考は一瞬にして止まってしまった。
「ト、トウセイ様がグレンノルト様に御用があるとのことでしたので、お連れしました」
コーヒーを飲み切っていて良かった。多分、コーヒーが口の中に含んでいたらきっと吹き出していただろう。そう思ってしまうほど、グレンノルトは訪問者に驚き、そして混乱した。
「……事前に連絡も入れないままの訪問、すみません」
「いや、え」
あれか、自分は夢でも見ているのか。それか仕事のし過ぎでついに幻覚まで見始めたか。それなら、彼が俺に会いに来てくれるとは、なんて都合のいい幻覚だろう。自身の愚直さに恥ずかしくなる。それよりもだ。俺の脳みそが可笑しくなければ、現実にしろ幻覚にしろ、彼は今俺に話しかけていたはずだ。これは返事をしていいものなのか。いや、会話したくないわけではない。俺の方は、全然、むしろ、ラッキーみたいな……結局、空気を読んだアリシアが「お茶をご用意しますので、そちらの椅子にお座りください」とトウセイを促すまで、部屋には気まずい空気が流れていた。
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